第30話 北へ

 翌朝、智貴たちは目が覚めると早速移動する準備をし始めた。


「とりあえず、武器庫はこちらにあるので、好きに使ってください。後、保存食が少しだけあるので、それを持っていきましょう」


 リリスに持っていくものがどこにあるのか教えてもらいながら準備をして、日が昇り切った頃には準備を終わらせて移動し始めた。

 ただ、そのまま移動しても、智貴はいいとして美咲と健司はまた見つかるだけだったのだが、そこは魔法の得意なエルフが流石というべきか、存在を五感以外では認識出来なくなる、つまり魔法などでは認識出来なくさせる魔道具を所持していたのでそれを身に付けた。

 武器防具の類はまり数も無く、質も高いというほどのものは無かったが、あるだけましだ、という事で武器庫にあったものを全員が拾っていくことにした。

 健司は流石に大きなものは持てそうになかったのでしばらくは魔法に専念するため杖を、智貴と美咲はまだ使えそうな弓や細剣レイピア、短剣などを拾って装備した。リリスや子供たちにも使えそうな短剣などを持たせて、一行は移動し始めた。


「さて……移動するのはいいけどどっちに向かったらいいと思う?」


 智貴が途方に暮れてそう聞くと、リリスが答えてくれた。


「それなら、ここから北に向かって進んで見える山の麓にドワーフの里があります。ここからならそこが一番近いので移動は楽かもしれません」


 教えてくれたリリスに驚いて、智貴は問いかけた。


「どこに誰がいるのか知っているのか? それなら道案内を頼んでもいいかな?」


「いいですよ。ただ、向かう方向に道という道が無くてずっと森なので、かなり険しい道のりだと思うんですけど、大丈夫ですか?」


「なるほど、俺たちは何とかするとしても子供達には厳しいのかな……」


「あ、それは大丈夫ですよ。私たちエルフは森の民と言われるだけあって、子供でも森の中なら移動するのに困らないよう慣れてますから」


「あ、そうなんだ……じゃあ、その道で行こう、距離はどれぐらいあるのか分かる?」


「そうですね……エルフの成人が歩き続けて丸二日程度でしょうか……?」


「なるほど、それなりに距離がありそうだな、それなら早速出発しよう。途中で野営することが決まってるみたいだし、出来るだけ明るいうちに進んでおこう」


 そうして、智貴たちは動き始め、森の中を進んでいくのだった。


「って、子供たち早すぎない!?」


「子供たちとは言え、エルフなので……森の中を走るのに慣れてるんですよ。なので、歩かなくても多分大丈夫ですよ?」


「そう言うの先に行って欲しかったなぁ!? もう既に走らされてるんだけど!?」


 そう言う智貴たちは既に駆け足よりは少し早いぐらいのペースで走り始めていた。

 元気があるのはいいことだが、智貴たちが歩きにくい森に苦労しているうちに先へ先へと進んでしまうので、見失わないようにするのにとても苦労していた。


「仕方ない、これも訓練だと思おう……俺たちもちゃんと走るぞ!」


 結局、昼になるまではとりあえず智貴たちが追いかける側で、追いかけっこをし続けたが、一人も捕まえられることは無く、昼休憩にするときには智貴と美咲、健司は肩で息をしていた。


「えっと……とりあえず、お昼ですし一度休憩にします……か?」


 リリスにも気遣うようにそう声を掛けられて、情けないような気持になりながらも、一行は一度休憩をとることにした。


 休憩中、息を整えながらも智貴は先を視ていた。

 この先、どのぐらいの距離があるのか、道中に危険な生物はいないか、危険な場所は無いかを先に確認しておかないと、自分たちより先に進んでしまう子供たちが危なくなってしまうかもしれないと考えてのことだった。

 ひとまずは危険そうなものも無さそうと判断して、智貴もしっかりと短い間ではあるが休憩を取った。


 それから少し、時間にして30分ほど休憩してから智貴たちはまた先へと進むために動き始めた。

 食事は保存食を食べただけで、別で準備をしたわけでもなかったので片付けるものも無く、動き出してからはすぐにまた走り始めた。

 午前とは違って智貴たちも森の中を走るのに慣れてきたのか、追いつくことは出来なくても、躓いたり、子供たちを見失うようなことはせずに何とか追いすがれるようになっていたので、それまでよりも早いペースで道を進めることが出来た。



 そうして、二日目の日が暮れようとする頃には、智貴たちは予定よりは早めにドワーフの里があるという山へとやって来れたのだった。

 そして、ドワーフの里へと到着して、智貴たちはその大きさに圧倒されていた。


「……デカくね? 里っていうよりは国ってレベルのサイズだと思うんだけど……城壁とかあるし、かなり広いんじゃないの、これ」


「ドワーフたちは隠れるとかそう言ったことが苦手なので……ただその代わりに中々来ることが難しいような場所に暮らしているので、あまり襲われないようです。あと、彼らは手先が器用と言いますか……その技術をフルに使って防衛設備を作っているらしいので、責められても簡単には落とされないようになっているんですよ」


 そうリリスが説明してくれていたが、智貴たちは城壁の大きさに圧倒されていたので、声は聞こえていても反応できないような状態になっていたのだった。

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