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「ぜぇ、ぜぇ、おまっ、お前足速すぎんだよ、あぁ脇腹いてぇ、ってか、突然どうしたんだよ。飛び出して。」


止める暇なく飛び出していってしまった彼女を追って校舎の屋上まできたのだが、全力で走って来たのでズキズキと横っ腹が痛む。


彼女の流した涙の量よりも俺のかいた汗の方が確実に多いと思う。


当の本人は転落防止の金網越しから、校門の荒くれ者達を見下ろしていてその表情は伺えない。


「ねぇ、私ってどんな風に見える。」


「どんなっていきなりなんだよ。」


「いいから答えて!」


突然口調を荒げこちらを睨んできた姿に呆気にとられてしまった。

俺の答えを待っているその瞳には、溜めきれなくなったのであろう涙が溢れかえっている。


ふぅと息を吐き心を落ち着かせてから彼女の方を向き直し、


「そうだな、ハッキリ言って迷惑な奴だったな。人から金借りるし、頭を割りそうな勢いで掴んでくるし、味気の無い弁当もってくるし。本当に面倒くさくて迷惑な奴だったかな。」


「そっか…。やっぱり私なんてここに居なくても良いんだね。友達だと思ってたのも私だけだったんだね。」


その口調そのものはいつもと変わらない朗らかなものだったが、彼女自身は涙を流しながら項垂れている。


「あのね。もう君ともこれで最後になると思うから、お話ししとくね。実は私ね…。」


そして次の瞬間…、


彼女のメガネと黒のお下げ髪が地に落ちた・・・。


「えっ…。」


あまりの驚きに言葉が詰まる。

風になびく淡く綺麗に輝く長い金色の髪。

それに劣らず、太陽の光を反射してまるで宝石のように光り輝く黄金色の瞳。そして透き通るような白い肌がその双方を引き立てている。

目の前には今まで見慣れていた地味で目立たないクラスに1人は居そうな量産型メガネ女子が居たのに、今、俺の目の前いる彼女はまるで、どこかの女神のような少女が立っている。


「これが本当の私。そして金獅子と言われる所以。この金色の髪と瞳。全国の猛者どもを蹂躙し、この国で頂点に立った者。それが私なの。」


その美しくも力強い瞳に、嘘を付いてる様ではない事が伝わってくる。俺の前にいるこの子こそ、彼奴らの仇なのだろう。


「私この高校に入る前は毎日毎日、強者との闘いに明け暮れていたの。最初のきっかけは年上の怖い男の人に絡まれていた友達を助けた事から始まった。私に負けてメンツが丸潰れだって。そう言って今度はもっと強い男の人がやってきた。今思うとそこで負ければ良かったと思うの。でも私は勝ってしまった。」


「なんでそこで勝負を受けようと思ったんだ。その頃なんて、年上の男の人なんて怖くて当然だろ。友達も助かってたなら、勝負する必要なんてないだろ。」


「その頃にはもう友達はいなかったんだ。私が血だらけになって戦ってる姿を見て引いたんでしょうね。次の日から私と話してくれなくなった。その時にね私は決めたの、今度はあんな無様な戦いはしないって。もっと強くなったら次にできた友達は私の前から居なくなったりしないって。だから私は学校にもろくに通わず己を磨くことだけに時間を費やしたの。」


何も言えなかった。気の利いたことも、相槌さえもただただ彼女の話を聞くことしか出来なかった。



「私への挑戦者は後を絶たなかった。その全て私は勝ってしまった。この国で一番強いと言われる人にも勝ってしまった。その事で私にはこの見た目と強さから金獅子なんて異名までつけられ、そして噂を嗅ぎつけたあんな人たちが名を上げようと一層多く私に挑んてくるようになった。」



彼女は遠い目をしながら続けてくれる。


「でも私は逃げたの。毎日毎日次々に挑んでくる挑戦者から、血生臭い日々から逃げたの。逃げて、普通の年相応の生活がしたかったの。普通に学校に通って、普通に友達とご飯たべて、普通に放課後お喋りしながら下校したりしたかったの。だから私は目立たないように、周りに馴染めるようにこの見た目を隠して一年過ごしてきたの。でもやっぱりダメだったみたい。」


