第12話 答え合わせ

「今日であの夢から一週間か……」


 そう、今日で智貴の夢に出てきたあいつに課題を出されてちょうど一週間の日であった。

 今日まで図書館で様々な文献を探したり、梓達と話し合って正体を当ててやろうとしてきたが、決め手となるものがどうしてもなく、ある程度の推測までは出来ていたが、確証は持てないままでいた。

 しかし、もう時間としては日が変わる直前で、すぐにでも寝ないと刻限に間に合わなくなる。

 それを分かっていながら、智貴は寝付けないでいた。


(まだ正体がはっきりと分かってないのに、そのまま寝るなんて……出来そうにねえなあ……)


 まだ日が変わる時間まではほんの少しだが、時間がある。

 せめて日が変わるまではもう少しだけでも調べてみようと思い、図書館から借りてきている書物を手に取り、開いた時だった。

 智貴は急に強烈な眠気に襲われて、立っていられないような状態になってしまった。


(なんだ!? 急に眠くなるなんておかしいだろ!? くそ、でも……もう限界……だ……)


 そのまま智貴は、ベッドに戻ることも出来ずに、床でそのまま眠ってしまった。




 次に智貴が目を開けたときには、智貴は既に夢の中だった。


「おうおう、貴様来るのが遅ぇんじゃねえかぁ? 俺様を待たせようなんて、傲慢な野郎だなぁ?」


 そして、目の前にはニヤニヤとしたあいつがいた。


「おい……もしかして、急に眠くなったのはてめえの仕業か?」


 智貴がもしかして、と思ったことを聞くと、目の前のあいつは肯定した。


「貴様だけが遅かったからな、強制的にこっちに連れてこさせてもらったぜ」


「この野郎……いや、待て、俺だけ? どういうことだ?」


「んあ? 前に言わなかったか? 今頃は他のやつも同じ状況になってるだろうよ、他のやつらも自分の相棒に会いてえって言ってたからな」


「聞いてねえよそんな事、しっかりと伝えろや」


 智貴は、穏やかな雰囲気ではないが、目の前のあいつと話していて気が楽だということに気付いていた。

 おそらくだが、目の前のあいつは智貴と似ているから、相手のことを考えなくていいと思えるからだろう。

 決して口には出そうと思わなかったが。


「さてさて、楽しい楽しい談笑はとりあえずこの程度にしておいて、答え合わせといこうか、俺様の正体は分かったかな?」


「……一応は、けど確証は無いし、同じものなのかが分からないから、絶対の自信は無い」


「それでもいいとも。さあ、答えを言ってみな」


 そう言うと、目の前のあいつはニヤニヤしたままこちらが口を開くのを待つ姿勢になった。

 智貴も、これはもうこれ以上時間を稼ぐことは無理そうだと判断して、目の前のあいつを見据えて、口を開いた。

 そして、これまで考え続けた答えを言葉にした。


「……お前は、七つの大罪の悪魔、その一人、傲慢の悪魔だ」








「…………正解だ、どうせなら名前まで当てて欲しかったがな」

「俺様の正体を当てた褒美だ、俺様の名前を教えてやろう。俺様はルシファー、貴様が言った通り、傲慢の悪魔だ」


 目の前のあいつ、ルシファーの名前を聞いて智貴は、予想が当たっていたことに対する安堵よりも、当たってしまっていたということによる混乱に襲われていた。


「おい、おいおいおい、待ってくれよマジかよ……俺らは悪魔を倒すために召喚されたのに、俺らの中に悪魔がいたらどうするんだよ、最後に自殺しろってか? そんなの許せねえ、勝手に呼び出して用が済んだら死ねってか、そんなの受け入れられる訳ねえだろ……」


 智貴が混乱したまま呟き、どうしたらいいのか分からなくなっていると、ルシファーが、


「まあ、落ち着けよ、混乱した頭で考えたところで何も良いことなんてないぜ? そんなことするぐらいなら、俺様の話し相手になれって。貴様なら話していて面白いだろうし、力の使い方を少し教えてやるって言ったしな」


