第66話 革命最終戦①

 ハロルドとリリーを倒した智貴たちは、そのまま城の最上部へと向けて駆けていた。

 道中、智貴はリリーを、ヒトを殺したことを一人考えていた。


(生き物を殺したのは初めてじゃない、それでも人間を殺すのは初めてだから、動揺するかもしれないと思っていたけど、意外と何にも思わないものなんだな……。これは俺が変わってしまったのか、興奮してるだけなのか……分からないな)


「智貴! 聞いてるのか!?」


 そんな思考に沈みかけていた智貴に、話しかけていたのかフレアが走りながら声を掛けて来た。

 気が付いて、すぐに思考を切り替えると、智貴は口を開いた。


「聞こえてるよ、このまま進めばルーカス、皇族の協力者も、皇帝もいるはずだ」


「……聞いてるんならいい、さっさと行くぞ」


 ぶっきらぼうにそう言うフレアと、道を把握している智貴が先頭に、ゴランとムーナは後ろから敵が来ないかを警戒しつつ皇帝のいる執務室へと向かっていた。


 しばらく走りっぱなしだったが、道をしっかりと確認しようと一度視界を執務室へと飛ばすと、そこには皇帝がいなくなっていた。

 驚いて皇帝の居場所を探ると、意外とすぐに見つかった。

 執務室からそれほど離れていない辺り、大きな空間へと向けて通路を歩いていたのだ。

 しかし、走って逃げるような様子もなく、ただ目的があってその場所へと向かっているようで、智貴はフレアたちにも見たことを伝えると足を速めるのだった。



 道中、同じく執務室へと向かっていたルーカスと合流し、皇帝が場所を移していることを伝えて、現在皇帝のいる、玉座へと到着した。

 到着するまでの間、何度も警戒して視ていたが、玉座の間には皇帝以外は誰もおらず、魔法的な仕掛けも何も為されていなさそうで、少し不思議に思いながらも智貴たちは一気に扉を開くと、皇帝と対面するのだった。


「……なるほど、裏切ったのはルーカスだったか。そうと分かればこれまでの不可解なことも納得出来る」


「……裏切り者の存在には気が付いていたのですか。それにしては動きが無かったように思うのですが。父上ならばやろうと思えば、裏切り者を見つけることぐらい出来るでしょう?」


 ルーカスの姿を見て口を開いた皇帝に、ルーカスは返事をして話し始めた。

 智貴たちは、ちょうどいい、走ってきて少し乱れている息を整えようと疲れた身体を落ち着かせていた。

 その間にも皇帝とルーカスは話していた。


「確かに、やろうと思えば誰が裏切り者か事前に知ることは出来た。だが、皇族の誰かが行動しているだろうと判断し、放置した」


「……それは、何故? 皇族ならば何をしてもいいとでも?」


「それもある、しかし実際のところはそうではない。皇帝とは、座して待っていれば手に入るものではない、他の誰よりも優秀だと自ら示してこそ手に入るものだ。そして、皇帝とは誰よりも帝国のことを考えなければならない。それ故、本人が正しいと信じ行動するのならば、そしてその道中での障害を全て退けられたのならばその者が皇帝となればよい、そう考えているからだ。結果、ルーカスは今こうして余の前に立っている。そこまで行動できるのならば、行動させておいて良かっただろう、と思ったのだ」


「……では父上、その場を僕に譲る、という事ですか?」


「いいや、それは違う。現に、今貴様の前には余がいるではないか。意見の対立するもの同士、そして今のこの混乱の帝国をどうにかするには革命を成功させるか、裏切り者を処刑するしかあるまい。それともまさか、ここまで来て父に手をかけるのを躊躇っているのではあるまい?」


「……そうですか。では父上、いやユダリオン皇帝、覚悟!」


「とはいえ、余も負ける気は無いがな!」


 皇帝はそう言うと玉座の横に立てかけられていた槍を手に持ち、声を張り上げた。


皇帝の槍カイザーランス、魔を滅ぼす力を余に与えよ!」


 すると、既に魔法の準備をしていたムーナ、フレアの魔法が急に霧散してしまった。

 それだけではなく、フレアたち魔族の三人はいきなり倒れてしまった。

 何が起きたのか分からず智貴とルーカスが困惑していると、皇帝は隠すことでもないと思っていたのか、何が起きたのかを話し始めた。


「皇帝の槍とは、その名のごとくユダリオン帝国皇帝のみが扱える魔道具だ。この槍を皇帝が自ら手に持ち、発動することで周囲を魔法の使えない空間とすることが出来る。そして、魔族のように多くの魔力を持つ種族は普段から魔力を使って強い身体、素晴らしい身体能力を誇るが、魔力によって補助されているのだから魔力が使えなくなれば動きを阻害される、もしくは昏倒することになる。槍の持ち主は魔法を使えないわけではないのだから、これで人数は一対二、それも魔法の使えない貴様らと魔法の使える余、これで勝てるとでも思えるのならかかってくるがよい」


 皇帝のその言葉通り、智貴とルーカスは魔法を使ってみようとしてみたが発動せず、それどころか身体強化すら出来なくなっていた。

 とはいえ、身体自体は何とか動かせる二人は即座に武器を構えると、戦闘を開始するのだった。




 戦闘が始まってしばらく、智貴とルーカスは攻めあぐねていた。

 こちらは魔法を使えないのに対して皇帝は魔法を使えるので、魔力で身体強化を施していて、二対一の状況でも互角、いやむしろ智貴たちが劣勢に追い込まれていた。

 皇帝の槍も、武器としても相当な業物のようで、何度か破壊しようと試みているものの、結果はむしろ智貴の刀が折れてしまっていた。

 現在は、何とかルーカスが食らいついて剣を交え、智貴は後方から弓で牽制をしている状況だった。


 智貴もルーカスも、このままではいけない、勝つことが出来ないと理解していて、まずルーカスが動き始めた。


「我が血を捧げます、力をお貸しください、癒すものラファエル


 少し皇帝から距離を離して、右手に持っていた剣で自分の左腕を少し傷をつけ、ルーカスは天使降臨の儀式を行った。

 そして同時に、智貴もルシファーと同調を始めた。


(俺を見下ろすあいつを、這いつくばらせる力を俺に寄越せ! ルシファ―!)


 当然、ノーリスクとはいかず、智貴は口から血を吐きながらも何とか足が震えるのを抑えて、二本の足で立ち、見事、同調を果たしていた。


「……ははははは! この力があれば、誰も俺を止められまい! 貴様の命もここで終わりだ!」


 同調を果たした智貴は、そう叫ぶと皇帝へと飛びかかっていった。


「何が起こるのか分からない、慢心はよくないよ。……とはいっても、僕らの負けはあり得ないけれど」


 そして、ルーカスもまた、天使に乗っ取られることなく、力だけを制御して自我を保ち、智貴に少し遅れながらも皇帝へと歩を進めるのだった。

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