1-8
「ねぇ起きて、起きっててば。起きて!」
「えっ、何。起きるから、てか起きたから、そんな本気で揺らすなって、吐く、吐く!」
意識を取り戻させてくれたみたいだが、もうちょっと良い方法は無かったんだろうか。馬乗りになって思いっきり体揺らすとか酷過ぎないだろうか。おかげでかなり気分悪い。うげぇ…。
もっとなんかあったでしょ。膝枕して起きるのをひたすら待つとかしてくれても良かったんじゃない。やっぱり甘酸っぱさのかけらもねぇ。
「なぁ、なんで俺ここいんの?確かバス停でなんか頭に当たって…。」
「さ、さあねぇ、わたし何も知らないよ…。バス停で倒れてたから、近所の公園まで運ばれたとかじゃないかな?」
ただいま我らは事件現場近くの少し大きめの公園の芝生の上にいる。今現在馬乗りにされているためか、遠目からおばさんの声で「やだね〜最近の若い子は」とか、女子高生風の声で「きゃぁぁぁ!」とか聞こえてきたので、通報もされかねないと思いメガネに早く降りるよう促した。
「お前がここまで連れてきてくれたことは分かった。でもお前急用ができたとか言ってなかったっけ?」
「あぁ、あれね。ちょっと忘れ物しただけだから。きっ、気にしないで…。戻ってきた時には倒れてたし、遠目に警察が見えたからこのままじゃ、御住君も連行されると思って連れてきたの。」
メガネの奥の目が泳いでいる。何処までが本当なんだろうか。まあ助けてくれたのは本当なんだろうな。
「そっか、ありがとな。」
「あっうん、てか、あの、そのー。」
なんだか決まりが悪いような感じで、照れてるのかなと思い可愛いところもあるじゃないかと考えてしまった。
「よし、じゃあ帰るか。バス停まで送ってやるよ。」
立ち上がり辺りを探すが、自転車が見当たらない。
「なぁ、俺の自転車どこ置いたんだよ。」
俺の投げ掛けからの答えまでの間にしばしの沈黙が出来た。なんだろう。すごく嫌な予感がするんですけど。
「あの、怒らないで聞いてくれるかな。」
「なんだよ?」
「えーと、さすがにわたしも男の人と自転車は同時に持てなかったですね。とは言って自転車を取りに来る暇は無いと悩んでいたときにですね。後ろから警察が来たのが見えたので、このままじゃ自転車から身元が判明すると考えたのですよ。そうすると至る結論はひとつじゃないですか。」
額から汗が流れた。さっきから俯き加減で目すら合わせてくれないし。なんだか嫌な予感がする。
「えーと。その、川に投げ捨てました。てへっ!」
「てへっ!じゃねぇよ!何してくれてんの!俺の自転車!」
「過ぎたことは良いじゃない。だってあのままだったら御住君も補導されてたんだよ。だったら自転車の犠牲は無駄じゃないよ。」
「こんにゃろう。」
確かに補導歴が着くよりかはマシだから、文句が言えない。
「あんさ、あの石ころお前が投げたんじゃないよな。」
「さぁ帰ろっか、今日は2人で歩いて帰ろうよ。帰りにタケノコのやつ買ってさ。」
話変えやがったこのやろう。
「ふざけんなよ。チャリの詫びに、きのこの限定味買ってもらうかんな。」
まぁ良いか、たまには歩くのも。先には歩いて行った彼女を追うように、ズキズキ痛む頭の左側を抑えながら、立ち上がり歩き出した。
ー
「たっだいま〜、コウちゃんたっだいま〜!」
「おかえり。」
俺の返しに返事がなく、どうしたもんかと思い目を向けると、ドサっとバックを落とし目を丸くした姉がリビングの入り口に立ち尽くしている。
「コウちゃんが…、コウちゃんがデレた!いつも冷たくあしらうだけなのに。本当にあなたコウちゃんなの?」
「ただおかえりって言っただけだろうが。姉ちゃんのデレの基準がわかんねぇよ。てかわかりたくねぇよ。」
毎日毎日やかましい姉が今日は一段と騒がしい。非常にうざいがここは目的のために我慢だ。
「なあ姉ちゃんちょっと頼みがあるんだけど。」
「わかったわ。今日は私と一緒の布団で寝たいのね。良いわ。たまには全力で甘えなさい。だって私はコウちゃんの姉だからね。ドンと来い!」
「ちっげぇよ。ちょっとは人間としての常識わきまえろよ。この歳で姉と寝たいってやつなんてよっぽどだよ。」
「よっぽどなんでしょ。さぁ昔みたいにドンと来い!」
「ドンと行ったことねぇよ!違うって言ってんじゃねぇか。頼みってのはちょっとお小遣い前借りしたいなって思って。頼む2ヶ月分貸してくれ。」
「どうしよっかなぁ。」
このクソ姉、自分の立場が上になった途端態度変えやがったよ、。すごくニヤニヤしだしやがった。何を言い出すつもりだよ。なんか寒気がするんですけど、
「そうだなぁ。それじゃまず、お風呂沸かしてもらって、背中も流してもらうかな。そのあとは私が浸かってる間にハンバーグとカレーを作ってもらって、そして私にアーンして食べさせてもらって、食器は私が洗うから、その間に私の部屋でお布団を温めてもらって…、ってコウちゃんどこ行くの?まだここからよ、ここからが良いところなのよ。ねぇなんで、自分の部屋に向かってるの、ねぇ、お小遣い欲しいんでしょ。だったら…
バンっと音を立て自室のドアを閉めた。
あ〜あ、当てが外れたし、バイトでもしようかな。
部屋のドアをバンバン叩く音を聞きながら、眼を閉じた。今日は疲れたからよく眠れそうだ。
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