第49話 四天王戦3side智貴

 最初に動き始めたのはマーリスだった。

 智貴は、何か違和感を感じて一歩動き出しが遅れてしまったが、それでもすぐに反応して、両手に短めの剣を持ってこちらに向かってくるマーリスに応戦するべく腰を切って刀を抜刀し、そのままマーリスの手に持っていた双剣を弾いた。

 準備する暇もなく襲い掛かられたこともあり、智貴は折角の好機で追撃出来なかったが、たとえ出来たとしても深手は負わせられなかっただろうという速さで、マーリスは即座に後退していた。


「……フレアたちを無力化しただけあって、流石に身体の動きでは敵わないか……だが、これならどうだ!?」


 マーリスはそう言うと手に持っていた双剣を智貴の顔に向かって時間差で投げてきた。

 しかし、ただ投げつけられただけの剣、避けるのも容易いと思われたが、同時に魔法も放っていたようで逃げた先には本命かと思われる魔法が既に待機していた。

 それならば、と智貴はすぐに思考を切り替えて少し後退しながらタイミングを計って飛んでくる剣を刀で上手く弾きつつ、すぐに納刀すると弓を構えて魔力の矢を番えると既に待機していた魔法の核を射抜いた。

 さて反撃、と思って智貴がマーリスの方を向くと、通路を埋め尽くすほどの大きさの黒い魔力の塊がそこにいた。


「っはぁ!?」


 思わず驚きの声が口から漏れたと同時に、その塊が智貴に向かって飛んできた。

 その速度はそこまで早くは無かったが、そうは言っても先ほど投げられた剣程度の速さで智貴の方へと向かってきていて、呆けている時間は無いと急いで魔力の矢を練ると、貫通力も上げるために雷を纏わせて核へと向けて思い切り放った。


 結果として、核を射抜かれて魔法は霧散したものの込められていた魔力は残って、そのまま拡散されたことで智貴は壁まで吹き飛ばされてしまった。


「……なるほど、単純な魔法なら壊される、けど壊せても衝撃は消滅はされない、と。少しずつお前のことが分かってきた、そろそろ倒しに行くぞ」


 マーリスはその言葉とともに再び魔法を放ち始めた。

 今度は先ほどの魔力の塊を単発ではなく複数、それも先ほどの魔力よりも密度を濃くして小さくなった塊を智貴へと飛ばしてきた。

 流石にこの全てを核を壊したとしても衝撃を全て喰らってしまってはかなりのダメージになると判断して、智貴も今自分が使える魔力を限界まで絞り出して透明な、魔力の盾を自らの前方へと作り出した。


 ドゴン、ピシッ、バキッ


 しかし、智貴の作り出した盾はたったの三発の魔力弾で壊れ去ってしまった。

 何とか反応して最初は躱すことも出来たが、徐々に物量に押し負けて、被弾するようになってきた。

 そして、ついに避けきれずにまともに魔力弾を喰らって動きが止まってしまったところに魔力弾が集中してきて、智貴を壁際へと吹き飛ばしながら袋叩きにしてきた。


 その光景を見てようやくマーリスは魔力弾を生成する手を止めて、土煙の舞う中をゆっくりと、おそらく智貴のいるだろう場所へ向かって進んでいった。



 集中砲火を受けて吹き飛ばされた智貴は、壁にもたれかかりながら混乱していた。

 純粋な、魔法として性質の変わっている魔力ではなく、純粋な魔力に攻撃されたことでしばらくの間頭に靄がかかったような状態から元に戻っていたのだ。


(何では戦いに来たんだ? もともとは平和的に話をしようと来ていたはずなのに……いくら攻撃されたからって、倒す必要までは無かったはずじゃないか? 確か……路地裏でルシファーと話していた時、か? 今思い返してみれば、なんであんなところに蝙蝠がいたんだ? それにあの蝙蝠に気を取られてから、それまでとは正反対なことを考え始めてた……本当に何があったんだ!? ……それより、今はこの場を何とか凌がないと……!)


 しかし、今は状況が悪かった。

 元に戻れたことは良いことだとしても、今は戦闘中、それも敵意をむき出しにしてくる相手に対して智貴は既に満身創痍、少し動くだけでもかなり億劫な状況になっていて、その状況で頭まで混乱していることで、何をしたらいいのか分からなくなってしまっていた。


『おい! ぼさっとしてんな! 早く動かないとすぐにまたやられるぞ!?』


 呆けてしまいそうになっていた智貴に声を掛けてきたのはルシファーだった。

 その声で自分の体に何とか活を入れて土煙の舞う中を千里眼でマーリスの位置を視ながら背後を取れるように動き出した。


 少しして、つい先ほどまで智貴がいた場所に向かってマーリスが歩いてくるのを目にして、智貴は強く動いている心臓をなんとか落ち着けてから、マーリスを無力化しようと動き出した。

 しかし、背後に回って腕を捕ろうとしたタイミングで、マーリスが智貴の方へと視線を向けてしまった。

 一瞬、驚いた顔をして呆けていたが、すぐに動こうとしているのを見て、智貴も焦って走って近付いて行った。


 だが、智貴は自分の体の状況を忘れていた。

 今智貴の身体は満身創痍、まともに動くことすら厳しい状況で無理に走ろうとしたことでついに身体が悲鳴を上げて、足をもつれさせてしまった。

 更に不運なことに、既にマーリスにかなり近くなっていたこともありマーリスを巻き込むような形で倒れこむことになってしまった。


「きゃぁ!?」


「うわっ!? やばっ!」


 マーリスも、まっすぐ進んでくるのならまだしもまさか目の前で転ばれるとは思っていなかったのか、巻き込まれるまま倒れこんでしまった。


 智貴も倒れる時になんとか倒れないように、と何かを掴んだが、特に役に立つことも無くそのまま倒れて行ってしまった。


 ブチブチッ


 倒れる際、マーリスが敵だという事などもはや忘れていて、女の子を潰すのだけは悪いと何とか智貴の身体が下になるように動いた。


「ぐふっ!?」


 結果、鳩尾にマーリスの肘が入ってしまうことになり悶絶してしまったが、それ以外は特に怪我することなく済んだ。

 二人は倒れた状態からようやく立ち上がると、お互いのことを見た。


 そして、智貴はすぐに目を逸らすことになってしまった。

 マーリスの衣服が、肩口あたりから大きく裂けてしまっていて、それなりに膨らんでいる胸部が露わになってしまっていたからだ。

 そして智貴は目を逸らした先の自分の手に、マーリスの服と思わしき破片が握られているのを見て、そしてマーリスも同じことに気が付いて顔を真っ赤にしてしゃがみ込み、身体を隠しながら、叫んだ。


「……この変態! 私を辱めて楽しいか!?」


「待って!? 確かに申し訳ないとは思うけど、本当に事故なんだ! こんなことをするつもりは全く無いから!」


 ……それからしばらく、顔を真っ赤にしながらも智貴を睨むマーリスと、マーリスの方を向けないながらもなんとか弁解しようとする智貴は互いに叫びあうのだった。


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