1-5
「はーい。終礼終わり。それと最近金髪の男が襲われる事例が多発しているから気をつけて帰るんだぞ。」
担任の気だるげな締めの挨拶を機に皆各自教室から出て行く。
俺もその波に乗るつもりで、いつもの通り教室を出ようと席を立った。
の筈だった。その筈だったのに再び俺は席に着いている。
「えっ…?」
何がおきた?今の現象に脳がついていかない。
それどころか今度は左肩からものすごい痛みを感じる。
「痛たたたたたたっ!」
「ねぇ御住君一緒帰ろうよ。友達でしょう‼︎」
振り返ると満面の笑みのメガネと俺の左肩を掴んでいるこいつの左手が目に映った。
「わかった!わかったから!その手を離してくれ。折れる!折れるぅ!」
ー
「おい、急げバス来ちまうぞ。」
「待ってよ~!歩くの早すぎるよ。」
「チッ、仕方ねえな。」
そう言って無言で彼女の手を掴み走った。
「もう~、せっかちなんだから〜。」
彼女も満更では無いような少し嬉しそうな顔をしていたのは俺の気のせいだろうか。
ずっとこの手を離さないでいたくなる。彼女はどう思っているのだろうか。そんなこんな考え出したら胸が熱くなったり、締め付けられる様な感覚に陥ってしまう。
ったくこれだからスクールライフはやめられないぜ!
って感じのリア充バカップルを後ろから眺め、我ら
非リア充ぼっち、友達以下恋人以下知り合い未満の2人はバス停を目指し黙々歩いていた。
「あのね…。」
「何だよ。」
「いや…、何でもない。」
「そうか…。」
沈黙
学校を出てからこれを5回は繰り返している。
本当に何なんだろう…。
誘ってきた割には教室を出た途端からずっと下を向いているし。俺が喋りかけると「あっ、うん…。」としか返してくれないし。そろそろこのギスギス感が胃に来そうだ…。
あと一角曲がればすぐバス停である。
やっと少しは楽になれると内心ホッとした。
バス停のベンチに座ってスマホでもいじっていれば少しでも気は紛れさせれるはずである。無言で隣に居られても多少は楽な気がする。
「あのね!御住くん!」
「だあ!」
いきなり大声をだされたもんだから、曲がり角の角に頭をぶつけてしまった…。超痛い…。
「急になんだよ。」
「あのっ、そのっ、えーと、簡潔に言いますと…。お金貸して下さい。」
「はい?」
只今バス車内
「あの、実は私今日、財布忘れてお金なくてさぁ、でもそしたら一緒に帰れないってことに学校出るとき気付いてー、だから助かったよ!」
だからさっきから考え込んでたのか。普通遠慮して借りないと思うんだけどな。
「こんな友達を持てて私は嬉しいよ。」
「俺は複雑だよ…。」
今更だけどこいつの友達への固定概念どうなってんだろうか。
「あのさ…、私思うんだけど…。」
「なんだよ唐突に。」
「うちの担任さ、ぜったい英語の若松先生のこと好きだよね。」
メガネの一言に一瞬車内がざわついた気がした、
「そうなの?」
「きっとそうだよ。この前なんかあの担任、若松先生を見る目が違うもの。」
「そうか?特にそうは思わんけれど。」
「君は良く見てないんだよ。全校集会の時とか、目のやり場がなくて仕方なしに先生の方を見続けてる私が言うんだから間違いよ!」
「それもどうかと思うけど。まあ俺も人のこと言えないけど、よくあの校歌の歌詞とか見ちゃってるけど。どんな気持ちであんな楽曲作ってんのか気になってるんだけど。」
どうもあの整列前のガヤガヤ感嫌いなんだよな。どの方向見ても仲よさそうに話ししてるし。あの居場所のなさったら無いよな。
「今度見てみなよ!結構楽しいよ人間観察!」
「いや…、遠慮しとくよ、と言うかあの若松って子持ちで結婚してんじゃないの?」
「えっ、そうなの?まだ若いのに…。でもそういう昼ドラな感じ嫌いじゃない。」
「若いって言っても学校内だけの話でそんな若くないだろ。昼ドラって…。勝手に決めつけるな。迷惑だと思うぞ。」
「いや若松先生1番わかいでしょ。だって今年はい…、」
《次は〜中央駅〜中央駅。お降りの方は…》
バス内にアナウンスが鳴り響く。
「あっ、私ここだから、今日は一緒に帰ってくれてありがとう。また明日ね!」
まだバス停に着く前に降り口まで彼女は行ってしまった。意外とせっかちさんなんだな。
バスが停車し、扉が開いたと同時に、前に詰まった人たちが吐き出されていく。もう俺は彼女の姿を完全に見失ってしまっていた。
次第に詰まっていた人は居なくなり、最後一人が精算を済ませている。彼女はもう降りたのだろう。それを確認したかった。
《ドアが閉まります。ご注意くださ「すみません!降ります!」
なんだか俺もここで降りるとか言いずらかったんだ…。
あと、降りる時に気付いたのだが、運転席の後ろの席に少し猫背になって下を向いてる担任が座ってたんだ。
今日は早く帰る用事でもあったのかな。取り敢えず見ないふりして俺はバスを飛び出した。
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