第67話 革命最終戦➁

(これは、もう殺せんな。先ほどから、ルーカスと共に来た男には動きを読まれているかのように当たらん、ルーカスには致命傷を与えたと思っても何故かすぐに傷がふさがり、そのまま攻撃をしてくる。……ここが余の墓場となるのか)


 皇帝は、様子の変わった二人を相手にしばらく奮闘していたものの、ついに劣勢に追い込まれていた。

 様子が変わってすぐは、まだ二人も慣れていなかったのか拮抗していたものの、気が付くと二人に圧倒され始めて、身体の至る所に傷を負い始めていた。

 対して、智貴とルーカスには傷は無く、時を経るごとに動きが良くなっていくのだ、もはや誰の目から見ても勝ち目は無いだろう。

 兵士たちにはここには入ってこないように言ってある上、自分の子供たちにはそれぞれの戦場を任せてある、城内で待機するように命じていたのはルーカスとリック、セシリア、アンリ、アンネたちだったが、それらには侵入者の排除を命じていて、その侵入者、そして裏切り者のルーカスがここに居るという事は助けが来るとは考えられなかった。


 しかし、そんな絶体絶命な状況に置いて、皇帝の口元には笑みが浮かんでいた。

 おそらく自分は間もなく殺されるだろう。

 子供たちも、無事では済むまい。

 しかし、この玉座に座るようになってから帝国のことだけを考えて生きて来た男には、自分が殺されるのもこれからの未来には必要なのかもしれないと考えていた。


 ここまでの行動を起こせるのならば、ルーカスはこれから帝国を自分の思うように良い方向へと進めていくのだろう。

 余は全てを征服し、帝国が全ての上に君臨することこそが正しいと考え、そうなるように行動してきていたし、今もその気持ちは変わっていない。

 だからこそこうしてルーカスと対峙しているのだが、それでもどこかで不安に思うことはあったのだ。

 他の種族のことを下に見ているとはいえ、個々の存在としては人間はどの種族にも及ばぬとは分かっていた。

 いずれ、このような未来が訪れるのかもしれないと思ってはいた。……それが自分の代で起こるとは思ってはいなかったが。


 しかし、こうなってしまった今となっては、もう出来ることなど無い、余には道など一つしかあるまい。

 精々、あ奴らに対して、悪役に徹し、未來への礎となるしかないだろう。

 この先を、帝国の行く末を見られないのが実に残念ではあるが、息子が、ルーカスが上手くやってくれると信じるしかあるまい。


 そう考えて戦っているうちに、智貴の振るった刀が、皇帝の槍を避けて左腕を切りとばした。

 その痛みに身体が硬直した瞬間、ルーカスの剣が胸へと突き立てられた。


 ああ、残念だ。

 ついに終わってしまうのか。

 ……最期にルーカスに声を掛けてやろうとしたが、逆流してきた血が邪魔をしたのか、声も出ん。


 そのまま、ルーカスが剣を持つ力を緩めたのか、身体を支えられずに余は後ろ向きに倒れてしまった。

 ……そんな顔をするな、ルーカス、これからの帝国を、頼、んだ……ぞ…………。







「はぁ、はぁ……っ! げぼっ! ごほっ……」


 智貴とルーカスは皇帝を倒して、すぐ、四つん這いになって咳き込んでいた。

 二人とも、皇帝と戦うためかなり無茶をしてそれぞれ悪魔と天使の権能を使っていたのだ、その反動が解除した瞬間に返ってきて、すぐには立ち上がれないほど疲弊していた。


『あれだけ限界を超えて力を使えば、当然こうもなる。……それで、まだ自我は保てているかァ? かなり深くまで同調してきやがって』


 ルシファ―が珍しく心配するような声で智貴に話しかけてきていたが、智貴はそれにこたえるだけの余裕が無かった。

 身体が疲弊しているのもあるが、それ以上にかなりの間ルシファーと同調していたことで智貴は、今にも発狂しそうになるのを抑えるのに必死だったのだ。


 それは、ルーカスも同じで、自分の中に何か別のものが入って来ようとしているのを歯を食いしばって耐えていたのだ。


 そんな風に二人が戦っているうちに、いつの間にかフレアたちが動けるようになっていたのかすぐそばまで来ていた。

 その頃には、智貴とルーカスは身体を起こしていることも出来ずに、地面に倒れ伏していた。


 そして、二人が死んでいないのを確認すると、智貴たちに何かを話しかけてきていたような気もするが、二人には話を聞く余裕もなく、返事も出来ずにいるとそれぞれ担がれて、城から抜け出すことになった。


 フレアとゴランに運ばれながら、頭がガンガンと痛むのに堪えつつ揺られていると、そこまで時間もかからずに城から抜け出せることになった。

 ルーカスの協力者たちが道を確保していたようで、隠し通路から外へと出られるようだった。

 隠し通路の目の前で、何かを話している気がして、その頃にはようやく痛みにも慣れてきたので、智貴とルーカスは下ろしてもらい、話を聞いた。


 智貴やフレアたちは、一度そのままルーカスも一緒に外へと逃げるつもりであったが、協力者たちにとっては、これからルーカスが王となりまとめなければいけないのだから、このまま城へと残り、動いて欲しいようだった。

 それを、ルーカスが話せていなかったせいで少し、フレアたちと険悪な雰囲気になりかけていたが、ルーカスが起きて話を聞いたおかげで、衝突することは無く済んだ。


「智貴、助かったよ。正直、一人では皇帝を倒せるか分からなかった。これから僕は混乱している帝国を落ち着けなければいけないから、これで別れだが、また、会えることを願ってる」


「こちらこそ、約束通り梓達を無事でいさせてくれてありがとう、頑張れよ」


 二人はそう言って、すぐに背を向けた。

 当然、もう少し話していたい、という気持ちはあったものの、まだやらなければならないことが多いのだ、あまり時間をかけていることも出来ずに、背を向けたまま、振り向くこともせずにそれぞれの道を進み始めるのだった。





 そして、城からの隠し通路で直接帝都の外まで出て来た智貴たちの目に映るのは、まるで変ってしまった世界なのだった。

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