第64話 ようやくの再会
「! ここだ!」
聖域から脱出し手からしばらく経って、智貴がようやく目的の階段を見つけた。
階段を下った先には、大きな空間があり、その中は光が無く、まだそこまで到達していない状態では誰がいるのか分からない状況ではあるが、ルーカスの話していた通りならそこに梓達、そして連れ去られていったエルフの皆もいるはずだった。
「よし、早く行こう!」
一人ででも早く行きたいと焦る気持ちを何とか抑えて、階段を進もうとした時だった。
「そこまでだ!」
智貴たちが来た方向とは逆方向から、二人の人影が見えた。
その人影に、智貴は相手が誰だかすぐに判断が付いた。
というのも、知っている相手、ハロルドとリリーだったのだ。
すぐに智貴は臨戦態勢を取ろうとしたが、ムーナからすぐに静止の声が飛んできた。
「待ちなさい! 智貴、マーリス様が魔力切れで戦えないこの状態で戦うのはリスクが大きいわ。私たちが相手をするから、あんたはマーリス様を連れて下にいる仲間を連れてきなさい!」
ムーナの言葉に反応するように、フレアとゴランもすぐに智貴の前へと乗り出した。
そして、ゴランは魔力回復のために休息に入っていたマーリスを智貴に預けて、誰よりも早く準備をしていた。
「ムーナの言う通り、動けぬマーリス様をかばいながら戦うよりも我ら三人だけで戦った方がやり易い。それに、ここで時間を取られるよりも早く下から連れ出して移動し始めたほうが効率も良い。ここは任せて先に行け!」
ゴランのその言葉を聞き届けて、智貴はすぐに階段を下り始めるのだった。
「……ゴラン、最後の一言を言いたいだけだったろ、力抜けるじゃねえか……」
「そうよ、それにそんなこと言ったうえで負けようものなら、ほんとに恥ずかしいわよ?」
「いいではないか、人生で一度は言ってみたかったのだから! それに、さっさと倒して我等も向かえば何も問題は無い!」
大きな声でそう笑っているゴランにフレアたちは少し脱力しながらも、油断することはなく目の前の二人を警戒していた。
「お前、面白い奴だな! 魔族でなければ友になれただろうに、惜しいものだ」
「はぁ、バカがもっとバカになっちゃったじゃない……。まさか、魔族にも筋肉がいるとは思わなかったわ」
そんな中、ハロルドがゴランへとそう声を掛けている横でリリーは頭を抑えていた。
それぞれ、ゴランとハロルド、ムーナとリリーが共感したような表情をした後、ハロルドがスッと真顔に戻って剣を構えた。
「お前ともう少し話していたいところだが、こちらも城内の侵入者を捕らえなければならないからな、そろそろやるとしよう」
「そうだな、久々に楽しい戦いが出来そうだ!」
そうして早速、ハロルドとゴランは同時に動き出し、衝突するのだった。
それを横目に、ムーナとフレア、そしてリリーもそれぞれ動き始めた。
ひとまず、双方ともにゴラン達の戦いは放置して、後衛組を先に潰すことにしたのか、無言のまま互いの間を無数の魔法が飛び交っていた。
フレアからは火球が、ムーナのサポートにより普段よりも多く、大きなものがリリーへと飛んでいくが、リリーはそれを見ても動じずに同程度、同量の魔法を、それも様々な魔法で迎撃し、拮抗した状況を作り出すのだった。
「ぬぅっ!? やるな!」
「其方こそ、我の拳を受け止めるとは、やりおる!」
……すぐ横で筋肉二人が叫んでいるのを意識に入れないようにしながら。
一方、智貴は背中で目を瞑ったまま少しぐったりした様子のマーリスに注意を払いながらも、階段を駆け下りていた。
階段の前まで来た時から何となく、感覚での話でしかないが、この先に梓達がいる、と感じていたこともあり、そしてその感覚は階段を下りるごとに強くなっていることもあって、疲れを訴え始めている脚からの悲鳴を無視して、駆け下りる速さを上げていった。
そして少しして、目の前に金属の重厚そうな扉が目に入って来た。
遠目に見たままだが、錠はかかっておらず、閂だけがされているのを確認して、閂を開ける時間も惜しいと腰に据えた刀へと手を伸ばした。
「ふっ!」
そして一閃、扉の隙間を縫うように振るった刀は閂を確かに切断し、そのまま扉を思い切り足蹴にして力強く扉を開いた。
扉が開いた勢いのまま扉へと叩きつけられて大きな音がしたが、気にせずそのまま中へと入ると、智貴は魔法で光を生み出した。
魔法の光に照らされた中で最初に目に入ったのは、死んではいないだろうが瘦せているエルフたちだった。
彼ら、彼女らはいきなりの強い光に目が眩んだのか目を閉じていて、智貴のことを確認できていない様子だったので、まずは状況を話し始めた。
「俺は、皆さんを助けに来ました! 今から拘束を解いていくので、動けそうな人から声を上げてください! ひとまずはここから逃げ出すので、動けそうにない人は一か所に集めます、そのあと魔法で転移するので安心してください!」
智貴がそう声を張り上げたところで、奥の方から声が聞こえて来た。
「智貴!? まずはこっちに来て! 私が皆の首輪の鍵を持ってるから、私をとりあえず助けて!」
声が聞こえて、智貴はそんな状況じゃないと分かってはいても泣き出しそうになってしまった。
ルーカスが無事を保証するとはいっていたものの、実際に元気そうな、最愛の人の声を聞いて、グッとくるものを感じてしまったからだ。
しかし、すぐにそんな場合ではないと思い出すと、急いで声のした奥の方へと走り出し、ついに梓の、そして竜太たちの姿を確認した。
「梓!」
「智貴!」
梓の目にも少し光るものが見えたが、智貴はすぐに牢の扉を開けて、梓の元へと近寄って、その勢いのまま梓に抱き着いた。
梓は、首輪を付けられ、手足に鎖もつけられていたが、食事は出来ていたのか瘦せ細っている様子は無く、一度強く抱きしめた後、一度離れると梓から鍵を受け取り、梓の首輪、鎖を外した。
拘束が解けてすぐ、梓も智貴に抱き着いてきて、再度、熱く抱きしめあったのだった。
「二人とも! それは後で存分にやってくれていいから、今はやらなきゃいけないことを先にやってくれ! 急がなきゃいけないんじゃないのか!?」
しかし、そう長いこと抱きしめ合う前に、竜太からの声が聞こえて、二人は抱擁を解き、動き始めるのだった。
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