第13話 気付き……?
その日は朝から訓練をしていた。
ルシファーに教わったように、千里眼だけでなくもっと力を使いこなせるように、と思って試行錯誤して、ようやくコツを掴みかけてきた時だった。
「よし、今日の訓練はここまで! 夜の陛下たちとの食事の準備をしないといけないらしいので、各自部屋に戻っていろ」
ハロルドにそう言われて、そう言えば今日が食事会の日だったと思いだした。
ちょうどコツを掴みかけて、あと少しで過去を視ることが出来そうな感じだったので、智貴はもう少し訓練をしていたかったが、予定に遅れてしまってはいけないので訓練を止め、部屋に戻ることにした。
「……」
しかし、健司は何か考え込んでいるようで、動こうとしなかった。
「健司? どうしたんだよ、部屋に戻るぞ」
智貴がそう声をかけてようやく動き始めたが、まだ何か考えているのか、口を開かずに歩いて行った。
智貴は不思議に思いながらも自分も部屋に戻らなければ、と思い部屋へと足を向けた。
部屋に戻り、昼頃だったのもあって準備の前に昼ご飯を食べようと皆を誘って食堂へといき、さあ食べようとしたところで、健司が口を開いた。
「なあ、皆も夢であいつらに会ったんだよな? そのことを、俺ら以外に話した?」
「いや、まだ誰にも話してないけど……今日皇帝たちと食事するんだから、そこで報告すればいいかな、と思ってまだ誰にも話してないよ」
智貴が代表して答えたが、他の皆も同じようで特に口を挟まれることは無かった。
その様子を見て、健司はまた口を開くと、
「夢のこと、俺たちの力のことを、俺たち以外の誰にも話さないようにしてくれないか?」
健司が神妙そうに言うのを聞いて、おかしく感じたのは智貴だけではないようで、皆も口々に理由を聞いていたが、健司は理由は話せないけどどうしても、というので、とりあえずは納得して誰にも話さないことにした。
「でも、ちゃんと近いうちに話せよ?」
「それはもちろん。出来るだけ早いうちに話すよ」
健司もそう言うので、とりあえず目の前のご飯を食べることにした。
ご飯を食べ終えて、部屋に戻ろうとした時に結衣が、
「そうだ! 今日の食事会の後に集まってお話しない? 皆の新しい力がどんなのか知りたい!」
「ああ、それはいいね、僕もどんなことが出来るのか聞いてみたい」
結衣の言葉に拓也が反応してそう言ったので、食事会の後に皆で集まって話すことになった。
とりあえずは食事会の準備ということで部屋に戻ると、部屋の中に知らないメイドがいた。
半紙を聞くと、食事会の準備のために来たようだった。
何をするのかと聞いてみると、風呂に入り着替えをして化粧をするらしい。
そんなに時間がかかるものだろうか、と疑問に思いながらも、訓練をしていて汗はかいていたので、風呂に入ることにした。
(ふう……ただの食事会にこんなに準備があるとは思わなかったな……)
そんなことをゆっくり考えながら湯船に浸かって、身体をほぐしていた。
この後はゆっくり出来る時間など無いということは知らず……。
風呂から出ると、既にメイドさんは服などを用意して待機しており、その多さに智貴は腰が引けながらも、メイドの玩具同然になりながら着付けられて時間になるなりすぐに部屋を追い出された。
(……あそこ、俺の部屋のはずなんだけど……)
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、他の皆もちょうど部屋から追い出されたタイミングだったようで、すぐに合流してそのまま食事会をすると言っていた部屋へと向かっていた。
少し歩いていると、指定されていた部屋が見えてきた。
部屋の前には執事らしき人が控えており、既に集まっているから入ってくれ、と言われたので全員入った。
そこにいた、見知った顔の相手は、皇帝陛下とルーカス、それと召喚されたときにいたセシリアで、他にいた人たちは見たことも無かったが、皇帝陛下とどこか似ているようなので、おそらく家族だろうとあたりをつけながら、智貴たちも席に着いた。
「さて、よく来たな勇者殿たち。今宵は無礼講だ、好きに楽しむがいい」
そう言われ、まずは自己紹介をした。
皇子皇女は、
第一皇女、アリシア
第一皇子、ゴードン
第二皇子、アスター
第二皇女、セシリア
第三皇子、ルーカス
第三皇女、アンリ
第四皇女、アンネ
第四皇子、リック
とそれぞれ名乗り、そこからは自由に会話しながら食事を楽しんでいた。
皇子皇女の質問に答えたり、逆にこちらからこの世界のことを聞いたりして会話を楽しんでいると、不意に智貴の脳裏にある映像が流れ始めた。
感覚的に、千里眼が発動したというのが分かったので、抑えようとした時に、何か違和感を感じて注視した。
そこは、今自分たちのいるこの部屋であった。
しかしおかしなことにそこに自分たちはおらず、皇帝たちと、部屋の前にいた執事しかいなかった。
(なんだ……これは……もしかして、俺たちがこの部屋に入る前の光景……? 過去のことか……?)
何か不思議な空気を感じながら見ていると、皇帝と執事が会話し始めていた。
〈おい、まだ指輪は完成しないのか?〉
〈申し訳ありません、技師に急がせてはいるのですが、精密な作業故まだ時間がかかるとのことです〉
〈ふむ……仕方ない、まだしばらくは騙すしかないな〉
〈ええ……しかし、簡単に演技がばれることも無いかと。奴らは所詮異世界のもの、しかも相当に平和に慣れた学生だそうなので、気付かれることも無いでしょう〉
そう話しているのを視ながら、智貴は嫌なものを見ている気になっていた。
(もしかして……俺たちのことか? 騙されている……? 一体何のことだ? それに指輪って……)
智貴が考えていると、また会話を始めたようで、聞き逃せないと耳を澄ませた。
〈そう言えばセシリアよ、奴らに植え付けた種はどうなっている? もしも暴走して悪魔が顕現しようものなら、せっかくの駒が減ることになる。しっかりと見張っておるか?〉
〈問題ありませんよ、お父様。それに例え暴走しても、すぐに封印出来る準備はしてあります。それに指輪が出来れば絶対に暴走出来なくなりますので、指輪が出来次第、奴らに付けて下さいな〉
〈うむ、それなら良い。指輪をつけ次第、もう成人済みの全員に一人ずつ与えるから、好きに使うがいい。まあ、戦争の時にはこき使うがな〉
〈お父様、一人って選べるのかしら?〉
〈む? どれか既に決めておるのか? だが、それは兄弟で相談してからだな〉
その会話を聞いていて、智貴は背中に冷たいものが走るのを感じた。
こいつらは、俺たちのことをモノとしか思っていない、しかもそんなことを考えながら今この状況でとても楽しそうに、こちらをそのような目で見ていることを感じさせない表情をして話しているのを見て、智貴は頭が混乱してきていた。
そして、そこであることに思い至った。
(もしかして、健司もこのことに気付いたのか……? それであんなに考え込んでいた……?)
確証は無かったが、智貴にはそうとしか思えなくなってしまい、そこから部屋に戻るまで、表情を取り繕えているのかということしか考えられず、食事の味も、話した内容も何も頭に残ることは無かった。
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