第69話 レオを救出!

 ひと先ずはレオを探すことにした健司たちは、一度美咲のいる場所まで戻ってきていた。

 そこには先ほどまでと変わらず美咲と、美咲を囲うようにとぐろを巻いている大蛇がいた。

 帝国の生き残っている兵士たちはこれ以上被害を受けたくないのか、城壁の上から様子を伺うのみで、周囲には美咲以外誰も、何もいなかった。


 健司たちも、出来るだけ刺激しないように少し遠巻きに美咲の現れた方向へと向かって走っていた。

 美咲も、大蛇もこちらに気が付いているようだったが、視線を向けてくるだけで何か動こうとする様子は無かった。

 とりあえずは危険は無さそうだ、と安心してついに美咲の歩いてきた道へと入った瞬間だった。


 急に、空気が変わった。

 それまでは伺うだけだった美咲が、こちらへとしっかりと顔を向けていた。

 それだけではなく、美咲から何か圧力をかけられているかのように、威圧されているかのように健司たちは足が竦みそうになってしまった。

 口を開こうにも、口の中がカラカラに乾いてしまって、意味のある言葉としての声は一言も出なかった。


 しかし、この先にレオが倒れているかもしれない、と今にも立ち止まりたがっている脚に鞭を打って走り出した。

 フレアとゴランも健司に続いて走り出した。

 三人はそれまで以上に急いだ様子で走っていた、すぐにでも美咲から逃げ出したいと感じていたからだった。


 真っ先に気が付いたのは、一番後ろを走っていたゴランだった。


「危ないっ!」


 そう言って一瞬足を速めると、健司とフレアを腕で掴んで脇道へと押し出し、勢いのまま反対の脇道へと飛んでいった。

 その直後、これまで走って来た道から、大きなものが通っていった。

 あまりに大きく、そして近くから見たせいですぐには何か分からなかったが、少し落ち着いてから、美咲を囲んでいた大蛇だと気が付いた。


 大蛇は、健司たちを追い越して少ししたところで、顔をこちらに向けるようにして再び鎮座した。

 威圧感を伴った大蛇に睨まれた三人は、先に進むことも出来ず、後退しようにも背中を向けた瞬間襲われないかと恐怖に襲われて進退窮まってしまった。


 進むか退くか悩んでいると、いつの間にか背後から足音が聞こえて来た。

 健司は前の大蛇に気を払いながらもそちらへ目を向けると、そこには美咲がこちらへと歩いてきていた。


『貴様らはまだあの子を痛めつけようというのか。まだ私から奪おうというのか』


 美咲の口から聞こえて来たソレは、ヒトの発した声とは思えないような、直接脳内へと侵入してくるかのような声だった。

 そのせいなのか、何を言ったのか判断できずに少し固まってしまったことで、美咲が動き出してしまった。


 美咲が一歩、足を踏み出したかと思うと、その足元から徐々に水が溢れ出してきた。

 それは、始めはほんの少しの水だった。

 しかし、時間が経つごとに水の量はみるみる増え始めて、いつの間にか膝辺りまで水位が上がってきていた。

 どこからこれだけの水量が出て来たのか不思議ではあったが、ひとまずここから抜け出さなければ、と健司たちは移動しようとした。


『……逃がすとでも思ったの?』


 しかし、美咲の声が聞こえたかと思った瞬間、地面を覆っていた水の溢れ出てくる量が急激に増し始め、渦を巻き始めた。

 その頃には腰辺りまで水に浸かっており、少し抵抗したものの、健司たちは渦にのまれてしまった。


 しばらくの間、渦は巻いたままそこにあったが健司たちがついに気を失ったところでフッと消えてしまった。


 後に残されたのは気絶してぐったりと地面に横たえている健司とフレア、ゴランと、それを見下ろしている美咲だけだった。

 美咲は、それを確認すると、大蛇を伴って健司たちの向かおうとした方向へと進んでいくのだった。





 その頃、梓達は戦いは終わった、という事をムーナから聞き、いつでも離れることが出来るように準備をし始めていた。

 帝国に勝ったとはいえ、こちらも無傷なわけではなく、もともとが人間より強いからこそ今は死んでしまったものは居ないものの、瀕死の重体のものはかなりいて、そうではないものも至る所を骨折していたり、かなり出血していたりとあまりゆっくりできる状態ではなかった。

 そんな中、怪我はしていないエルフたちが回復魔法をかけて回って大活躍していた。


 梓達も、回復魔法は出来ないものの怪我はしていないので、準備を手伝ったり治療の手伝いをしたりと動き回っていた。

 ただ、健司や美咲たちのことが気にかかり、それに今も目を覚まさずに横になっている智貴のことも気になって特に梓は集中出来ずにいた。


 そして、何度目かも分からなくなるほど智貴に視線を向けると、いつの間にか横になっていた智貴が身体を起こしていた。

 ちょうど手が空いていた梓は、すぐに智貴の傍に駆け寄ると智貴に声を掛けようとして、智貴の様子に気が付いた。


「智貴……その目はどうしたの……?」


 そこにいた智貴は、目の色が変わっていた。

 辛うじて瞳の判別はつくものの、智貴の目は全体が真黒になっていて、かなり不気味に映った。


 智貴は梓の声が聞こえていないのか何も反応を返さず、遠くの方を見つめていた。

 そして、何かを感じたのかゆっくり立ち上がった。


「……行くか」


 いきなり口を開いたかと思うと、智貴はそれまで見ていた方向へと歩き始めた。


「ちょっと!? 智貴、どこに行くの!?」


 それを、何とか止めようと動こうとしたところで、智貴が何かを呟いたかと思うと、その場にいた全員に、急に重力がかかり、立っていることが出来なくなってしまった。

 長い投獄生活の所為で、身体が弱っていた梓は特に抵抗することも出来ず、地面に這いつくばって徐々に離れていく智貴を見送ることしか出来ずに圧が消えるまで歯を食いしばっていたのだった。

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