第74話 消え行く友、愛しい人
翌朝、目を覚ました梓達は、色々と気になることがありながらもまず、真っ先に自分たちのすぐ傍で倒れていた美咲とレオの姿に気が付いた。
すぐに身体を起こして美咲たちの元へと近付き、様子を確認し始めた。
身体を揺らしたり声を掛けていると、まずレオが目を覚ました。
しばらくぼんやりとしたままだったレオだったが、意識がはっきりとしてくるといきなり身体を起こすと、美咲を探し始めた。
とはいっても、すぐ傍で寝ているので特に動き回ることも無く美咲に覆いかぶさるように覗き込んでいた。
しかし、レオも負傷しているせいか顔を思い切り歪めていた。
「レオ、とりあえずは美咲も大丈夫そうだし、お前も寝とけ。背中の傷は結構深いんだから、今は自分の身体のことを考えて休め」
レオの様子をしっかりと見ていた健司が、一度美咲から引き剥がしてそのままレオを寝かせた。
レオも、美咲のことは気になっていても自分の身体のことは分かっていたのか大人しく寝転がった。
視線だけは美咲の方へと注がれていたが、ようやく大人しくし始めた。
「それで、どうなったんだ? 俺は途中から倒れてたから知らないんだが……」
ようやく少し冷静になったのか、現在の状況についてレオが気にし始めたので、健司がここまでの知っている内容を話し始めた。
話を聞き終えたレオは考えるようにしていたが、とりあえずは戦争が終わったのが安心したのか目を瞑ってしまった。
健司には何を考えているのかは分からなかったが、特に口にすることも無くそのまま放置しておくことにした。
そこで、健司は拓也の様子がおかしくなっているのに気が付いた。
何かを考え込むような、そんな顔をしているのを見てつい健司は声を掛けていた。
「拓也さん、どうかしたんですか? 難しそうな顔をしてますけど……」
「……昨日、皆も見たのかは知らないけれど、寝ている最中に俺はベルフェゴールと会っていたんだ。その時様子がおかしかったから、起きたら話を聞こうと思ってたんだけど、反応が無い……。それに、念動力も使えなくなってるんだ。これが、ベルフェゴールがサボってるだけならいいんだけど、どうなんだろうと思って」
その言葉に、その場にいた全員がいきなり固まった。
そして、ようやく健司たちは力が使えなくなっていることに気が付いた。
そこからは、健司たちは皆混乱状態に陥った。
まだこちらの世界に来てからそれほど時間は経ってはいないとはいえ、それでもずっとあったものの喪失感は、気が付いてしまうと相当に大きく、力だけでなくこれまで自分の中にいた悪魔という存在にも、自分たちの思っていた以上に頼っていたという事に気が付いた。
ここまで来て、彼らはついに自分たちの記憶が信じられなくなってしまった。
本当に自分たちは悪魔の力があったのか、もしかして自分たちが悪魔だと思っていたものはただの幻覚、幻聴の類だったのか、と思い始めてしまった。
その記憶を確かめるために、健司たちはこれまであったことを互いに確認し始めた。
その会話にはマーリスたちも参加して、知っていることを互いに話し始めた。
「さっきから何度か出てきてるけど、智貴って、誰?」
「……ちょっと待ってくれ、本当に分からないのか? 智貴はお前たちの仲間だっただろう?」
話し合いの最中、健司の放った言葉にマーリス達は凍り付いた。
「本当に、本当に覚えていないのか!? 梓! お前の恋人だろう!?」
「マーリス様、落ち着いて下さい! ……梓だけじゃなく、健司達も誰も智貴のこと分からないのか?」
マーリスだけでなく、フレアも焦り始めている中、梓達は誰一人として智貴のことを覚えていなかった。
「智貴……あれ、なんで……? なんで思い出せないの!?」
梓だけは、何か引っかかるものがあるのか苦しそうにしてはいたが、それでもはっきりと思い出すことが出来ずにいた。
「……何があったんだ、一体。昨日の夜話したばかりだろう?」
マーリスが呟くようにそう言っていたが、梓達は自分たちのことで精一杯で、マーリスの声は聞こえていなかった。
そして、マーリスたちが智貴のことを梓達に話そうとしたところで、ついにマーリス達にも異変が及び始めた。
「……何故だ、何故智貴のことを思い出せなくなっていくんだ!? 待て、待ってくれ!?」
なんと、マーリス達の記憶からも徐々に智貴に関しての記憶が薄れ始めたのだ。
智貴とどうして出会ったのか、共に何をしてきたのか、起きた事に関しては覚えているものの、智貴がどんな顔をしていたのか、どんな話をしたのか徐々に消え始め、1時間も経とうという頃にはマーリス達の記憶にも、智貴という名前しか残らない状態になってしまった。
その頃になって、騒がしくなっていることに気が付いたムーナとグラナードがその場に現れ、収拾のつかなくなっている状況を全員を眠らせてその場は一度有耶無耶になるのだった。
目が覚めて、全員が落ち着いた状態で、再び話し合いが再開した。
とは言っても、眠る前に話していた智貴に関してはもう誰も、名前以外覚えているものはおらずに、騒ぐことすら出来ずに淡々と話し合い始めた。
この後どうするのか、昨日話し合っていたように国をつくることなどああでもないこうでもないと話していった。
智貴のことに関しては、探しつつも現状は手がかりが無いので、どうしようもない、という結論に至るのだった。
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