ああそうか。こいつは…。


「私なんかが普通の女の子の暮らしをしようとしたのがいけなかったの。最初から住む世界がちがったの。」



こいつは俺によく似ているんだ。



「じゃあ私もう行くね。もうこの学校の人達に迷惑は掛けられないしもう耐えられないの。私に間違えられてひどい目にあってる人達を見るのは。」


今までの過去を捨て、本当に欲しいもののために、

彼女は逃げたんじゃない。挑んだんだ。

自分の知らない世界に飛び込んだんだ。

その結果は決して良いものとは言えないが、

彼女なりに普通の人を装う努力をしてきに違いない。辛い思いをしたに違いない。

それが報われないなんて…。


胸の中が煮えたぎるように熱くなり自然と拳を握る力が強くなる。


はぁ、と小さなため息がでる。

また昔からの悪い癖がでてしまいそうだ。


「じゃあね、君には1番迷惑掛けたね。あと石ぶつけてごめん。本当に今までありがと。さよなら。」


「待てよ。」


横を過ぎ去ろうとした彼女の手を掴み引き止めた。


「離してよ…。」


掴んだは良いが強い力で引き離そうとする。だがここで引くわけにはいかない。


「なあ聞かせてくれ。お前は本当はどうしたいんだ。」


「どうって、私はあいつらを追い払ってそして、」


「そして?そしてそのまま去ろうなんて思っているのか。折角今まで苦労してここまで来たのにそれを簡単に捨てるのか?諦めるのか?」


「だって、だって仕方ないでしょ!全部私のせいなんだから、全部、全部、私がわがままな事考えなかったら、こんな事にはならなかった。誰も痛い思いもしなかったの。だから私は、私は…。」


そう言いながら次第に彼女の腕に入ってた力が抜けてきた。


「本当に後悔は無いんだな。」


「後悔なんて…、そんな事今更。」


「本当のお前の気持ちを言ってみろ。お前が本当に望んでる事を、人の事じゃなくて自分だけの事を考えたお前の本当の気持ちを!」



俺は真っ直ぐに彼女の腫れた瞳を見据えて彼女の答えを待つ。


「本当の…気持ち…。私の…、本当の気持ち…。」


そう呟くと再び俯き、


「私は…たい。」


そして顔を思いきり上げ泣きじゃくりながら、


「私はここに居たい!もっともっとここに居たいの!もっと学校を楽しみたいの、折角友達も出来たのにぃ。これで最後なんて嫌だよぉ…。」


涙と鼻水を垂らしながらの彼女の魂を叫び、

これが彼女の本当の気持ち。確かに聞かせてもらった。これでこちらも踏ん切りがついた。


「分かった。後は俺に任せろ。」


「えっ?」


「いいから任せろ。お前はそこで大人しく待っとけ。」


「任せろってなんでそこまでしてくれようするの。私の事迷惑って言ってたのに。」


何を今更…。


「友達が困ってんだ。助けてやるのは当たり前だろ。あと友達ってのは多少の迷惑は許せるもんなんだよ。」


掴んでいた彼女の手をゆっくり離し、踵を返し屋上の出入り口に向かって歩き出した。


「ありがと…。」


後ろから小さい声で呟きが聞こえたが、くさいセイフを吐いた手前振り返ることが少し気恥ずかしい。


ドアの取っ手に手を掛けたとき少し気になったので彼女の方を見て見ると心配そうな顔でこっちをじっと見つめていた。


男ならここで緊張を解く一言でもかけてあげたほうが良いだろう。さて何て言おうか。


「その、アレだ。そんな心配するな。大丈夫だ。お前その方が可愛いぞ。」


そう言い放ち、逃げるようにその場を後にした。



昔から困った人が居ると見過ごす事ができない。どうにかしてでも助けてあげたいと考えてしまう。


本当悪い癖だよな。

そのせいで昔、一番大切なものを失ったのにな。


「さて、どうするかな。取り敢えず…。」


携帯を取り出し数少ないアドレス帳の中から目的の人物の名前を探し電話をかける。


プル、ガチャ「はーい、何々コウちゃんが掛けてくるなんて珍しいね、もしかして私と「なあ姉ちゃんちょっと頼みかあるんだけど…、」

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