1-11

「もう待ち切れねぇ、行くぞお前ら!」


おぅ、と猛々しい声をあげて痺れを切らした男共が校舎の入り口に攻め込んできている。


さぁ茶番はここからだ。


「まて、赤城、誰か出てくるぞ。」


「誰だテメェ!」


「自分らで呼んでおいて誰だはないだろう。」


「その金髪、その金の瞳そしてあの金のストール。間違いねぇ。お前は本物の…」


「そう、この国で唯一無二、天下最強、一歩けば草木も避ける。黄金の魂を背負いし者。金獅子とは俺の事だ。」


この一言を放った刹那、場に静寂が訪れた。まるで時が止まったかの様な錯覚に陥る。

目の前の集団もまさか本当に出てくるとはおもっていなかったのだろうか。

お互いに睨み合ったきり動かない。


このピリついた場面を切り裂いたのは


「構わねぇ、やっちまえ!」


毛根レッドだった。


よく見たら各々武器を手にしている。金属バット、メリケン、木刀、釘バット、鎌に鎖がついてて先に鉄球が付いてるやつ、一人相手に何て奴らだ。

ちょっとヤバイと思ってしまったがここで怯むわけにはいかない。


「ふっ、多勢に無勢かっこ悪いな。」


「うるせぇ!」


レッドが走りながら拳を振るってきた。それを身を翻してかわし、背後に回り込み首根っこをチョップ。


「うっ…」

どさっと、190センチはあろう巨体は地にに崩れ落ちた。


その一部始終を校舎の至る所で見ていた観衆がざわつきがら聞こえ始めた。


「赤城!くそお前ら怯むな行くぞ!」


緑、青、オレンジ、今度は3人がかりで襲いかかってくる。


「おいおい、俺は一人だぞ、お前らに男としてのプライドは無いのか?」


「勝てる相手ならそうしてるさ。さあ行くぞお前ら。」


青の指揮に煽られ、残りの2人が俺の横に回り込み手に持っている金属バットと釘バットで同時に振りかぶる。


「ったく酷いな。」


瞬間的に地面に突っ伏しバットを避けた。

すると、グワーンと音がした。


「うわっ、腕が…。」


「いってぇ!」


バット通しがぶつかり合いお互いに腕を痛めていて動けなくなっているところを、すかさず立ち上がり二人の首筋をストン。


「うっ…。」


「あっ…。」


先程と同じ様に倒れる二人。


「この野郎!」


仲間をやられ激情してきた青がメリケンをはめた拳で殴りかかってくる。


「遅い。」


飛んできた拳を裏拳で弾き、バランスを崩したところで、弁慶の泣き所を全力で蹴った。


「うぁぁぁ!」


脛を抱えてわめいてるところに首根っこをアタック。


「ふぁ!」


残るはあと3人


「次はどいつだ?」


「…。」


無言で黒いのが木刀を構えて突っ込んできた。

「がはぁ!」

しまった。完全に不意を突かれ腹部に木刀の矛先がめり込む。そして流れるような動きで追撃がくる。


「…許さない。」


ヤバイこのままじゃ直撃する。まじヤバイ。何か手はないか?てか胃液が逆流してきて思考か働かないヤベ吐きそう…。


「おぇっ!」


口の中のありったけの胃液と唾液を顔面めがけて吹き出した。


「目が!目がぁ!」


木刀を地面に落とし両手で顔を押さえている。

そこをすかさずストン。


「…。」


無言で臭い顔面のまま倒れる黒。


「なかなか見所がある奴だったぞ。さてあと2人…。くっそなんだこれは⁈」


再び油断していたら体を鎖で巻かれてしまった。


「我が鎖鎌にひれ伏すが良い。我が名は紫原 茂雄。金獅子に勝利し、永劫の称号を手にするもの也。」


くっそめんどくさいやつ出てきたな…。


「なぁそこのカマ男、お前が強いのはようわかった。頼むからこれを外してくれ。お前みたいは強い男とは俺も正々堂々勝負して負けてみたいものだ。」


「ふっ、分かっているではないか。では開放してやろう。あとカマ男はやめてくれ。せめてわれのことは、そうだなデスサイズとでも呼んでもらおうか。」


そう言いなが近付いて来て鎖を緩めてくれる。

「分かったよ。助かったデスサイズ。後はゆっくり休んでくれ。」


「あは…。」


ストンと倒れたデスサイズさん。あと1人か。

この戦いが始まってからずっと俺から目を離さずずっと睨みをきかせていた黄色の髪の男。

滲み出るオーラから只者ではない雰囲気を醸し出している。


「後はお前だけだ。さぁ早く終わらせようぜ。」


煽ってみるがピクリともしない。ただ地面に転がっている自分の仲間をじっと見つめているようだった。


「来ないならこっちから行くぜ!」


実際この一発でくたばってもらったら困るのだが・・・。

全身全霊の力を込めて拳を黄色の頭に向けて放った。が、しかし。


「・・・。」


「がはぁ!」


無言のクロスカウンターが決まった。(俺に。)

