第46話 ?side智貴

「ゲホッ!? ぐうぅ……」


 魔界から、元の世界へと戻ってきた智貴は、身体がとてつもなく重く感じた。


『慣れろ。死を否定することよりも世界そのものを否定するんだから、その代償がより重いのは当然だ。それより、早く動かないと、動けないまま捕まって何も成せずに終わるぞ』


「ふぅ、ふぅ……分かってる……。よし、ひとまずは落ち着いた」


 身体の奥底から湧き出てくる不快感を何とか抑えつけて、智貴は動き始めた。


「ここは……門の内側か? 場所が少しズレるんだな」


 魔界から元の場所、門の目の前に戻ってくると思っていた智貴は、門の外で見えていた景色とは打って変わった、路地裏のような場所に出ていた。


「さて……戻って来れたのはいいんだけど、これからどうしたらいいんだろう。話も聞いて貰えずに魔界に飛ばされたわけだし、また馬鹿正直に向かってもきっと話は来てもらえないどころか、もっと激しい攻撃されるだろうし……」


『アァ? そんなの簡単じゃねえか。平伏させて、貴様の要望を通せばいい。自分の言うとおりにならない存在なんていらないだろう?』


 元に戻れたことは良いにしても、これからの行動を悩む智貴にルシファーが話しかけてきた。

 しかし、その内容はあまりにも暴力的で、智貴は実行しようとは思わなかった。


「協力してほしくて来てるのに、なんで敵対しなきゃいけないんだよ。そんなことになったら元も子もないだろ」


『既に敵対してるようなもんなのに、何を気にすることがある? それなら手っ取り早く手下にすれば何でもいう事を聞かせられるだろう?』


「なんでそんなに好戦的なんだよ……ん?」


 ふと気になって目の前に視線を飛ばすと、そこには軒先からぶら下がっている蝙蝠が何羽かいた。

 不思議に思ってしばらく眺めていたが、智貴にはなぜか、蝙蝠からも、と感じた。


 それから少しの間、そのまま互いに見ていたが、特に何も起こらずに智貴も意識を逸らした。


 ……その隙に、いつの間にか蝙蝠が消えていたことには、智貴が気が付くことは無かった。


「とりあえず、話を戻そうか。とりあえず、


『……まあ、そうだな。俺様はそうするのが手っ取り早いと思うぞ』


「……? 何か反応がおかしくなかったか? ……まあいいか、さっさと行こう。邪魔をされても面倒くさい」


 智貴はそう言うと早速、少し離れたところに見える一番大きい建物、魔王城へと進み始めたのだった。

 ……自分の意見がいつの間にか入れ替わっていることに気付かずに。




 城門に着いた智貴は、臆するものなど何も無い、といった様子で堂々と真正面から城へと向かっていた。


「む? 待て! 何故人間がここに居る!? それに、この先は魔王様のいる城だ、貴様のような人間が入っていい場所ではない!」


 城門には当然、出入りを監視しているのだろう兵士が待機していて、智貴の姿を確認するとすぐに声を掛けてきた。


「うるさい、、邪魔をするな」


 智貴はそう言うと、兵士の背後にまわると最低限の雷を手に纏わせて兵士を失神させた。


「さて……とりあえずどこに魔王がいるのか知らないけど、上の方に行けばそのうち会えそうだな。そこに向かおうかな」


 失神させた兵士を一瞥すると、智貴はそのまま門を開いて中へと入っていった。



「くっそ! 流石に城の中にはたくさん兵士がいるな!?」


 城に侵入した智貴だったが、それからはほとんど間髪置かずに兵士に襲われていた。

 とはいえ、魔族領に向かってくる道中で散々訓練をしてきたおかげで、未だ大きなけがをすることも無く進むことが出来ていた。

 とはいえ、疲労は徐々に溜まっていく上に、暴れていることで自分の場所を補足され、時間が経つごとに兵士の数が増えてきていることにも気が付いており、このままでは時間の問題だとは智貴も気が付いていた。


 そこで、一度自分に向かってきている兵士から大きく距離を取ると、道中で千里眼を飛ばして確認していた道へと向かって逃走し始めた。

 まだ向かってくると思っていたのか、兵士たちは一瞬呆けた顔をしてしまい、対応が遅れてしまった。

 そのおかげで智貴は何とか包囲を抜けて、更に今は人が少なくなっている区画へと逃げ込むことが出来たのだった。




 魔王城上層部のある一室にて。


「……ん、なんだか城が騒がしくないか?」


「それが、どうやら、城に侵入者がいるようで。なので、マーリス様はこのお部屋から出ないように、と魔王様からのご命令です」


「……非常事態の時ぐらい、お父様も許してくれていいのに……。私が行けばっ直ぐに侵入者も捕まえられるはずなのに……」


「それが、既に他の四天王の御三方が鎮圧に向かったようですので、マーリス様の行く必要は無い、とのことです」


「そう……。ところで、侵入者ってどんな奴なの? まさかまだ城に入ったらどうなるか分かってないやつがいるとは思わなかったけれど」


「それが、魔族じゃないようです。黒髪赤目の、刀という武器を腰に差した人間が侵入しているようです」


「……え? そいつ、もしかして昨日門の外で魔界に堕とした奴じゃ……?」


「マーリス様、何か仰いましたか?」


「あ、いや、何でもないぞ。とりあえず、部屋に居ればいいんだな?」


「ええ。ひとまずは侵入者が捕まるまで、部屋からは出ないようにお願いします」


 侍女はそう言うと、部屋から出て行ってしまった。


(確かに魔法は発動して、あの時の男は魔界に堕としたはず……。あれ? でも、あいつはじゃなかったか? それなら、ただの人違い……? でも、他の特徴とか、人間なんてそもそもこの国にはいなかったはずじゃ……。やっぱり気になる。……バレずに戻ってこればいいよね? 少しの時間ならバレないはず……)


 そうして、少しの時間マーリスは考え込んでいたが、やはり気になってしまったので隠密の魔法を自分にかけて、部屋から出て侵入者を探しに出ていったのだった。

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