第9話 奴との出会い

(ここは……)


 そこは、暗闇の中だった。

 以前見た夢のような状態で、しかし以前よりも智貴の意識ははっきりしていた。


(なんでこんなとこに……今は魔物の討伐に来ているはずじゃ……)


 そこまで考えてから、自分が負傷して気絶したことを思いだした。


(……待って、戦闘で負傷して気絶って、そのまま死なねえよな……? え、大丈夫だよな? 近くにリリーさんいたよな? なら死にはしないか? それでも、危険なことに変わりはないよな、やばいやばいやばい、早く目覚めなきゃ……でも、目覚めるってどうやるんだ?)


 そんなことを考えていると、突如として以前の夢でも感じた気配が目の前に現れるのを感じた。

 ふとそちらを向くと、目の前にいたのはあの靄ではなかった。

 智貴の目の前には、身体が黒く染まった、中肉中背で智貴より頭一つ分ほど背の高い、整った顔をした男がいた。


「ヨぉ」


 そいつは、ニヤリとしながらこちらに声をかけてきた。

 智貴はその声を聞いて、そこでようやく金縛りにでもあっていたかのように身体が動かなくなっていたことを自覚した。


「な、んだ、おまえ……」


 智貴がかすれた声でそう聴くと、そいつは驚いたように目を見開き、こちらをじっくりと、舐めるように視てきた。

 気味の悪い思いをしながら待っていると、視ることをやめたようで、口を開いた。


「おいおい、人様に誰何する前に、自己紹介も出来ねえのかぁ?」


「っち、誰がてめえみたいな気色悪い奴に自己紹介するかよ。」


「…………くっ、くくくっ、かぁはっはっはっは!」


 馬鹿にされたように感じ、喧嘩腰でそう返すと、目の前のそいつは一度硬直したかと思うと、身体を震わせて笑い出した。


「おもしれえ! 俺様にそんな態度をとるとは! いいだろう、貴様には俺様の力を使う資格があるようだ!」


「資格……? いや、待て、てめえの力だと? どういうことだ?」


「どういうことも何も、人間どもが超能力とか読んでいる力、あれはもともと俺様達の力だ。人間ごときにあんな力があるわけねえだろう? 貴様らに後天的に植え付けられた力は、俺様たちが貸してやってるから使えるだけの力だ。それを、貴様は珍しく最大限に引き出す資格がある! こんなことがあるとは! 長生きするもんだなぁ! はっはっはっ!」


「何なんだよ、うるせえな……」


「まあ、そう言うな! どうせこれから俺と貴様は一心同体なんだ、仲良くいこうぜ! 二人を死が別つまで、ってなぁ!」


「うわ、マジかよ、気持ち悪ぃ……とりあえず、俺に発現した千里眼は、てめえのもんだと?」


「そういうことだ! ……だが、30点だな、俺様の力はそんなもんじゃねえ、そんな搾りカスみてえな力な訳ねえだろう?」


「……は? どういうことだ?」


「そのままの意味だ、俺様達の力がその程度な訳がねえ。貴様らが俺様たちの力の表面しか使えてねえだけ、見えてねえだけだ」


「ふぅん……それなら、てめえの力ってのは、ほんとは何なんだ? 千里眼じゃないって言われても、今まで千里眼として使ってきたんだ、それ以外に使い道があるなんて思えねえ」


「そこが、未熟なところだ、俺様の力はそんなもんじゃねえ。ちょっと遠くを見渡せる程度の力な訳がねえだろう?」


「……じゃあ、何なんだよ」


「おいおい、甘ったれたこと言ってんなよ、そう簡単に教えるわけがねえだろう? ……だがまあ、貴様らがそのまま弱っちいままなのも、俺様達のプライドが許さねえ、俺様の名が汚される。それは、実に腹立たしい、不愉快なことでもあるからな。そこで、課題を与えよう。それをクリア出来たら、とりあえずの力の使い方を教えてやろう」


「……分かった、やろう。俺も力は必要だ、それで、課題ってのはなんなんだ?」


「……クックック、話が早いな、それじゃあ、課題は俺様たちが何なのか、それを当ててみろ、それが出来たら、力の使い方ってもんを教えてやるよ。期限は、そうだな……7日後の深夜、日が変わる時間にしよう」


「ちょ、待て! ヒントも無しに分かるわけないだろう!?」


「知らんな。分からなかったら力を使いこなせないだけだ……とはいえ、それは俺様達もつまらないからな、そうだな、貴様の仲間に相談することを許してやろう。存分に悩むがいい」


 そいつは、そう言うといつの間にか消えていた。

 そして、次の瞬間には智貴も夢の世界から追い出され始めていた。


(くそ、なんなんだあいつ……とりあえず腹立つ野郎だったな……)


 意識が浮上していくのを感じながら、智貴はそんなことを考えるのだった。





 ―――――――――――――――――――――――――――


(クックック……本当に面白い奴に当たったもんだな。人間どもに感謝することになるなんて思わなかった)


「おい、****、面白い奴って、俺らを置いて先に行きやがったのか? てめえ、抜け駆けは禁止とかいいながら……ずるいじゃねえか」


「おお! ++++か! まあ許せ! あいつが弱かったから、俺が一時的に浮いて行っちまっただけなんだからよ! そのうち安定すれば貴様も会うことがあるじゃねえか」


「ま、そうだがな……へえ、そんなことがあったのか、ついでに俺らのことも気付いてくれりゃあ、楽にはなるからいいかぁ」





「おいおい、何も言ってねえだろう? 俺様達の間でそれを使うのははいただけねえなあ?」


「ああ? お前が駄々洩れにしてるのが悪いんだろ」


「ああん? 貴様、俺様に逆らおうってか?」


「ああ? 何言ってやがる、俺もお前も対等だろうが、忘れたかこの傲慢野郎め」


「はっ、対等であろうと関係ないな! それが俺様だ!」


「……ああ、そうだったな、まあ、仕方ねえことだな。それより、久しぶりに起きたんだ、いろいろと話をしようぜ。俺も色々と知りてえしなぁ」


「おお! それはいいなあ! しかし、他のやつらもこちらに来ている。どうせなら全員揃ってから話そうじゃないか!」


「ああ、そうだな。まあ、それまで待つとするか」


「クックック、久方ぶりの同胞、面白き相棒、心が躍るなあ!」


 ……それからしばらく、そこでは2つの話し声が響いていった。

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