第8話 初めての戦闘
図書館から部屋に戻って、そろそろ休もうかとした時だった。
部屋の外からノックの音が聞こえた。
それだけなら、時間も遅くなっていたこともあって無視しようかと思ったが、少しして声がかけられた。
聞き覚えのある声に反応して扉を開けると、思った通りの人物、梓が立っていた。
「梓、どうした? 休まなくていいのか?」
何故か顔を伏せたままの梓にそう聞くが、梓は何も答えずに智貴の腕をとると、部屋へと入り扉を閉めて、ベッドへと向かった。
「お、おい、どうした梓」
そう聞くが、やはり何も言わずに、智貴を押し倒した。
そこでようやく梓の顔が見えて、いつもと様子が違うことに気がついた。
瞳の色が薄いピンク色になっており、顔全体が赤く上気していた。
「智貴、助けて……身体がおかしいの、なんだかすごく熱くて、」
「助けるって言っても、何をしたらいいのか……体調を崩したのか? もしそうなら医者を呼んでもらわないと」
「違うの……お願い、そんな状況じゃないって分かってるんだけど、どうしても身体の疼きが収まらないの……」
梓の言葉を聞いて意味を理解した智貴は、心臓が暴れだすのを、理性が崩れ始めているのを感じていた。
それも仕方ないことだろう、梓からこんなに求められて、喜ばない男もいないだろうから。
惚れているということを抜いても、梓は美少女で、スタイルも悪くはない。そんな梓に迫られて、智貴は我慢できなくなっていくのを感じていた。
「ほんとにいいんだな……? 俺ももう我慢できないぞ?」
「うん……智貴となら、怖くないから」
梓にそう言われ、ついに我慢の限界となった智貴は、押し倒されていた状況から反転し、梓を押し倒す形になって、そのままかなり濃厚で長い時間を二人きりで過ごした。
翌朝、目が覚めて横で幸せそうに眠る梓を見て、これからの訓練でしっかり強くなろう、梓をしっかり守れるように、と智貴は思ったのだった。
それからの訓練は、自分が使うと決めた武器を重点的に伸ばすように、それぞれに一人教官がついて詳しく教わったり、魔法を自由に使えるように魔力の強化から、実際に魔法を使い、より効率的に、強力な魔法を使えるようにする訓練をしたり、超能力の効果を使いこなすために、それぞれが課題をこなしていくなどの訓練が続いていった。
智貴はその訓練の合間に、たまに訪れるようになったルーカスと様々なことを話したり、夜には梓とイチャイチャしたりと、充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、智貴たちは皇帝に呼ばれた。
何事かと不思議に思うも、魔族などの情報についてはあまり聞かされておらず、判断材料も無かったので、とりあえず皇帝の元へと向かった。
以前、皇帝に呼び出されたときと同じ執務室に行くと、部屋に入ったすぐに皇帝が話し始めた。
「諸君らの頑張りはよく聞いている、武器も魔法も超能力もかなり出来上がってきていると。そこで、だ、頼みがある、最近、帝都付近で魔物の活動が活発になってきているらしい。今も冒険者たちがそれなりに討伐をしているようだが、数が多く苦戦しているらしい。そこに諸君らも討伐に行ってきて欲しい。軍を動かすことも考えたのだが、いつ魔族共が攻め込んでくるか分からない以上、軍を疲弊させるのは避けたい、というところで、諸君らの訓練の具合を実践でも確かめるためにも、魔物と戦ってきて欲しい」
皇帝にそう頼まれて、帝都を出てすぐの森で魔物討伐に行くことになった。
魔物討伐には、引率としてハロルドとリリーがついてきて、帝都の西門から出た辺りで魔物の討伐をすることになった。
「さて、これから魔物を相手に訓練する訳だが、基本的に人間ってのは他種族よりも力も弱ければ、頑丈でもない。なので、基本的に他種族に力で傷を負わせることは出来ない。武器や魔法などの技を上手く使うしかない。上手くやれば素手で倒すことも出来るが、基本的には武器を持って、攻撃は極力避けるようにして戦ってくれ」
「分かりました、それで、今日はどのぐらい討伐するんですか?」
「今日は、そうだな……一人につき3匹魔物を倒したら終わりにしよう」
「3匹? 少ないんですね」
「まあ、最低3匹だから、それ以上討伐しても良いが……まあ、頑張れ」
ハロルドはそう言うと、リリーと一緒に智貴達から少し離れた所へと移動して、静観する構えになっていた。
