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まだ寒さが残る4月中旬
通学中のバスに揺られ、イヤホンで音楽を聴きなながら外の景色を見ている。
「今日も雨か…。」
いつもは自転車なのだが、雨の中合羽を着て疾走する元気など無く、こんな日はバスで行くことにしている。だって濡れたくないし。
最近は気温の変化のおかげで天気も崩れやすくなっており梅雨でもないのに一週間以上雨が続いている。
「次は高校前、高校前。」
車内にアナウンスが鳴り響く。それと同時に降車支度をしだす人たちが目に付く。
制服からして同じ学校の生徒だろう。
かく言う俺もここで降りるので支度を始める。財布から運賃を出そうと開くと残念なことに気がついた。
「小銭がない…。」
電子マネーやら、icカードの時代に取り残された弊害がここに現る。
しょうがない…、両替しにいくか。
大きなため息と共に重い腰を持ち上げ改札へ向かう。
「すみません…、ちょっと前失礼します。」
やや混んでいるバス内の乗客をかき分け、やっと改札までたどり着いたのだが、両替には先客がいたようで、黒い目出し帽をかぶった男が両替機越しに運転手と何か話している。というか揉めている感じかな。
「俺の言うことが聞けねぇのか!」
「困ります。お客様。他の方のご迷惑になりますのでお下がり下さい。」
なんか不穏な会話が聞こえるのだけど…。
てか早くどいてくれないともうバス停に着くんだけどな…。
焦る気持ちに歯痒くなり、チッと舌打ちをしてしまったその時、突然男が振り返り大声で叫びだした。
がイヤホンしていたのでいまいち聞き取り辛い。見た感じなんかすごい怒ってるし。なんかものすごい険相で俺をにらみつけているし。
「あの。なんですか?ちょっと次降りるのでそこ退いてもらっていいで…、」
パァーッン!
まるで銃でも撃ったかのような音がし、それと同時に自分の頬から何か滴ってくるのを感じた。
「血?、なんで?…。」
バス内には悲鳴が響き渡っている。
何だ何が起きている。
「お前何様だ‼︎どいつもこいつも俺をなめやがって!このバスは俺が乗っ取ったんだ‼︎
死にたくなかったら大人しくしてろ‼︎次は心臓を撃つぞ‼︎」
男は手に銃を構えて、こちらに向かって銃口を向けている。先程の弾で頬をかすめられ左頬が焼けたように熱い。それと同時にイアホンまで線を引きちぎられてしまい、お陰で男のやや震える声と乗客の悲鳴がよく聞こえる。
うわぁ…、めんどくせえなぁ、っていうか頬が超痛いんだけど…。
「おい、おっさん。もうそういう良いから、早く退いて、もう着いちゃうじゃん!」
「うるせぇ!!死ねぇ!!!」
再び男は引金を引く。
一、二、三、四、五回先程と同じ耳を劈く大きな音が車内に響く。
左手首、右足、腹部、胸部、顔面の順にその全てが俺の体に命中する。
立ち込める硝煙の薫り、車内を埋め尽くす悲鳴の数々でバスの中は満たされていく。
「お、お前が悪いんだぞ!俺の事を馬鹿にしやがって !」
弾は全弾命中、衝撃で俺の身体は背中から床に倒れた。視界には驚愕したような顔をした乗客とチカチカと光る切れかけの車内灯が映る。
素直に言うことを聞いていればし…死ななくてすんだものを…。」男の震えた声と激しい息遣いだけが静かな空間に広がる。
「お前らもこんなになりたくなければ、俺の言うことに逆らうな‼︎さもなくば…
「おっさん、痛いんですけど…。」
痛みが残る身体を無理やり起こすと、男が唖然とした表情で立ち尽くしていた。
「なっ、なんで生きてるんだ…。確かに弾はあたったはず…、」
立ち上がり、男に一歩又一歩と近づく
「っいたたたた…。細かいことは良いじゃん。さあ次はどこを撃つ?心臓?脳天?」
近づく毎に男の顔が徐々に青ざめていくのがわかる。
「さぁこい。あんたの好きなところに撃てよ。」
男まで後一歩のところに来た時
「さぁ!」
「くっ、来るな化物‼︎」
男が銃を俺の額に当て引き金を引いた。
が、銃はカチャと音をたてただけで一向に銃弾はでてこない。
「くそっ、くそっ!」
男は諦めもせず俺に銃口を向け何度も空撃ちし続ける。
「残念でした。」
「高校前〜、高校前でございます。」
バスが停車し、アナウンスが流れた。
それと同時にバスの扉が開き、何人かの制服姿の人が勢いよく車内に入ってくる。
「警察だ!殺人未遂、傷害及び、業務妨害の現行犯で逮捕する!」
それから男が連行される一部始終を眺めてから俺は小銭に崩そうとふたたび両替機に近づくと運転手さんが、
「君のおかげで助かったよ。お代は結構。本当にありがとう。」
あれ?俺なんのために撃たれたんだろう?
「うす。」と返事だけして車内を出ると、先ほどの警察の一人が話しかけてきた。
「公一君。今回も助かったよ。怪我はなかったかい?」
「怪我は無いけど、壊れた物全部弁償してください。」
「わかったよ…。で、何を壊されたんだい?」
「腕時計、イヤホン、スマホ、mp3、ベルト、メガネ、生徒手帳…。」
「相変わらず君はすごいな。全弾所持物に当たって外傷をまのがれるなんて。わかった、なんとかしよう。おかげで怪我人は1人もでなかったしな。」
「外傷は無くても衝撃はかなりきつかったですよ。てか、なんで刑事さんはバス停にいたんですか?」
「このバスの運転手から連絡が入ったんだよ。高校生がバスジャック犯の気を引いてくれていると。で、たまたま私達がこの辺りで春の交通安全運動を行っていたから駆けつけられたというわけだよ。」
「すみません。質問を間違えました。なんで雨の日はいつもこのバス停にいるんですか?」
「いやぁ、たまたまだよ。」
胡散臭…。
「そうですか。また手柄あげれてよかったですね。その調子でまた出世でもしてくださいよ。」
精一杯の皮肉を込めて言ってやった。
「ああ、本当に君のおかげだよ。ありがとう。これはお礼だ。ではアディオス!」
効果は今ひとつだったようだ。アディオスって…。
刑事さんは俺の手に何かをつかませ、颯爽と去っていった
「千円札…。」
お礼にお札もらっちゃった。
そういえば昼飯無かったな…。コンビニでも行って買うか。
まだ雨の降り続く、濁った色の通学路を、傘を差し、靴を濡らしながらビチャビチャと音を鳴らし歩き出した。
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