第15話 脱走にむけて②
「え?召喚の間を見たいの?なんで?」
翌日、起きてすぐに智貴はルーカスを訪ねていた。
ルーカスに頼めば、自由に城中を調べて回れると思ったからだ。
敵だろう相手に頼みに行くのは癪ではあったが、他に頼める相手もいなかったので、それならまだこれまで親しくしてきた相手に頼むことになって、智貴にお鉢が回ってきたのだ。
そして、何故、と聞かれることも分かっていたので、昨日の話し合いの時から考えていた理由を話した。
「召喚魔法が使えれば、魔族との戦いの時にも使えるんじゃないかと思ってさ。あと、どんな魔法なのかも気になるからってのもあるけどな」
「なるほどね、ただ、これまでにも散々研究されてきてるから、新しいことが分かるかどうかだけど……まあ、色んな視点で見たら何か見えるかもしれないしね、いいよ、ついてきて」
そう言って前を歩き始めたルーカスについていきながら、案外簡単に許可が出たことに拍子抜けしていた。
正直、秘術だから、と見せてもらえないかもしれないと考えていたからだ。
しかし、見せてもらえるに越したことはないので、余計なことは言わずに見せてもらうことにして、ついていった。
「ここだよ、召喚された時には気絶していて、そのまま運ばれてたから場所は知らなかっただろうけど」
そう言ってルーカスに連れられて来て、智貴は召喚されたときのことを思い出していた。
確かにあの時の部屋だろうという既視感を覚えていて、人がいないこと、血痕が残っていないことを除けばあの時のままであった。
そして、あの時は気が付かなかったが、床にはとても大きな模様が描かれており、その全貌は一目では分からないほどに大きく、複雑であった。
「この床の模様は何なんだ? 魔法陣ってやつか?」
分からないものは知っていそうな人間に聞くことが一番だと考え、傍にいたルーカスに聞くと、
「そう、普通の魔法を使う際には必要にはならないけれど、大きな魔法だったり、難しい魔法を使う際に補助として使われるんだ。魔力の節約だったり、使用者にかかる負担が軽減されるから、大魔法を使う際にはよく使われるよ。興味があるなら、リリーに聞いてみたり、あとは図書館で調べてみれば資料があったはずだよ」
ルーカスに話を聞きながら、智貴は部屋の中、また魔法陣をくまなく視ていた。
何か得られるものは無いか、元の世界に戻るための魔法について何か分かることは無いだろうか、と。
そして、この場には何も得られるものはなさそうだと考え、過去を視ることにした。
智貴たちが召喚された時のことを見れば、もしかしたら何か分かるかもしれないと考えて。
……………………。
そして、智貴は視た。いや、視てしまったというべきだろうか。
その衝撃的な光景は、視ている智貴の正気をぶち壊そうとしていた。
いや、感じたのが怒りだけだったのならば、智貴はすぐにでも暴れていただろう、すぐに暴れださずにいられたのは、怒気以上に、悲しみ、そして絶望を感じていたからだった。
怒りに、悲しみに、絶望に歯を食いしばって耐えながら過去を視ていて、智貴は全てを知った。
何が起きたのか、何をしたのか、何をされたのか、そして、この国は敵だということも。
それからの智貴に、ルーカスと何を話しながら部屋に戻ったかという記憶はない。
辛うじて倒れることも無く、自分の足で歩いて戻れたことは覚えているが、過去を視た後の智貴は頭が一杯で、叫びだしそうになる自分を抑えていることに精一杯だったのだ。
部屋に戻り、智貴はすぐに訓練場へと赴いた。
今は、何も考えずに身体を動かしていたかった。
何もせずにいたら、すぐにでも発狂してしまう気がしていたし、今は少しでも強くなっておきたかったのだ。
せめて梓は、皆は守れるようにするために。
それから数時間、晩御飯の時間まで智貴は休憩もせずにずっと武器を握りしめて、訓練をしていた。
少しでも武器を、魔法を使いこなせるように、一人黙々と武器を振るい、魔法を使い、走り続けた。
皆の、梓の心配する姿に気付かずにずっと……。
「智貴、もうご飯だよ、そろそろ訓練は止めにして休まなきゃ、身体壊すよ?」
梓にそう声をかけられて、智貴はようやく止まった。
ずっと身体を動かし続けて少し頭は落ち着いたのか、冷静な頭で梓の声を聞くことが出来た。
そして冷静になった頭で周りを見て、皆に心配されていることに気が付いて、反省した。
「ごめん、皆……。ちょっと冷静じゃなかった……」
智貴がそう謝ると、ひとまずは大丈夫そうだということで、皆も笑って許してくれた。
何があったのかを気にしている様子ではあったが。
そんなまだ少し心配する目と、話を聞かせろという視線を感じながら、一度ご飯を食べることにした。
そして、食事をしてから智貴の部屋に集まり、今日で調べられたことについて話すことになった。
だが、分かったことはあまり多くは無く、世界の大雑把な地図を手に入れた程度であった。
これは仕方のないことで、正直に言って智貴と健司以外は、まだ疑心暗鬼な状態で、調べることもはっきりとしているわけではなかったので、詳しく調べることが出来なかったのだ。
その中で地図が手に入ったことは大きな収穫であった。
特に智貴にとっては、おおよその方角さえ分かれば、視界を飛ばして別の国を探すことなどが出来るからだ。
書物に書かれている情報よりも、智貴にとっては自分で見ることが出来るようになったということだけでも大収穫であった。
そして、その地図をもとに色々な国を視て、智貴はある国を見つけた。
その国の住人は皆が着物のようなものを着ていたのだ。
そのうえで、人間だけの国では無い、様々な種族が共存しているのを視て、話をする前からここに行きたい、行くべきだと考えた。
他の皆にその国のことを話すと、皆もその国が気になったようで、おおよその方針としてその国のことを調べることになった。
そして話は進み、逃げる手段の話になった時に、智貴はずっと考えていたことを話すことにした。
そして話をして、智貴は予想通りの反応をされていた。
それも当然だろう、智貴のした提案は、国から逃げるというのに、徒歩で、森の中を隠れながら進む、というものだったからだ。
「智貴、お前は何を考えてる? いや、何を視た? 何をそんなに焦ってるんだ?」
さすがに様子がおかしいことを竜太に聞かれたが、智貴は今ここで話すつもりは無かった。
今話してしまった場合、自分たちがどうなるか分からなかったからだ。
悲しみと絶望で動けなくなるのか、怒りに身を任せて暴れて拘束されるか、今は話してもいい状況になるとは思えないのだ。
そのことを皆に話すと、無事に逃げ出した時に必ず話すということを約束させられて、その場はひとまず智貴の視たものについては触れないことにして、逃走方法について話していった。
話し合った結果、
智貴は期限の一週間後まで城内で過去を視てこの国のことについてより詳しく調べること
梓、結衣、美咲の三人で逃げ出した後の国について情報収集
健司は城下の人への俺たちへの意識調査
拓也と竜太は逃走手段について調べて、どう逃げるのか、どのようなルートで逃げるのかを調べることになった。
そこまで話し合ってから、もう夜も遅くなっていたので解散して、その日はもう寝ることになった。
もう皆が寝静まったころ、智貴は一人動き始めていた。
焦っていた、というのもあるが、それ以上に今日視たものが頭から離れなくて、寝付けなかったのだ。
それから智貴は部屋を出て、どこかへと消えていった。
そして翌朝、起きてこない智貴を心配して起こしに来た梓が部屋を訪れた時、そこに智貴の姿は無かった。
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