第47話 四天王戦1side智貴
包囲してくる兵士を何とか撒いて城内を上へ上へと進んでいる智貴は、登るにつれて人の気配が減っていることに気が付いていた。
自分が侵入したことで兵士たちが下へと集まったと考え、あまり深く考えはしなかったのだが。
「!?」
そして、通路を曲がったところで、急に複数の火球がこちらに飛んできていることに気が付いて、咄嗟に元来た道へと逃げ込んだ。
「おお、しっかり避けるとは……不意を突いたと思ったんだがな」
そう言って通路から姿を現したのは、その身からあふれ出る魔力を隠そうともしない一人の魔族だった。
「こんなところで一人走ってるってことは、おまえが侵入者でいいな? 俺様は、魔王様直属、四天王の一人、フレア・バーンだ。大人しく捕まるなら、今の内だぞ?」
四天王の一人と名乗る魔族の男は、降伏を勧めながらも自分の周りに無数の火球を浮かばせて、いつでも智貴を攻撃できるように準備していた。
それに対して智貴も、いつでも刀を抜けるように構えながら口を開いた。
「むしろお前こそ俺様の邪魔をせずに通した方がいいんじゃないか? 戦いになったら怪我じゃ済まないぞ?」
「……この俺様にそんな口を利けるとは、相当の実力者か、状況が分かっていないただの阿呆かだが……貴様は後者らしいな? 既に他の四天王もこちらに向かっている。お前に勝ち目は無いと思うぞ?」
そう言われて智貴も周りを確認してみると、まだ少し離れてはいるが確かに、目の前の男と同程度の魔力と圧力を備えた存在が三人、こちらに向かってきているのを感じ取れた。
「……それならその前にお前を無力化して、一人ずつ倒せばいいだけだ」
「それが出来ると思っているのは、俺様を侮りすぎだな。まあいいか、貴様は俺様だけで十分だ」
フレアはそう言うと、地震の周りに浮かせていた火球を智貴に向けて飛ばしてきた。
大量の火球を操るのには神経を使うのか複雑な動きはしていなかったが、とはいってもその数は途方もないもので、視界のほとんどが火球に埋め尽くされていた。
何とか弾幕の薄いところを見極めて、被弾しないように避けると、すぐに次の弾幕が形成されており、間髪置かずに再び火球が飛んできた。
それも避けはしたが、すぐに次の火球、と休む間もなく攻撃されるだけで智貴はフレアに接近することも出来なかった。
そうして時間が過ぎていくうちに、ついに他の四天王らしき魔族が姿を現した。
「聞くまでもないと思うが、フレア、そいつが侵入者でいいのか?」
「人間で城内で一人、しかもフレアと戦闘中、となったらそうでしょうね。早く始末して休みたいわぁ」
現れたのは二人の魔族、一人は筋骨隆々といった姿で、背も高く、肌の黒い男、もう一人は空を浮遊しながらいる、長髪の女だった。
二人はフレアと合流してすぐ、智貴を敵と判断すると智貴に攻撃を仕掛けてきた。男はとても丈夫そうな身体を更に魔力で強化したうえで智貴に接近した。
フレアの魔法は当たっても気にしない、と言った様子で突進してくる様は、本人の大きさもありかなりの威圧感を伴っていたが、まだ小手調べのつもりなのか動きは直線的で避けやすかった。
しかし、その避けた先には既にフレアの放った火球が迫っており、急いで智貴も雷撃を放って相殺しようとした。
「!?」
だが、智貴の雷撃と火球が衝突する寸前で、急に智貴の雷撃がかき消えた。
驚いてしまったが、反射的に横に飛び退いたおかげで火球に当たることは無かったが、いきなり自分の魔法が消えたことに動揺を隠せなかった。
「あら……今のを避けれるなんて、思っていたよりも出来る子なのね。ちょっと自信無くしちゃうわぁ」
ふよふよと浮かびながら少し残念そうに声を出す魔族の女を見て、智貴は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
今ここに居る面子の中でも圧倒的な魔力を感じさせるその女は、ただ魔力が強いだけではなく、自分の周囲の魔力を完璧に制圧していたからだ。
おそらく、魔力を自分の思い通りに操ることで智貴の魔法をかき消したのだろう、魔法使いにとっては天敵ともいえるような力の持ち主だった。
智貴もそれなりに魔法の訓練をしてきてはいたが、その女がいることで智貴は今魔法を使えない、というより使っても無駄だという事が分かってしまった。
後は身体能力で何とかするしかないのだが、いつの間にか戻ってきていた男によって、先に魔法使いたちを倒そうにも邪魔をされて倒しに行けない、かと言って男を先に倒そうとしても、集中できないようにフレアから火球が無数に飛んでくる、今のままではそう遠くないうちに自分が倒されることが見えていた。
そして、それから時間にして十分と経たないうちに、智貴は地面に膝をついていた。
「貴様はよく持った方だ。まさか俺様達が三人で本気でかかっていたのに、未だに倒しきれなかったのは初めてだ……が、それでも俺様達の勝ちだ」
「そうね。私たちも何度かひやりとする場面もあったし、有効打を与えられなかったけれど、流石にもう動けないでしょう?」
「うむ、これほどの相手ならば一騎打ちをしたかったところだが、残念だったな」
もはや結末は見え切っているのだろう、膝をついている智貴から少し離れた場所で三人の魔族は話していた。
とはいっても、智貴への警戒はしたままで、動いた瞬間に攻撃できるように準備はされていたが。
「……」
智貴は三人の言葉を聞きながら何かを呟いていた。
内容は聞き取れてはいなかったが、それでもまだ何かをするかもしれないとフレアはこちらに意識を向けてきた。
「まだやる気か? 無駄だ、今の貴様では何をやっても俺様達には勝てないぞ」
フレアが智貴に話しかけたとほとんど同時、四天王の三人は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
魔族とあって魔力を操る、魔力を感じることには優れている三人だったが、今智貴が動かそうとしているのは魔力ではない、彼らの知らない力を智貴は使おうとしていたのだから、彼らには感じ取れなくても仕方のないことだったのだろう。
そして、ソレを感じ取れなかったことが、彼らにとっての敗因となるのだった。
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