第16話 智貴を探せ

「離して! 智貴を探さなきゃなの!」


 智貴がいなくなっていることに気が付いてから梓は、他の皆に伝えに行ってからすぐにどこかへ行こうとしていた。

 そばにいた結衣と美咲は、梓の顔を見てこのまま行かせるのは危険だと判断し、梓をがっつりホールドして、どこかへと梓を行かせまい、と格闘していた。


「梓! 待って、一度落ち着いて! ここで焦ったまま動いてもいいことないのよ!? まずは何があったのか調べることからでしょう!?」


「そうだ、一旦落ち着け! 今探してるからせめてその結果が出てからにしてくれ!」


「そうしてるうちに手遅れになったらどうするの! 早く探しに行かなきゃ!」


「今、ここで動いて、それで智貴が危機に陥ったらどうするんだ! それに闇雲に探して見つかると思ってるのか!」


 健司が梓に対してそう声を荒らげると、結衣に羽交い絞めにされていた梓は顔を歪めて、身体の力を抜いた。

 そのまま泣き出してしまった。


「健司も落ち着け、お前まで熱くなったら、誰が智貴を探せるんだよ」


「……すいません、ちょっと顔を洗ってきます」


 そう言って一度、健司は席を外して部屋から出ていった。



 そして健司が戻ってきてから、全員で話し合うことにした。


「まず、智貴はどこにいったか、だけど、そもそも智貴は何故いなくなった? 俺たちに連絡を忘れていただけならいいんだけど、連絡を残す余裕も無く、例えば誰かに連れ去られたのなら、すぐにでも探さなきゃいけない。そして、連れ去られていた場合、誰に、ってところが問題になってくる。これまでの話を聞いてて、この国自体を信用出来ないから助けを求めることも出来ないし、下手したらこの国自体が犯人な可能性もある……。正直、今出来ることは、健司が智貴を見つけるのを待っていることぐらいしかないんだよな……」


「流石に自分からどこかにいったと思うんだよな。誰かに連れ去られたにしてはあまりにもこの部屋は綺麗すぎる……。連れ去られた後に掃除されてる可能性も否定は出来ないけど」


「それに抵抗せずに連れ去られるとは思えないし、抵抗したのなら俺たちにも何か聞こえていたはずなのに、それも無いんだから、少なくとも自分で部屋から出たんだろう」


「もしかしたら、どこかで秘密の特訓してるのかもしれませんよ? 若しくは何かしていて、普通に時間に気付いていないとか……」


「そうならいいのだけど……。違った場合の、最悪の場合のことを考えて動かなければ何かあった時に対応できないわよ」


 そうして話していると、ずっと力を使って智貴を探していた健司が何かを見つけた。


「なあ、こんな本、この部屋にあったっけ? 俺が昨日見たときにはこんな本、分かりやすいところに置いてなかったと思うんだけど……」


 そう言って健司が手に取った本は、確かに前日の夜まではそこに無かった本だった。

 開いて内容を確かめてみると、この国、また近隣諸国についての記述されている本だった。

 内容自体にもおかしなところは無く、何かメモが挟まっていることもない、何の変哲もない本ではあったが、何かの手がかりになるかもしれない、とそう思い、一度図書館へといくことにした。

 おそらく図書館の蔵書で、もしかしたら智貴の足取りが掴めるかもしれないからだ。



 そして図書館について、健司は真っ先に力を使った。

 ここに智貴がいるのならば、音が聞こえるはずだから。

 結果、そこに智貴は居なかったが、代わりに別のものを見つけることが出来た。


「ここ……何かあるぞ」


 そう言って健司が指さしたのは、何の変哲もない壁だった。

 健司以外は何を言っているのか理解出来ず、ただ壁を見ていた。


「ここ、ただの壁に見えるけど、この先に通路がある。風の音が聞こえてきてる」


 健司のその言葉に全員が驚いた顔で返すと、健司は続けて言った。


「多分だけど……この奥に智貴がいると思う」


 流石に今回は何故、という気持ちが強く出ていたのか、怪訝な顔を健司に向けていた。

 そんな皆の顔を見て健司は、


「この先で何かの呼吸音が聞こえるんだよ、それが智貴のと似てる……」


 そう言う健司の言葉を聞き、梓達も皆進むことに決めた。


「さて、どう進もうか……」


 進むと決意したのはいいのだが、隠し通路になっているのだ、当然、そう簡単には通ることが出来ないどころか、通路へと入ることも出来なくなっていた。

 それからしばらくいろいろな場所を探したが、どこにも入り口は無かった。


「まいったな……どうやって入ればいいのか全く分からない」


 健司はそう呟いたが、呟いた内容自体は全員一致で考えていたことだった。

 一度視点を変えてみるべきかと考えていたところで、いきなり司書がやってきた。


「そこの通路に入りたいのならば、こちらです」


 これまでの話を聞かれていなかったか、と警戒する健司達をよそに、司書はそう言って歩き始めた。


「どういうこと、だ……?」


 竜太がそう呟くと、梓がそれに答えた。


「私の力で今この人を操ってるんです。このまま探していても時間が過ぎていくだけだと思ったので、この人を洗脳させてもらいました」


「なるほど、そういうことか」


 梓が洗脳していたということに対して真っ先に反応したのは健司だった。


「洗脳されているから、この人からは何も聞こえてこなかったのか。死んでる訳じゃないのに、何も聞こえなくなっていたから、不気味に思っていたんだ」


 そう言って、納得できた梓と健司は迷うことなく司書について行った。

 そして、絶対に自分たちだけでは見つけることは出来なかった、ということが分かった。


「司書の座ってた席の後ろにあるんじゃ、いつまでたっても進めないわけだよ……」


 そうぼやきながら、健司たちは進むことにした。

 それから健司たちは、暗い通路を、お互いがいることを確認しながらしばらく進んでいった。



 それからどれだけ進んだのか、何度か階段を上ったり下りたり、曲がったりしながら進んだ先に、通路の終わりが見えてきた。

 そこには、大きな空間が広がっていた。

 健司たちはその、どこか美しく感じる空間に目を奪われながら、周囲を確認していた。

 果たして、そこには……。

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