第72話 星堕とし

 は目を開くと、自信の身体の前で握っていた手に力を籠め始めた。

 そして、その手を開いた時、そこには目には映らない、力、としか言い表せないものがそこにあった。


『今、この時を以て、この俺様が、核となる。さあ、降り注げ』


 彼は、水の中でありながらもそう呟くと、動き始めた。

 いや、周りが動き始めたと言った方が正しいだろうか、それまでは彼を圧し潰そうと、引き裂こうとしていた水流が、彼の周りだけ穏やかになり、そして下から押し上げるように動き始めた。

 始めはゆっくりと浮上していたが、それも徐々に早くなりあっという間に水上まで彼は押し上げられた。


『……やはり、貴方を倒すのは私では無理なのね。それでももう少しは時間を稼げるかと思っていたのだけれど……』


 あっという間に水上に現れた彼に、美咲は予期していたかのように溜息を吐いた。

 それに対して、彼はふん、と鼻を鳴らすと口を開いた。


「貴様如きが俺様を殺すことが出来るわけないだろう。そも、俺様を殺すことが出来るのは俺様だけだ。例え神にでも俺様は殺せん。……貴様が、正しく現界していたのならば、また少し変わっていただろうがな」


 そこまで言うと、彼は一度口を閉じ、空を見上げた。

 そして、顔を美咲に戻すと、再び口を開いた。


「             」


『             』


 彼は、何かを言っていたが、その声は美咲以外には聞き取れず、また、それに応える美咲の声も彼以外には聞き取ることは出来なかった。




 そして、空から大量の隕石が降り注いだ。

 隕石は、まるで彼に引き寄せられているように、辺り一面へと降り注ぎ、地面は陥没し、木々は倒れ、燃え上がり、あっという間に何も見えなくなっていった。


 辺りは火の海、湖は死海、空には燃え上がった煙が大量に漂い、かなりの広範囲において息するものは消え去るのだった。





「まずいぞ、直接隕石が当たっていないからいいものの、このままでは全員力尽きてしまう! 一か八か、逃げるしか道は無いぞ!」


 隕石が辺りに降り注ぎ、周り一面火の海になっている中で、マーリスたちは幸運にもまだ生きていた。

 直接、隕石がマーリスたちの元へと降ってこなかったからこそ、まだ生きてはいられたが、それでも熱は伝わってくるし、隕石が降り注ぐたびに揺れる地面に、まともに立っていることすら出来そうになかった。

 空を見上げても、もう隕石は見えないが、もう降ってこないという保証も無い、そんな状況では、一刻も早く動き出さなければならなかった。


「でも、まだ智貴たちが!」


 それでも未だ、この場に立ちすくんでいたのは、辺り一面が火の海となっていて動けない、というのもあったが、未だ、美咲、智貴、そしてレオの姿を見つけられていなかったからだった。


「現実を見ろ! このままでは、私たちも全員死ぬだけだ! 助けに行きたいのは確かだが、そんな余裕はどこにも無いだろう!? 私たちも生きて逃げられるかの保証は無いんだぞ!?」


 しかし、未だに動こうとしない梓達に、それよりかはよほど現状を把握しているマーリスたち魔族の三人は、もう限界だとしっかり伝え、反論していた。

 それでも尚、迷っている梓達を見て、ついにマーリスはキレた。

 そして、マーリスは黙ったまま梓に近寄ると、かなり強めに梓の頬を引っ叩いた。


「いい加減にしろ! 智貴たちを探しに行きたいのは私だって同じだ! それでも、今ここで死んでしまっては後に探しにすらいけなくなるだろう!? もしかしたら、既に智貴たちは逃げているのかもしれないのだ、そう信じるしかないだろう!?」


 そう叫んでいるマーリスは、自身も智貴たちを探しに行きたいのを何とか耐えているのか、歯を食いしばり、手は力を籠めすぎて白くなっていた。

 それを見た梓も、ようやく少し冷静になれたのか無理なことを騒ぐのを止め、ついにその場から逃げ始めるのだった。





「熱い熱い熱い! 急がねえと焼け死ぬことになるぞ! もっと急げよ!」


 辺り一面が火の海となっている中、先頭を走っていたフレアが後ろを向いて叫んでいた。

 しかし、既に熱さと煙にやられているのか、皆ぼうっとした様子で、フレアの声に反応することは無く、何とか走っているような状態だった。

 フレアは、自身が火魔法を使う事で、他のものよりは熱さなどに対して耐性があったので、まだ多少の余力はあったものの、それでも既に身体の至る所に火傷の跡が出来ていて、自分でも分かるほどに走る速度が遅くなっていた。

 当然、フレアでこの様子なのだ、他の皆も既に身体中に火傷を負っている上に、意識は朦朧とした様子で走れているのが奇跡なほどだった。


 そのまま、彼らは何とか走り続け、火の海となった森を抜けた頃には、限界となっていた。

 そのまま彼らは森を抜けたところで力尽き、倒れたまま意識を手放してしまうのだった。

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