第50話 魔王との邂逅side智貴

 しばらく叫びあっていた二人だったが、なんとか落ち着いてまともに話が出来るようになっていた。

 とはいっても、これ以上戦うような状況じゃなくなったというのが正しいかもしれないが……。

 マーリスは異種族とはいえ異性に身体を見られて不用意に動けなくなっていて、智貴はそもそもが頭が混乱している状態で、戦わなくて済むのならそれに越したことはない、といった様子になっていた。


「とりあえず、これを羽織ってくれ。どうするにしても目のやり場に困るから……」


 智貴は荷物の中から出来るだけ大きいサイズの外套を身体が視界に入らないようにしながら渡すと少し離れて座り込んだ。

 身体もそろそろ限界を迎えそうな状態で、とりあえずは混乱している頭を落ち着けようとしたのだ。

 どうせ身体はまともに動かないのだから再度戦いになったとしても勝てる気がしなかったので、若干の諦めの気持ちもあったが、ひとまずは攻撃されないだろうと信じ込んでの行動だった。


「……そもそもの原因はお前の所為だが、それでも紳士的な面もあるのだな。これはとりあえず借りさせてもらうけど……」


 智貴の行動は結果的には功を奏したようで、マーリスも座り込んだまま外套を羽織って身体を隠すと警戒はしつつも智貴と話す姿勢になった。


「それで、お前は何をしに来たんだ? そもそも、お前名前は?」


「そう言えば名乗ってもいなかったな、俺は智貴。君はマーリス、でいいんだよな?」


「そうだ。フレアたちとの会話で分かっているだろうが、私が現魔王の娘で、四天王の一角のマーリスだ。だが、別にお父様が魔王だから四天王な訳ではないからな? 私は元から強い、四天王の中でも一番強いから四天王にいるのだからな」


「……確かに、感じられる魔力だけ見ても周囲の誰よりも強いのは感じたな。それで、俺がここに来た理由だが……」


 智貴はこれまでの経緯を出来るだけ細かくマーリスに話した。

 智貴たちが帝国から逃げ出すあたりまでは特に何の感情も表すことなく聞いていたマーリスだったが、エルフたちのことを話し始めたあたりで怒りをあらわにしていた。

 周りはマーリスから漏れ出る魔力が濃密に漂っていて、高濃度の魔力の影響か周囲の空間が歪んで見えていた。

 とはいえ、まだ話は済んでいないので、智貴は警戒しながらも話を最後まで続けていった。


「……という事で、仲間を救うためにも、エルフの人たちを救いに行くためにも帝国に攻撃を仕掛けたいんだ。魔族も協力してくれないだろうか? 今のところ、ドワーフたちと、他の仲間が獣人たちと龍人の所へ同じように協力を求めに行ってるんだけど」


 智貴が話し終えて、マーリスが口を開くのを待っていると、しばらくしてからマーリスが少し頭が冷えてきたようで口を開いた。


「私個人としては、エルフにも友達がいるし、このままだとここにまで人間どもは攻めてきそうだから攻撃を仕掛けるのは賛成だ。だが、お父様が許可してくれるかは分からないぞ」


「それでもいい、とにかく話を聞いてくれただけでもありがたい。出来れば、魔王と離させてもらえると助かるんだけど……」


「分かった、とりあえずお父様の所に案内しよう。私もいれば即座に殺される、ってことも無いだろうし」


「ありがとう、それと、服は本当にごめん。一旦着替えに行った方がいいんじゃないか?」


「いや、急いだほうがいいのだろう? それなら先にお父様の所に向かおう。私の部屋とは方向が反対だし」


 そうして、智貴はマーリスに連れられて魔王のいるところへと向かっていった。




「お父様、入っていいですか?」


 しばらく歩いて城を進んでいると、大きな扉が見えてきた。

 そこをノックしながらマーリスが声を掛けて少し、反応が無いな、と訝しんでいると力強く扉が開かれて、智貴より頭一つ分ほど大きな、顎に立派な髭を蓄えた男性が出て来た。


「マーリス! どうしたんだい、今はお部屋に居るように言ってただろう? 侵入者が捕まるまではゆっくりしてていいって言ったろう?」


「お父様、とりあえず中に入っていいですか? 流石に長時間はこの格好で部屋の外に居たくないんですけど……」


「……? !? マーリス、その恰好はどういうことだ! 誰にやられた!? ひとまず、部屋に入りなさい」


 そう言って、魔王は部屋に入るように促した。

 マーリスと智貴は部屋に入ろうとすると、智貴の目の前に魔王の腕が立ちはだかった。


「それで、貴様は誰だ? 何故人間が我が城にいる? それに、何故マーリスと一緒にいた?」


 先程までのマーリスに見せていた親馬鹿な表情とは打って変わって威圧するような雰囲気と表情で問いかけてくる魔王に、智貴は口を開けなくなってしまった。

 もし戦いになったら、すぐにでも自分の命は無くなると分かってしまったからだ。

 それほどの威圧感、そして魔力だった。

 マーリスも確かに途方もない魔力量だったが、それをはるかに上回る魔力量に智貴は固まってしまっていた。


「お父様、智貴……その男に関しても今から話すので、一旦魔力を抑えて下さい。正直、私も苦しいです……」


「はっ!? マーリス、済まない、大丈夫か……?」


 固まっていた智貴とは違い、マーリスは動き出すと魔王を諫めてくれた。

 そのおかげで、何とか動き出すことの出来た智貴は、そこでようやく息を止めていたことに気が付き、死んでいないか確かめることが出来た。


「とりあえず、貴様も入るがいい。ただし、話は全て聞かせてもらうぞ?」


 魔王はそう言うとさっさと部屋の中に入っていってしまった。

 智貴も何とか覚悟を決めて部屋の中に入っていくのだった。

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