第48話 四天王戦2side智貴

 智貴は疲れの溜まって動きの鈍ってきている身体に鞭を打ち立ち上がると、自分の視線の先で固まっている三人を見据えて、っそして口を開いた。



 呟いた程度の声量で智貴が声を出し命令すると、魔族の三人はいきなり体勢を崩して四つん這いの姿勢になった。


「「「!?」」」


 自分の意思ではなく、しかも十分に警戒をしていたのに体勢を崩したことに彼らは混乱してしまい、次の行動に移るのが一瞬遅れてしまった。

 しかし、それでもすぐに体勢を整えようとしたところで、フレアは自分の首元に冷たいものが当たっているのを感じた。


「動くなよ? 首と身体が離れてもいいなら止めはしないけど」


 自分たちから離れたところにいたはずなのに、体勢を崩した一瞬で背後にまわられていたことに、三人は驚愕していた。


「貴様、そこまで早く動けるならなぜさっきまでそうしなかった……? そうしていればさっきの戦いもまた違った結果になっていただろう……?」


 それでもフレアは、反撃をしようと体の中で魔力を練っていた。

 準備が出来次第すぐに攻撃できるようにしていた。

 そのために魔力を集中させる時間を稼ぐために、そして自分たちでも分からなかった移動方法を明らかにしようとフレアは智貴に話しかけていた。


「教えるわけないだろ? ……


 智貴の話を聞いても何をしたのか理解は出来ていなかったが、フレアはその時間で溜めていた魔力を炎へと変換して全身から放出した。


「喰らえ!」


 ソレは、特に技でも何でもない、身体から炎を出しただけだったが、それでも通常の火球よりも魔力を込めて放出したもので、フレアとしては必殺を確信したものだった。

 残りの二人も、フレアの実力を十分に知っていたので、これですぐに死ぬ、と確信していた。


 しかし、その炎は智貴に当たることは無く、三人は呆然としてしまった。

 ほんの少し、熱風で前髪が揺らめいてはいたが、焦げた跡はどこにも無く、それどころか倒れたのは魔法を使ったフレアの方だった。


「フレア!? 貴様、何をした!?」


 男の魔族が声を上げると、平然とした様子で智貴が口を開いた。


「ただ魔力を枯渇させただけだ。……魔力が枯渇するとすぐに気絶するとは知らなかったけど」


 智貴は権能を使い始めたことで頭が割れそうになるのを堪えながらも、出来るだけ平然とした様子でまだ意識を保っている二人の魔族を視ていた。

 既に身体は疲労で動かすのも億劫、魔力もかなり使っていることでだるさを感じていて、出来ればこれ以上負担のかかる権能を使うのは止めておきたかった。

 とはいえ、手を抜いた状態で勝てるわけも無いと分かっていたので、出来るだけ短期決戦で決着をつけたいところだったが、自分から動いて隙を作ることだけは避けたいところだった。

 なので、相手が動いたところで反撃、という形で戦闘を早く終わらせたいところだった。


 しかし、フレアがあっさりと無力化されたこともあってなかなか二人は動こうとせず、互いにすきをうかがうような状況になってしまっていた。


 それから少しの間、互いに動きは無かったが、ついに智貴は焦れてきて口を開いた。


「既にフレアが倒れて、二人も動きにくくなってると思う。ここで取引と行かないか? 俺は別に戦いに来たわけじゃない、頼みがあって来ただけだから、ここで一番偉い人、魔王に会って話が出来ればそれでいいんだ。だから、君たちを見逃す代わりに、魔王の所まで連れて行ってもらいたいんだけど」


 智貴のその言葉に、二人は少し考えるようなそぶりをしたが、三人でかかっても倒しきれなかった上に、一人は既に気絶していて、戦いになっても先ほどまでのようにはいかないと分かっていたのか、渋々といった様子で頷いてくれた。


「貴方の言葉を信じるわけじゃないけれど、このまま戦っても確かにこちらへの被害が大きくなりそうね……。分かった、魔王様の所へと連れて行くのはいいわ、けれど魔王様は私たちより強いのだから、勝てると思わないことね。魔王様だけじゃなく、四天王もまだ一人いるのだし」


「そう、それだよ」


 女魔族の言葉を聞いて、ずっと気になっていたことを言葉にされて智貴は口を開いてしまった。


「四天王って言うけど、何で三人しかいないんだ? 正直、ずっといつもう一人が来るのかと構えてたのに、いつまで経っても来ないから、四天王って何なのか分からなくなってきてたんだよ」


 智貴が問いかけると同時に、何かが壁をぶち壊しながら登場してきた。


「危ない!?」


 壊れた壁の破片が、智貴たちのいる場所に向かって飛んできていたので、二人を拘束していた手を緩めて身の安全を確保することを優先した。

 二人の魔族も、何とか動けたようで、フレアを連れながら瓦礫の飛んでこない場所へと避難していた。


「フレア、ムーナ、ゴラン! 無事か!?」


「今の瓦礫が一番危なかったわよ!?」


(……そう言えば名前を知らなかったな、あの二人)


 突然現れた人物は、フレアたちの様子を確かめると、


「あとは私に任せろ、テレポート!」


「えっちょっとマーリス様!?」


 何か話そうとしていたムーナをすぐに魔法でどこかへと飛ばしてしまった。

 あまりに急激に状況が変わっていったことで少し放心していた智貴だったが、目の前の人物がこちらを向いて目を見開いたことで智貴もようやく頭が動き出した。


「人間! 何故ここに居る!? お前は魔界に飛ばしたはずだ!」


 その言葉を聞いて、智貴もようやく思い出した。

 魔族領に到着して、すぐにこの目の前の少女に魔界に飛ばされたという事を。


「貴様、あの時の……残念だったな、だが、おかげで俺様は強くなって帰って来れた」


「……? お前、何か変わったか? 門の前であった時とは口調が違う気がするのだが……」


「口調……? 俺様は……あれ、俺は? 俺様……?」


「まあいい、侵入してきていることに変わりは無い、今度こそお前を退治してやる!」


「こっちは何が起きてるのか考えようってのに……もういい、貴様を倒して、そのあとゆっくりと考えることにしてやる」


 マーリスとの会話で何か引っかかるものを感じた智貴だったが、深く考え込んでいる時間も与えぬとマーリスが戦闘態勢に入ってしまったので、智貴も応戦するべく構えた。

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