第31話 献杯

※ 今回のお話では智貴たちが飲酒をするシーンがございますが、未成年への飲酒を勧めるものではありません。

 献杯であろうと未成年者はお酒を飲もうとしないでください。





 ドワーフの里に到着した智貴たちは早速門に近寄っていった。

 しかし、門に近付く前に門が開き、中から十数人の武装したドワーフたちが出て来た。


「おうおうあんちゃんたち、ここに何しに来たってんだぁ? しかも、エルフの子供たちを盾にして来るなんて、男の風上にも置けねえなぁ?」


 そう言われて今の自分たちを改めてみてみると、確かに智貴たちより前にエルフの子供たちが出ていた。

 と言っても、子供たちの方が進むのが早くて必然的にそうなってしまっているだけだったが、客観的に見て、そしておそらくドワーフたちも人間に対して敵対視しているだろうことを考えたらそう思われることも仕方のないことだろう。

 しかし、そう認識されたままでは何も話が出来ないと智貴が口を開こうとした時、先にリリスが口を開いてしまった。


「ガルドさん、お久しぶりです、リリスです。それと、この人たちは悪い人間じゃないですよ」


 リリスにそう呼ばれた、先頭に立って智貴たちに初めに声を掛けてきたドワーフがリリスに目を向けると、それまでのこちらに敵意を向けるような顔とは打って変わって、気の良いおじさんといった顔をして口を開いた。


「おう、リリスちゃんか! 久しぶりだなぁ! 元気にしてたか!? 親父さんも元気にしてるかよ? また酒を飲もうって伝えといてくれや!」

「それで? 悪い奴じゃないって? それなら早く言えや! 勘違いしちまったじゃねえかぁ!」


 そう言って大きな声で笑いながら、中に入れや、と言い戻っていくドワーフたちに、智貴たちはずっこけてしまった。


「ちょっと、待って!? それでいいの!? 騙してるとか考えなくていいの!?」


 むしろ智貴が悲鳴じみた声を上げるが、気にした様子もなくドワーフたちはズカズカと戻っていってしまった。


「ドワーフの方たちはなんというか……細かいことを考えるのが嫌いな人たちなんです……それに、流石に人間だけで来ていたらもう少し警戒したかもしれませんが、私たちもいたので警戒が簡単に消えてしまったのではないかと……」


「それでいいのか、ドワーフさんよ……」


 そう言ってリリスや子供たちもドワーフたちについて行ってしまったので、智貴たちもその後についていったのだった。



「それで、今日はどうしたんだ!? こんなに大人数で、しかも子供だけで来るなんて珍しいなぁ? ピクニックかぁ!?」


「ピクニックではなくてですね……実は……」


 ドワーフたちの後についていき、大広場についていきなり座ったかと思うと早速ガルドと呼ばれたドワーフは話かけて来た。

 それに対して、リリスが事の経緯を話すと、それまでの笑顔が徐々に消えていき、リリスが話し終わった頃には憤怒の表情を浮かべていた。

 自分たちに向けられているわけでもないのにとんでもなく迫力のある顔をしていて、子供たちは見慣れていなかったのか智貴たちを盾にして隠れてしまい、リリスは隠れはしなかったものの少し震えているようだった。


「人間どもめ……あいつらは酒は弱えがいい奴らだったのに、なんてことをしやがる……! 畜生、おい、酒を持ってこい! 今日は飲むぞ!」


 その話を近くで聞いていた他のドワーフたちも同じような形相で、話は徐々に口から口へと広がっていき、あっという間に里にいたドワーフたちが皆酒をもって集まってきていた。


 ほんの十分ほどで里の大半の住民たちが集まってきて、皆一様に手に持ったグラスを掲げると、ガルドが口を開いて大きな声を出した。


「子供たちを最期までしっかりと守り抜いた我らが盟友、エルフたちに、献杯!」


 そう言って手に持ったグラスの酒を一気に呷ると、他のドワーフたちも献杯と叫んで飲み始めた。


「おら、お前らも飲め! エルフたちを偲んで思い出話をしながら酒を飲んで送り出すんだよ!」


 そう言って周りのドワーフたちが、まだ状況に理解が追い付いていなかった智貴たちにグラスを渡しながら言ってきた。

 まだ未成年だ、とか今飲んでいいのか、という考えもよぎったが、そんな考えはすべて捨てて智貴は手に渡されたグラスを一気に呷った。


「ちょ、智貴君!? 未成年でしょ!?」


「まあまあ、今日ぐらいいいじゃないですか、ドワーフたちも言ってたように献杯Ⅴしてエルフの皆を送り出しましょう」


 智貴が飲んだのを見て美咲が注意するような声を上げたが、それを健司がなだめて、健司も飲み始めた。

 それを見て、美咲もどうにでもなれ、となったのかグイッとグラスを傾けた。


 それから智貴たちはドワーフに交じって飲み続け、夜が更ける頃には智貴たちは酔いつぶれてぐったりしたまま、眠りについていった。

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