1-6
「ねぇ、今日は帰りに寄り道して行かない?私放課後友達どこか寄ってみたかったの!」
先日に引き続きこんな事を言い出しやがったこのメガネは。
「悪い。俺今日自転車なんだわ。だからパス。」
「えぇ〜、そうなの〜。じゃあ証拠に鍵見せて。」
「なんの証拠だよ。ほら、ちゃんとあるだろ。」
ポケットから取り出した鍵をこいつの目の前にわざとらしく突きつけた。こいつのメガネに反射して映るくらいの距離に。
そして流れるような動きで彼女の右手が鍵を奪い、そして今現在通学鞄の中に閉じ込められている。鞄に鍵まで掛やがって…。てかあの鍵使ってる人初めて見たよ。
「これで一緒帰れるね。」
「これでじゃねぇよ。なんてことしてんだよ。…しゃあないな、帰ってやるから鍵は返せ。」
「本当に?」
はぁ…。めんどくせぇ。
この後説得するのに30分かかり、昨日の駅で落ち合うことにした。
ー
この県最大の駅であるここはショピングモールと一体化しており、休日なんかは人がごった返している。絶対行きたくない。
だが平日のこの時間はちらほらと学生がいるだけでかなり空いている。
「わぁ、初めてこっち入った!すっごい広い!ねぇどこ行く?」
のっけからテンションマックスだなおい、
「何かみたいものとかあるのか?あれば連れてってやるけど。」
「そう?じゃあ…、」
ー
「んーやっぱいっぱいあって悩むなぁ。ねぇ、どれが良いと思う?」
「俺的にはこれかな。春の新作だってよ、これにすれば?想像するだけで涎が止まらなくなる。」
「そっかそれにしようかな。私買ってくるよ。」
そう言って彼女かレジに並ぶの後ろ姿を、待ちきればかりにみつめていた。
早く貪りつきたい。ここに来た時からもうだめだった。限界だった。まさかこんなに欲しがってしまうとはな…。
「お待たせ。買ってきたよ。」
「早く!もう我慢出来ない!」
「だめ、ほら早く場所探して。」
そして周りから目立たない所に二人で座る。
「じゃあいただきます。」
「どうぞ召し上がれ。昨日のお礼だからね。」
包まれているものをめくり、かぶりつく。やっぱり暖かいな。この感じたまらない。
思った通り美味しいな。
「おいしいね〜。この桜でんぶバーガー。」
「あぁ、CMで見た時からずっと食べたかったんだよ。やっぱりあたりだったな。」
というわけでここは地下のフードコート。
先ほどの会話で「そう、じゃあ私お腹すいたからなんか食べたい。」と言われ今にいたる。
ここに着いたあたりから匂いにやられ、こちらのお腹も空きだしてしまいこのザマである。
「腹ごしらえも済んだし、次はどこ行く?」
「そうだねぇ。私…、あっ、」
メガネはいきなり下を向いて黙り込んでしまった。
「なんだ?どうした…ってただのヤンキーじゃないか。もしかして知り合いか?」
振り返った俺の目に入ってきたのは色とりどりの頭をしたカラフルレインボーヤンキー集団だった。7人中6人は下げ過ぎた制服からパンツが見えている。汚いもん見せんなよ。
「しっ、知らないよ、じゃ私もう帰るから。じゃあまた明日ね。」
そう言うと立ち上がり、鞄を抱え走って行ってしまった。
「なんなんだよ…。」
残された俺と机の向いにある食べかけのハンバーガー。
周りから見たらどう思われるだろうか。
せめてオシャレなカフェにすれば良かったかな。
俺も早く帰るか。
「ったく。本当にこの辺りにいるのか。」
「間違いねぇよ。いくら手をかけて探したと思ってる。地元の奴ら片っ端から訪ね廻ったんだぞ。しかも他の地区は探し尽くした。後はこの辺りだけだ。」
「あぁ、くそ!金獅子の野郎絶対ぶちのめしてやる!今度こそ負けねえぞ」
「威勢の良いのは良いけどこの間みたいに間違えるなよ。金髪ってだけで襲いかかるのはいい加減にしろよ。」
担任が言ってたのってこいつらのことかよ。
横目で声の方を向くと一段後ろの席に3人ヤンキーレッド、ブルー、イエローが座っていた。
残りのグリーン、ブラック、オレンジ、パープルがそれぞれフードコートのカウンターに並んでいる。
「あ〜、かったり〜、おいお前マルボロよこせ。」とレッド。
「しゃあねぇな。ほいっ。」と差し出すブルー、
「そろそろ自分で買えよな。」とイエロー。
「はいはい。わかったよ。」と煙をふかすレッドと他二人。
「ちょっと君達未成年だよね。ちょっと来てくれるかな。」と警官
「…。」無言で歩く後ろ姿が寂しそうな3人と得意げな警官。
「帰るか。」
とゴミ箱に包み紙を入れ、お盆を返し、彼らの事を振り返らず帰路に着く俺であった。
うっ、流石に2つは食い過ぎたな…。気持ち悪…。
ー
翌日
「やっぱここが落ち着くなぁ。」
昼休み。駐輪場近くの特別棟の裏口の階段。
人通りがまるで無いここで昼飯を食べるのが去年からの習慣である。最近は雨で全然来れてなかったからな思いっきり羽を伸ばそう。
「いただきます。」
「こんなとこにいた〜。探したんだよ。」
「おっおう…。」
このメガネ何故ここが分かったのだろうか…。
「人が飲み物買いに行ってる間にいなくなるし。はいこれ、昨日帰っちゃったからそのお詫び。」
黒髪眼鏡さんから紙パックのコーヒー牛乳を受け取った俺は会釈をし、すこし詰めて、座るように促した。
「ありがと、今日も一緒に食べよ!ご飯持ってきたから!」
こいつが言うのは本当にごはんだからなぁ。
「悪い今日は弁当があるんだ。だから…。」
弁当箱を開けると同時に思わず絶句してしまった。
「うわっ⁈御住くんそんなにシャケ好きなの?」
そうその中には、箱いっぱいに詰め込まれた焼きジャケ。何かの間違いだろうと思い下の段も確認。
「どっちとも同じだね。これが今のシャケ弁なの?」
こんなシャケ弁あってたまるかよ。
くそ…。姉のやろう、珍しく作ってくれたと思ったらいったいなんの拷問だよ。しかもなんだよこの端っこにあるイクラは、殆ど潰れて皮しか残ってないし…。
「悪い…。やっぱお前の弁当が必要だわ。」
「どうぞ召し上がれ。」
今日、この日ほど白飯のありがたみを感じたことはない。あぁ、ごはんとオカズあって初めてお弁当なんだな。何だか目頭が熱くなってきた。
「本当にお前が居てくれて良かったよ。」
「そっ、そう?それは…。その、うん…。」
弁当というか、白飯の食べながらもぐもぐというか、もごもごしてる。
たららーんららたららーんたら、たらたらたららんらら
この学校特有の変な予鈴が鳴る。どうも校歌を元にしているらしいのだが、その面影がどこにも無い。はっきり言ってよく分からない奇妙な音と化している。
「よし、そろそろ教室もどるか。飯ありがとな。あと飲み物も。助かったよ。」
「よしてよ。全部勝手にしたことだから。それにシャケ半分もくれたし、こちらこそありがとうだよ。」
そう言って弁当をしまい、身支度を済ませた俺たちは、教室に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます