第32話 出発準備

「それで、お前さんらは何しに来たんだぁ? ……昨日は酒で潰しちまったから話が聞けなかったが、今なら大丈夫だろう?」


 早朝から前日の酒が残っていて頭がガンガン痛むなか、ガルドが智貴たちのところに来てそう聞いてきた。

 そこで、本来の目的、仲間を救うために手伝ってほしいこと、ひいては反乱を起こすことを話すことにした。


「実は、エルフの集落が襲われた時に俺たちもいて、仲間が捕まってしまったんです。それで、国を落とそうかと思っているんですけど、手伝ってもらえませんか?」


 智貴は真剣な顔をしてガルドに頼み込んだ。

 正直、今は平和に暮らしているドワーフたちを、敢えて危険な場所に連れ出すようなことになるので一緒に来てもらえるとは思ってはいないが、準備を手伝ってもらおうと考えて話をしようとした時だった。


「おう、いいぞ!」


「……えっと、危険なことになると思うんですけど、そんな軽くていいんですか? もう少し考えたりした方がいいんじゃ……?」


 あまりにも即答されて、何とか説得しようと身構えていた智貴は拍子抜けしながらもそう聞いた。


「いいって言ったらいいんだよ! それに、確かに人間たちウゼェからなぁ!」

「それにリリスたちの家族もやられたんだろう? それなら、お礼しに行かなくちゃだしなぁ!」


 ドワーフたちにとっても理由があるのならいいか、と考えて改めて協力体制をとることにした。


「それで? 他にはどこに声かけたんだ!? 流石にドワーフだけだと負けちまうぞ!?」


「それが、まだあなたたちだけなんですよ……リリスたちのこともあって、真っ先にここに来たので」


「ああ、なるほど! それなら俺たちは他のやつらを連れてくるまでに武器とか準備しといてやるよ! 野郎ども、仕事だぁ! 忙しくなるぞぉ!」


「いや、もう少し話をしましょうよ!? ……って行っちゃったよ……」


 まだ話も終わらない状態でさっさと仕事をしに出て行ってしまったガルドの背を見ながら、智貴はそう独りごちた。


「ドワーフの皆さんはほんとに難しいことを考えないと言いますか……ただ、その代わりと言っては何ですが、仕事は早いし、質もいいので頼りにはなりますよ……?」


 昨日からずっとドワーフのフォローをしているところしか見ていない気もしたが、リリスにそう励まされ(?)て、智貴たちも動き始めることにした。


「さて、ガルドさんも言ってたけど、ドワーフと俺たちだけだと流石に勝ち目がないだろうから、もっと協力者を増やしたいんだけれど……リリス、どこに誰がいるのかって分かる?」


 早速行動しようと智貴がリリスに問いかけると、リリスは知っている限りのことを教えてくれた。


「私が知っているのは、獣人、龍人、後は魔族の居場所だけです……ただ、それぞれがかなり離れた場所にいるので、一か所ずつ回ろうとしたら、直線で向かってもきっと一月は余裕でかかるかと思いますよ? それに、単純に距離だけじゃなくて、かなり険しい道だったり、山とかでもっと時間がかかるかと思います……」


「そんなに時間はかけてられないな……どうしよう、どこか一か所に絞るべきか……? けど、それだと数が少なくなりそうだし……」


 どうしたものかと考えていると、健司と美咲が口を開いた。


「それなら、三人がばらけてそれぞれの場所に向かえばいいんじゃないか?」


「そうね、それに三人固まって行動して、道中で人間に出会って全員捕まったりしたらどうにも出来なくなるわ、それなら全滅はしないようにばらけたほうがいいわよ」


「けど、それだと健司なんか特に今は怪我してるんだから危ないんじゃないか?」


「おいおい、別に喧嘩をしに行くわけじゃないんだぞ? それに、逃げるだけなら何とかなるんだから、いざとなったら何とかなるさ」


「それに、今はこうするのが一番よ、私たちって早く皆を助けに行きたいの、作戦で時間を取るなら仕方ないけれど、その前の準備段階で時間なんてかけてられないわよ」


 健司にも美咲にもそう言われて、智貴も納得をして、三人がそれぞれ別行動をすることにした。

 向かう方向としては、美咲は獣人たちの元へ、健司は龍人たちの元へ、そして智貴は魔族の元へと向かうことになった。



「とりあえず、向かう道中で魔物とか出ても大丈夫なように、最低限の準備はしようぜ。幸いドワーフたちは武器とかも作っているらしいし、色々準備していこう」


 そして、エルフの集落で間に合わせで借りてきた武器類を一度手放して、智貴たちは自分に合っている武器を改めて考えながら、準備を整えることにした。




「あー、お前さんはこっちの弓の方がいいんじゃないか? 速射出来るような弓じゃなくてもっとデカい、一発を遠距離からぶっ飛ばすような弓のがいい」

「あと、近付かれたとき用になんか持ってたほうがいいなぁ。これなんかどうだ? 腰にぶら下げられるし、あんま重くねえから弓の邪魔にもならねえだろ、ただ使うのに少し慣れないと厳しいけどなぁ」


 早速準備をしようと、とりあえず近くにあった、武器などを扱っている工房に入ってしばらく、智貴たちはドワーフたちに玩具にされていた。

 それまで自分たちが使っていた武器を伝えてから、もっといい武器がある、いや、こっちの武器の方があってる、こっちのほうが使いやすい、と、気付いたら十人ぐらいのドワーフたちに囲まれてかわるがわる武器を持たされては試しに振ってみて、とかなりの時間を使って智貴たちは武器を新調していた。


 結局、智貴はそれまでに使っていたような弓よりはかなり大きめの、二メートル近くもありそうな弓と、腰には刀を帯びていた。

 美咲と健司もそれぞれ自分に合うような向きを見繕ってもらいながら、防具も一緒に見てもらい、装備に関してはかなり良いものになったように見えた。


「んじゃあ、明日受け取りに来な! 最終調整をしといてやるからよぉ!」


 そして、最後には装備していたものを全てはぎとられて、ドワーフたちにそう声を掛けられる頃には智貴たちは疲労困憊していた。


「何も抵抗出来ないままもみくちゃにされたな……とりあえず、武器とかはいいとして、食料とかも準備しに行こうか。聞いた感じ、十日近くかかりそうらしいし」


「そうね、それに装備も明日には完成させてくれるらしいから、出発は明日にして、今日は準備が終わったらゆっくりしましょう……」


 という事で、それから日が暮れる前までは智貴たちは準備に忙しく動き、日暮れ前には何とか一応の準備を終わらせることが出来た。



 そして、夜が来て、食事をしようとしていた智貴たちはいつの間にかドワーフたちに囲まれていた。


 そこにデカい樽を担いだガルドさんが来て、


「よし、野郎ども! 今日も騒ぐぞぉ!」


「ちょ!? 今日は飲みませんよ!? 明日には出発するんですから!」


「なにぃ!? それなら、今日は出発の儀式だな! かんぱぁい!」


 そう言って飲みだしてしまった。

 気が付いたら智貴たちの手にもグラスが握らされていて、今日は休まなければ、と抵抗したが、夜も更ける頃には三人とも意識を手放してしまうことになるのだった。


(畜生……結局宴会になるのかよ……)


 そんなことを考えながら、智貴たちは眠りに落ちていったとかなんとか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る