第17話 憑依
「智貴!」
隠し通路の先の空間に、智貴はいた。
いたと言っても、その部屋の中央辺りに倒れていたのだが。
梓達は智貴に近寄ろうと駆け寄っていった。
もう少しで智貴と接触、といったところで、いきなり梓達と智貴の間に人影が現れた。
「まさか本当にここまで来るとは思わなかったな、それで、貴様らはこんなところまで来て何をしている?」
こちらを睨みながらそう言ってきたのは、こちらに対して既に臨戦態勢に入っているハロルドだった。
その横にはリリーも杖を構えて立っており、下手な言い訳は通じそうになかった。
「さて、こんな探しでもしないと分からないようなところにいる時点で後ろめたいことをしているようなものだけれど、一応、ここで回れ右をしてすぐに戻るつもりはあるかしら? ……自分で戻るのが嫌だって言うなら、強制的に戻すだけだけれど」
そう言ってこちらを睨んでくる二人を健司たちは油断せずに見ながら、黙っていつ戦いになってもいいように構えた。
「……ふう、大人しくついてくる気は無さそうだな、それなら手荒な方法でやるしか無さそうだ、骨の数本は覚悟しろよ?」
そう言って、ハロルドは両手剣を構えると、こちらに向かって歩いてきた。
その姿は、自分たちが圧倒的に上位であると信じて疑わない様子で、威風堂々とした動作であった。
そして、健司達がハロルドを警戒して身構えた瞬間、健司たちの視界からハロルドの姿が消えた。
いや、正確に言うならばそう感じてしまうほどの動きで背後を取られていた。
「まずは一人目」
「しまっ!? ぐぅっ!」
気付いた時には、健司は剣の腹で打たれて吹き飛んでいた。
そのまま健司は何度か地面を跳ねると、壁にぶつかってそのまま倒れこんでしまった。
「健司!?」
その光景を見て、信じられないといったように竜太が叫ぶが、
「よそ見をしている余裕があるのか?」
そう言って既に竜太の目の前に来ていたハロルドに、先ほどと同じように吹き飛ばされて壁にぶつかり、そのまま倒れた。
流石に二人を一瞬でやられたこともあり、思い切り顔を向けて安否を確認はしなかったが、梓達の顔はこれでもかと焦燥に染まっていた。
「さて、ある程度は彼我の力量差が分かったところでもう一度聞くが、大人しく戻るか、限界まで抵抗するのか選べ」
そう言ってこちらを睨んでいるハロルドの目は、常のように良い兄貴分といった様子はまるでなく、敵を見るような冷え切った目を向けてきていた。
実際に戦うまでは、相手の方が強いとはいえ六人がかりならば少しぐらいは戦いになると思っていた。
しかし、実際に戦いになってみれば、あっという間に二人は吹き飛ばされて、未だに起き上れて来れないほどのダメージを負い、そのうえでハロルドに触れることすら出来ていないということに梓達の心は折れかけていて、気付いたら梓達は座り込んでいた。
「おお? これはどういうことだ?」
そんな時だった、この場にそぐわない困惑したような声が聞こえてきたのは。
その声のした方向に全員が目を向けると、いつの間にか目覚めていた智貴の姿があった。
「智貴!」
安心したような、警告を飛ばすような声を梓が上げるとその声に気付いて自分の状態を確認したのか、何か納得したような顔をして一人で呟き始めた。
「ふむ……なるほどな、何があってこうなっているのかは知らんが、俺様が智貴に憑依したような状態なのは理解出来たな……これはいつでも出来るのか、偶然こうなっているのかは、如何なのか、ふむ、面白い……」
「おい、何を一人でブツブツと言っている!」
ハロルドがそう声を上げると、ようやくこちらを向いた。
その目を見て、梓は混乱した。
(違う! アレアレは智貴じゃない! 智貴の目は紅くないはず! どういうこと!?)
そうして梓が混乱したままでいると、彼は言った。
「貴様ら、誰の前にいると思っているんだ? 頭が高いぞ」
すると、空間全体が軋むように威圧感がかかった。
その圧を正面から喰らったハロルドは呻くような声を上げながら、誰何した。
「ぐぅっ!? 貴様、何者だ! 智貴にこんな力は無いはずだ!」
そう聞かれて、彼は応えた。
「俺様の前でまだ立っていられるとはな……その力に免じて答えてやろう、俺様は悪魔を統べる一柱にして傲慢の王、ルシファー」
智貴の姿をしたルシファーがそう言うと、ハロルドとリリーは愕然としていた。
「まさか、そんなことが……ハロルド! 悪魔の名を語った以上、倒すしかないわ! やるわよ!」
リリーはいち早く我に返ると、ルシファーに向けて攻撃の準備をし始めた。
それを見てハロルドも今度は刃を立てて剣を構えると、攻撃に移った。
その臨戦態勢の二人を見てもルシファーは余裕そうな態度を崩すことなく、構えることも無く様子をうかがっていた。
「ふむ、なかなかに筋はいい」
そう言ってルシファーは二人を視ながらそう呟いた。
「しかし、俺様を倒せるほどではない」
そして、そう続けたかと思った瞬間、ハロルドとリリーは地に伏していた。
「「……は?」」
二人は、少ししてから自分たちが地に伏していることに気付いたのか、呆けたような声を出した。
「フム……まだ意識があるのか、久しぶりなせいか、制御が甘かったようだな」
「まあ、もう何も出来はしないだろうが、もう一押ししておくとするか」
ルシファーがそう言うと、ハロルドとリリーは何とか上げていた頭さえも力を失ったかのようにその場で倒れて、起き上ってくることは無かった。
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