第44話 虚side智貴
『そろそろ落ち着いたかァ? いい加減、ここから出るための話をしようや』
魔界に来てしばらく、智貴が混乱したままでいると、ルシファーがそう話しかけてきた。
「いや、そりゃ出れるなら今すぐにでも出たいけど……お前が魔法は使えないって言ってきたんじゃん。ここから出れないんだろ?」
『誰がいつ、出れないって言ったァ? 俺様は、魔法は使えないって言っただけだぜェ? それを早とちりして騒いでいたのは貴様だろォ?』
「……確かに、魔法は、使えないって言ってたな。じゃあ、ここから出れるのか? 魔法じゃないならどうやって出るんだよ」
『さっきまでの俺様の話を聞いていなかったのかァ? それとも理解するだけの頭が無かったのかァ? そもそも、ここから出られないんなら、俺様達が魔界から出て行けるのは何故だと思ってるんだよ』
呆れたようにそう話すルシファーの言葉を聞いて、智貴は確かに、と納得した。
「こんな状況で話した内容を完全に覚えていられる訳無いだろ。それで、出れるんなら早くその方法を教えてくれよ」
『まあ、いいぜ。俺様もここにいるよりは外に出たほうが楽しいからな。……それで、出る方法だが、二つある』
『一つは、魔界から外へと繋がる門を越えていく方法。だがこの方法は、門がどこにあるのかを探すことから始まり、門を全て超えるのにかなりの時間を必要とする。そして、今のお前では太刀打ちできないような門番を全て倒さなければいけないから、今のお前には現実的な方法ではない。二つ目は、権能を使いこなして、出る方法。この方法なら、出来れば今すぐにでもここから出られる』
「それなら後者の方法で出る。教えてくれ、俺は何をしたらいい?」
『……本来、短時間で手に入れるようなモノじゃない。貴様には地獄を見てもらうぞ』
そして、智貴はそれから一刻も早く魔界から出るために、ルシファーに教わることにした。
しかし、この時の智貴は、自分が思っていた以上の地獄を見せられるという事は知る由もなかった。
『さて、一つだけ聞いておこう。貴様が俺様の権能を使ってここから出るなら、自力で権能を扱えるようなるか、俺様が無理矢理に起こして権能を扱うか、二択だ。ただし、自力でやるなら今すぐに、とはいかねェ、その代わり俺様が無理矢理やるんなら、貴様の精神も身体もどうなるか分かったもんじゃねェ。良くて廃人一歩手前、悪くて消滅だ。だが、自力でやれば、そこまでの被害は受けずに出ることは出来る……とはいってもそれなりにダメージはあるだろうがな』
「それなら、自力でやる。だから、方法を教えてくれ」
『よし……じゃあ、今から寝ろ』
「……は?」
早速方法を教えてもらおうとしていた智貴は、訓練でも何でもなく、いきなり寝ろ、と言われて困惑した。
「どういうことだ? 寝たら時間が過ぎていくだけだろ?」
『うるせえなァ、とりあえず寝ればいいんだよ。ここでだと俺様の肉体が無いから何も出来ねえし、分かりやすく教えるには同じ場所にいたほうがやりやすいから、夢の世界でやってやるってこった。分かったらさっさと寝ろ』
「それならそうと先に言ってくれよ……」
ひとまずは納得して、智貴は寝る準備をし始めた。
とはいえ、魔界に来てから移動もしていなかったので、せめて安全そうな場所を探して、そこで野営の準備をして目を閉じ、夢の世界へと入っていった。
「よし、来たな。それじゃあ早速やってくが……口で言って分かるようなもんじゃねェ、自分で掴み取れ」
「……分かった。それで、何をするんだ?」
夢の世界に入って早速、智貴はルシファーと向かい合って話をし始めた。
これから何をするのか分かっていないと、不都合だろうと思って智貴は質問したが、その答えとして返ってきた言葉は、あまりにも予想の外のことだった。
「今から、貴様が権能を掴み取れるまで、俺様が貴様を殺し続ける。それを回避して生き残れ。夢の世界で、しっかりと殺した後は元に戻してやるから肉体が死ぬことは無いが、痛みは感じるし死ぬ、という感覚も刻み込まれるだろうから、心を強く保たないと、精神が壊れると思え」
ルシファーのその言葉に、智貴は理解が追い付かなかった。
いきなり、殺すと言われてすぐに理解しろというのが無理な話かもしれないが、実際にそう言われて、命を懸けることになるのだから、智貴はすぐにでも動き出さなければならなくなった。
なぜなら、ルシファーは智貴が落ち着くのを待たずに、自分が話し終わった直後から早速動き出したからだった。
智貴がそのことに気が付いた時には、もう遅かった。
視界が急に落ちた。
首が熱いと感じて触ろうとした手は何時まで経っても首に触れることは無く、視界が一転したかと思うと、そこには首の無くなった自分の身体があって、ようやく今自分がどうなっているのかを悟った。
首を落とされたのだった。
それを意識し、死んだ、と思った次の瞬間には視界がもとに戻って目の前には先ほどまでと変わらない様子のルシファーが立っていた。
慌てて首を触ると、今は首が繋がったままの感触を得て、智貴は冷や汗を止められなかった。
(今、確実に死んでいた……何をされたのかも分からないまま……)
「さて、気を強く持てよォ?」
生きている、という実感をかみしめようとしていたところで、容赦なく次の死が智貴を襲ってきた。
身体が急に熱くなってきたかと思うと、急激に膨張して破裂した。
自分の肉片が周囲に飛び散っていくのを感じながら、智貴の意識はまた暗転しようとしたところで、またもとに戻った。
「次」
「待っ!?」
智貴の身体が急に発火して、塵も残らずに燃え尽きて死んだ。
「次」
「ちょ」
身体が溶けだして、自分の思うように動かせなくなり死んだ。
「次」
急激に圧が強くなって身体が圧し潰されて死んだ。
「次」
身体に大きな穴が開いて、血を吐いて死んだ。
「次」
「次」
「次」
「次」
…………
それから智貴は何も出来ずに、何度も何度も死を繰り返しては生き返り、また死ぬのを繰り返していった。
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