「そう、だな……てめえに言われたのはムカつくが、その通りだ。じゃあ、力の使い方を教えてくれ、いつまでここに居られるのか分からないから、先に教えてもらいたい」


「いいぜぇ? ただ、俺様がすべてを教えるのもつまらん、力の一端を見せてやるから、そこから勝手に学べ。後は、追々教えてやるよ」


 ルシファーはそう言うが早いか、智貴の頭を掴んできた。


「今から見せるのは、貴様が力を使いこなせれば自由に見ることが出来るようになる光景だ、目に焼き付けろ」


 そうして見せられたのは、ある光景だった。

 それは人間と、それ以外の種族での戦争だった。

 人間に敵対している種族には様々な種族がおり、獣人、エルフ、鬼人、魔族等、多岐に渡り、そのどの種族も人間を圧倒していた。

 しかし、絶対数が少なく、人間の数の暴力の前に敗走していた。

 人間も決して無傷とはいかず、多大な犠牲を払ったうえでの勝利ではあったが。

 そして、負けた種族で、人間に捕らえられた者たちは、男は殺されるか奴隷にされ、女もその前に慰み者にされるだけで、結末は大して変わらない扱いをされていた。


「さて、今の光景を見たか? 今のは、一番最近にあった戦争だ。これ以降はまだ小競り合いのようなものすらないから、実質最後の戦いだな。貴様らが召喚される、大体三か月ほど前のことだな」


「はぁ!? ちょっと待てよ、人間は最近の戦争には負けたって聞いてるぞ!? それで、力を貸してくれってことで召喚したって言ってたぞ!?」


「はぁ? そんなわけないだろ、実際に人間どもが勝ってるだろう? ……いや、なるほど、そういうことか」


「おい! どういうことだよ! 一人で納得してないで、俺にも教えろ!」


「ああ? うるせえなあ、そんなに知りたきゃ自分で見ろ、俺様の力を使えるんだ、どんなものでも視ることが出来る。それが俺の力なんだからな」


「どんなものでも……ね」


「そう、どんなものでも、だ。望めば現在に限らず、過去も未来も見ることが出来る、まあ、未来とは言っても変わることもあるがな。それに未来を見るのは負担が出でけえ、今の貴様が試したところで、脳みそぶっ壊れるだけだからな」




「さて、能力については取り合えずはいいだろ、もっといろんなことを話そうじゃねえか。同胞以外と話すなんて久しぶりで、いろいろと話してえんだよ」


 ルシファーはそう言って、勝手に様々なことを話し始めた。

 智貴は話を聞きながら、また時には智貴も話しながら時間が過ぎていくのだった。


「おっと、もう起きる時間だ、今回のところはここまでだな。次に来たときはもっと話そうや」


 気付いたらかなりの時間が過ぎていたようで、ルシファーはそう言った。

 智貴もまだ聞きたいことはあったが、時間は仕方ないことなので、とりあえず諦めて切り上げることにした。


「じゃあな、簡単に死んでくれるんじゃねえぞ、久々におもしれえ奴に当たったんだ、もう少し楽しませろ」


「お前を楽しませるためにいるわけじゃねえけど、死ぬのは嫌だからな、簡単には死なねえよ」


「クックック、それでいい、その方が面白い」


「ああ、そうだ、最後に一つだけ聞きたいことがあるんだ」


「ん? 今は機嫌がいいから、答えてやろう。何でも聞くがいい」


「それじゃあ、お前らの力を借りることで何かデメリットはあるのか? 身体が乗っ取られたりとか」


 智貴がそう聞くと、ルシファーは少し考え込んで、


「いや、乗っ取ることはねえ。もともと俺様達にも身体はある。今は言うなら魂だけの存在みてえなもんだ。魂と身体は、基本的には引き合うが、既に自分の魂がある身体には基本的には入れねえ。まあ、例外はあるがな。ああ、精神力が弱いと、俺様達の性質に引っ張られることはあるかもな」


「なるほど……分かった、ありがとう」


 そう言って、智貴の意識は現実へと戻っていくのだった。

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