「この野郎!」


今度は回し蹴りで再び頭部を狙う。


「甘めぇよ。」


繰り出した足は頭の横で曲げた腕で防がれ、そのまま足首を掴まれそうになったところをなんとか逃れた。

こいつなかなかやるな。やっぱりこの中で一番強いじゃねぇか。


「やっぱりお前は許せねぇ…。仲間の仇だ。思う存分味わってもらうぞ!」


黄色の目の色が変わった。完全に血走っている。


だがこれで良い。今の所順調だ。完全に煽れている。あとは…。


激しい拳のぶつかり合いが続く。もうここからは根性の勝負だ。

もはやお互いに立っているのがやっとだろう。そろそろ頃合いか。


「はぁはぁ、なぁひとつ質問しても良いか。」


「いきなりなんだよ!殺すぞ!」


突然の俺の質問に殺意をもって返してくる。

まぁその返答も想定の範囲内だ。再び言葉を続ける。


「お前らは何故俺を狙う。何故俺に固執する。お前らに何かした覚えはないのだが。」


その問いかけに黄色は一瞬だけ沈黙し、その両肩は震え、再び拳を強く握りなおした。


「覚えてない…だと。ふざけるなぁ‼︎お前のせいで俺たちは自分の居場所を無くしたんだ!元から狭い世界にいた俺たちにとって心の拠り所である場所をお前は奪ったんだよ!」


「奪った?」


「そうだ。赤城は当時の所属していたグループのリーダーがお前に負け、お前との賭け、真面目に生きていくという事を守り、そのせいでグループは解散。お前に再び挑もうと考え元グループのメンバーに声をかけたが、リーダーの負け様に怯え誰も協力しなかった。それが原因で1人孤立してまった。青井はそのリーダーとライバル関係にあった。突然ライバルがいなくなり、毎日毎日喧嘩に明け暮れて、身も心もボロボロになって自分を見失っていたんだ。見るに耐えなかったよ。小緑はそのリーダーの弟だ。兄に絶対的尊敬と信頼を置いていたあいつは、自分の理想であった兄を変えてしまったお前をとても憎んでいる。もう一度元のかっこいい兄に戻って貰おうとな!そのために血の滲むような努力をしているんだ。元々は不良でもなんでもない真面目な子だったのに。あいつも元の居場所から孤立してしまったよ。橙、紫原は学校でいじめられていてな。それを助けてくれた恩人があんただったんだよ。不良に絡まれていつものように虐められて、その時にあんたが助け出してくれたんだが、そのことで逆に学校全体から距離を取られるようになったんだ。あいつらに関わるとあの金獅子を呼ばれて締められると噂がたったんだ。それ以降の学校生活はとても聞いてられるもんじゃなかったぞ。黒羽は…、もういいじゃねぇか!全部、全部全部全部全部!全部お前のせいなんだよ!お前が俺たちの大事な物を引っ掻き回してくれたせいで全部狂っちまっんだよ!だから俺はお前を絶対許さねぇ!」


怒りのあまり涙と鼻水を垂れ流しながらに。



「そうか…。それは悪いことをしちまったな。」


「なんだよ!今更謝らやれたって全部遅いんだよ。」


「全くだな。今更許してくれなんて言ったりしない。だけどお前の気持ちも痛いほどわかるんだ。俺もやっと、やっと本当の仲間に巡り会えたんだ。心から信頼できる仲間を。だから俺は負けるわけにはいかな、ガハァ!」


「おい、お前…。何で血なんか吐いてんだよ。」


俺の口から出た赤い液体が周りに飛び散った。


「ガハァ!ゴホォ!はぁ、はぁ…。本当はな俺の体はもうダメなんだよ。かなり進行していてもうこの先長くはないんだ。そこでだ一つお前に頼みがある。」


「なんだよ。お前に頼まれるようなことなんかねぇよ。」


「いや、お前じゃないとダメなんだ。この俺と張り合ったお前なら…。なぁ。この金獅子の名前を受け継いでくれないか。」


「はぁ?何で俺が?」


「俺は残りの人生をあいつらと普通に過ごしたいんだ…。一方的な願いとは分かっている。だが、お前の方ももし俺がこのまま死んでしまったとしたらどうする?それで納得がいくのか?全員やりきれない思いとともに再び荒れだすのではないか?」


「それは…。」


「そしたらお前らの一緒に意味も無くなってしまう。またお前はひとりぼっちだ。」


「またって何だよ!俺の事なんか知らないくせにいい加減なこと言うなよ。」


「分かるさ。お前は今の俺と似ているからな。ずっと友達が欲しかったんだろ。それがお前が俺と戦うための理由、いや、口実だろ。」


「・・・。」


黄色は目を見開き口をあけ唖然としている。


「だからもう一度俺の話を聞いてくれないか。お前が金獅子になってくれれば、仲間はお前を見つける事が出来ないだろう。お前が一緒に行動してるとは考えないだろうからな。その代わり目撃証言を作らなくてはならない。だからお前が道を間違ってしまいそうな若者たちを導いてくれ。それが歴代の金獅子を継いできた者の使命だ。」


「使命…。」


「そうだ。だから俺は仲間との時間のために戦うのをやめる。お前は仲間との時間のために戦うんだ。ダチって大事だろ。」


しばしの沈黙がながれる。こいつなりに思うところがあるんだろうな。


「わかったよ。それで俺たちの絆が続いてくれるのなら…。俺はお前の提案を受け入れる。俺が金獅子になってやんよ!」


「話は決まったな。すまねぇ。お前には頭があがらねぇな。金獅子さんよ。ほら、受け取れ。歴代金獅子が継いできた金色のストールだ。お前なら絶対に似合うと思うぜ。」


そいつに向かって丸めたストールを投げ渡した。


「後は任せたぜ。4代目金獅子さん。」


「うるせぇ。さっさと失せな。」


その言葉を背中に浴びながら満身創痍の体を引きずり俺は校舎の中に戻った。

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