本編

第1話 召喚

 その日は、その瞬間まではいつもと特に何も変わらない一日であった。

いつも通り授業を受け、その日の学校は終わり、部活に向かおうとしていた時だった。

いきなり学校が光り始め、人間だけが徐々に消え始めた。


「おいおい、なんだよこれ! なんなんだよこれは!」


「ちょっと! 消え始めてるんだけど!? 待って! まだ死にたくない!」


「おおお! これはまさか異世界召喚というやつでは!?」


「同志よ! そのようですな! これは楽しみでござるな! また向こうで会うでござるよ!」


 ……一部、周りと違う理由で興奮しているのもいるようだが、至る所で混乱が起き、阿鼻叫喚とした状態であった。


 俺は、そんな様子を見ながら、自分も消え始めているのを見て、


(あいつだけでも助かればいいんだけど……)


と、考えながら、意識が薄れていくのを感じ、目を閉じた。



 徐々に意識が浮上してきて、目を開くと、周りには、自分のほかに六人、まだ倒れたまま高校の制服を着た人間と、豪華な服を着た、初老の男性、おそらく年は同じくらいであろう、これまた豪華な服を着た少女と、鎧に身をまとった十数人の人、そして、大量の血痕が地面にこびりついていた。

 俺の意識が戻ったのを確認したのか、初老の男性と、少女がこちらに近づいてきた。


「勇者様! お目覚めになりましたか! お身体は異変などございませんか?」


と少女が聞いてくるので、俺は七人を代表して、


「ええ、大丈夫です。それより、いくつか聞きたいことがあるのですが、答えていただけますか?」


そう聞くと、意外にもあっさりと、承諾されたので、気になっていることを聞くことにした。


「まず、ここはどこですか?」


「ここは、あなたたちの住んでいた世界とは違う世界で、その中の人間国家である、ユダリオン帝国です。横にいらっしゃいますのが、現皇帝、ブリジット・エル・ユダリオン陛下、そして私は第二皇女のセシリア・エル・ユダリオンです。」


「世界が違うということは、あなたたちが、俺たちに何かをした、と?」


「ええ、申し訳ないと思いますが、あなたたち七人をこちらの世界に呼ばせていただきました。私たちの世界には、悪魔、または魔族と呼ばれる存在がいます、そのものたちは、人間に対して悪逆非道な行いを繰り返してきていて、私たちでは対処できずに、神に祈っておりました。すると、異界より、勇者を召喚せよ、という神託が下りたので、古来から伝わる勇者召喚の議を行い、あなたたちを呼び出させていただきました。」


「勇者として召喚されたところで、俺達は普通の学生です。特別な力なんてありませんよ?」


「それについては問題ありません。文献にも勇者様方は、魔法と相性が良いらしく、高難度の魔法も使えるようになるのだとか。それに、こちらに来る際に、一人一人に特別な力が宿っているはずです。ただ、今は、召喚直後で身体に力がなじんではいないでしょうから、すぐに使うことはかなわないでしょうが。」


「なるほど……。ところで、この周りの大量の血は一体? 何があったのですか?」


「これはですね……実は、勇者様を召喚するには、それに見合うだけの対価が必要でして、そのために、犠牲になった方々です。無辜の民、というわけではなく、犯罪を犯し、死刑の確定しているものだけを犠牲には致しましたが、それでも気分は悪くなりますよね、申し訳ありません……」


「そういうことでしたか。では、ひとまず、今はこれで終わりにしておきます。俺も少し身体が重く、正直もう眠りたいところなので。ただ、最後に一つだけ。俺たちは、元居た世界に帰れるのですか?」


「帰ることには帰れます。ただ、そのためには莫大な魔力が必要となるのです。そのために、魔族の身体の中にある、魔力生成器官を大量に集めて欲しいのです。こちらに呼び出すのはまだ私たちの生み出す魔力でなんとかなるのですが、送り返す、となると、場所の指定や、世界を超えるために莫大な、それもこちらに呼び出すのとは比較にもならないほど必要になるのです。奴らの生み出す魔力は人間の物より高性能で、そちらが必要となるのです。」


「なるほど、分かりました。では、とりあえず、休む場所をいただけますか? そろそろ眠気も限界なので……」


「あっ、申し訳ありません。今すぐにお連れします。」


 その言葉を聞き、俺は力が抜け、座り込んだ。

そして、鎧を纏った人たちに担がれて運ばれるのを感じながら、意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る