それから、智貴達は何かいないかと探しながら周りを動き回っていた。
すると、突然健司が、
「なんかいる」
と言い出した。
しかし、近くには自分たちと、少し離れたところにハロルド達がいる以外は何もいない。
智貴は健司に、気のせいじゃないかと聞き返すと、健司は超能力を使っていたようで、
「いや、地獄耳に足音とか息遣い聞こえてくるから、いるはずなんだよ。智貴の千里眼で周り見てみてくれないか?」
「ああ、なるほど、ちょっと見てみるわ」
そう言って、辺りを見渡すと、確かにいた。
「確かにいる。あれは……コボルトだ、こっちに向かってきてる!」
智貴のその言葉を聞いて、皆が緊張し始めた。
そんな中、竜太は今から戦う相手のことが気になったようで、
「コボルトってどんな奴だ?」
そう聞いてきた。
智貴は図書館で魔物図鑑も読んでいたので、そこに書いてあった特徴を皆に手早く伝えることにした。
「コボルトは、二足歩行の犬みたいな見た目をしていて、あんまり力は強くないけど、動きがとても速く、群れで行動して獲物を狩る。雑種だけど肉を好んで食べるので、よく人も襲われるそうで、少人数で遭遇すると逃げ切ることは困難。武器は爪と牙で、そこさえ気を付けていれば、致命傷は受けにくいはず」
「おっけー、じゃあ近付いてきたらまず魔法とかで遠距離から攻撃して、接近したらそれぞれ武器で戦うか。智貴、何匹いるかって分かるか?」
「今数えてる……12匹かな? この速さなら、あと10秒程度で見えると思う! 魔法の準備を!」
智貴がそう言うと、全員魔法を使うために魔力を集め始めた。
智貴も魔法を使おうと、魔力を集めて、あとは発射するだけの状態にして、コボルトたちが見えるのを待っていた。
「……来た!」
コボルトたちが木々の間から見えて、魔法をそれぞれが発射しようとした時だった。
智貴はコボルトと目が合った。
すると、何故か目の合ったコボルトが何かに気付いたようで、一瞬怯えたような気がした。
しかし、それを確かめる前に他の皆が魔法を発射し始めたので、智貴も遅れて魔法をコボルトに向かって発射した。
それぞれの魔法が炸裂し、コボルトに当たったものはコボルトを、コボルトから逸れて周りの木や岩に当たったものはそれらを破壊した。
それと同時に身体が脱力するのを感じたが、ここで倒れたら襲われるだけなので、座り込みたくなるのを耐えて、武器を構えた。
最初の魔法でコボルトの半数を削れたようで、一人当たり一匹を討伐すれば、群れを壊滅出来そうだったので、ここからは一対一になった。
智貴は弓を構えて、コボルトに狙いをつけようとしたが、狙われていることが分かっているようで、なかなか狙いをつけられない。
(くそ! このままじゃ当てられない……!)
なかなか狙いをつけられないまま徐々に近づいてくるコボルトに、焦りが出てくるが、焦っても狙いをつけられるわけもなく、ついにコボルトとの距離がほんの数メートルとなった。
「あっ!?」
目前まで近づかれたことへの焦りと恐怖で、弦にかけていた手が緩んでしまい、明後日の方向に矢が飛んで行ってしまった。
当然、矢がコボルトに当たるはずもなく、好機と見たコボルトが智貴に飛びかかってきた。
恐怖で身を固くしてしまい、智貴は飛びかかられたまま、左の肩に噛みつかれてしまった。
「ぐっ!? 痛ぅ!」
智貴は急いで弓から手を放し、予備の武器として持っていたナイフを密着しているコボルトに何度も突き刺した。
何度か刺したところで、コボルトの噛む力が弱まってきたので、少し落ち着いてきて、コボルトの首にナイフを突き刺した。
それが致命傷となったようで、一瞬ビクンッとコボルトの身体が跳ねたあと、身体が脱力して、そのまま倒れた。
それを見て、智貴は初めて生物を殺した感覚と、負傷のせいで倒れそうになったが、梓達のことが気になり、周りを見渡すと、健司、竜太、拓也はもう倒し終わっていたようで、梓、結衣、美咲ももう少しもすれば倒せるだろう状況になっていた。
それを見て、一瞬気が緩み、そのまま出血で血が足りなくなったのか、身体が徐々に傾き、地面にドサッと倒れた。
「智貴!?」
健司がそう叫んでこちらに走ってくるのを見ながら、智貴の意識は遠のいていった。
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