エピローグ
「消えちゃったね」
「消えましたね」
「消えたな」
この世から全てのランクが消えるというある意味衝撃的な結末になった訳だが、俺たち三人の感想は意外とあっさりしたものだった。
確かに最強ランクになったのになくなってしまったのはもったいない気がしなくもないが、魔王、天使、神の三者を倒したのだ。もはや強敵を倒すのは大分満足した。
「でもイリスはSR神官だって言ってたけどいいのか?」
「別にいいですよ。私は最強ランクになりたい訳じゃなくて最高権力者になりたかっただけなので」
イリスはけろりとした表情でそう言った。
確かに、それはそれでイリスらしい。
「実際問題、王という形かは分かりませんが。多分誰かまとめ役みたいな人が現れないとこの世界収まらないと思いますよ。という訳で勇者様もしばらくは手伝ってくださいね」
「いや、もう力を失ったから勇者ではないだろ」
口ではそういうものの俺は手伝う気ではあった。実はランク自体は消滅したものの、俺が受けた女神の加護が残っているせいか、ランクはなくとも俺は周りの人々よりは強かったし、魔王討伐という実績もある。
さすがに天使討伐と神討伐は公表出来る実績ではないのが残念だが。
「よくぞカタストロフを阻止しました」
「うおっ、女神様!?」
そんな俺の前に例の女神が現れる。イリスには見えていないのか、俺の方を見て怪訝な顔をする。リアは見えていて何となく正体を察したのか、驚いている。
神が滅亡したら女神も消えるのかとも思ったが、むしろ体の光が増しており、元気そうだった。神と対立して力を弱められていたのが元に戻ったのだろうか。
「まあ、俺だってそんなことが起こるのは嫌だからな」
「神界には神が作った神族がまだ何人も残っていますが、私は今後彼らが下界に関わらないようにいたします」
「それは助かる。また変な気まぐれでカタストロフとかされても困るからな」
「はい、それではいい世界を作ってください」
そう言って女神はどこへともなく消えていった。俺は今起こったことをぽかんとしているイリスに説明する。
話を聞いたイリスは最初はぽかんとしていたがほっと息を吐いた。
「よく分かりませんが、もう関わってこないならそれが一番ですよ。人間だけでもまとめるのが大変なのに神族なんて入ってきたらとてもじゃないですがまとまりません」
イリスの言う通り、世界は乱れていた。まずアルトニア王国が光の環に権力を委ねて光の環が消滅。教会は援助を申し出たがその教会もリアが代償として使ったために消滅。がらあきになった旧教会領に周辺国はこぞって兵を出そうとしており、その中にはアルトニアも含まれていた。
ちなみに俺たちと神の戦いのごたごたは魔王軍残党による奇襲ということで処理された。これ絶対陰謀論出るだろ、と俺は思ったが陰謀論者もまさか神を倒したとは思うまいが。
その後イリスは教会領に集まって来た国の者たちを集めて会議を開いた。もはや軍事力のない教会であったが、各国が同時に兵を出したために侵攻国同士の争いが起きかねなかったため、仕方なく会議に応じた。
その場でイリスは言った。
「神託があり、神様はしばらくお休みになられるとのことです」
大半の人々は“光の環”事件やカタストロフの話は聞いたことがない。なので認識としては「魔王討伐が成功したからか」ぐらいのものだった。
「とはいえ、大きな問題はないでしょう。神様が次に目覚めたときに安心されるような世の中を皆で作っていきましょう」
イリスの演説に心を打たれた人々は拍手喝采であった。侵略しにきたのに何でだよと思ったら再びリアが魔法を使ったらしい。原理はよく分からないが、ランクという概念はなくなってもリアの概念魔法は使うことが出来た。
これは下手したらリアが次の神になれるんじゃないか、と俺は思ったがなって欲しくはなかったので口にはしなかった。もしかしたらリアもその可能性に気づきつつ黙っていたのかもしれない。
ちなみにその間俺は、黙々とイリスに送られてくる各国の刺客を魔法で排除していた。他国の中にもイリスが魅了で外交していることに気づいた者がいたらしい。
こうして、魔王討伐から始まったもろもろのごたごたはいったん収まったのだった。
「結局、世間の人みんなリアと同じようにランクなしになっちゃったんだな」
それからしばらくして、世の中が大分落ち着いてくると俺はリアと二人で遊びに出るようになった。イリスと違って俺たちは特に政治的な地位に興味はなかったからだ。
ランクがなくなって前よりは俺たちと他の人々の垣根が低くなったとはいえ、俺たちの仲は変わらなかった。
「そうだね。元から神が適当につけたものだから大して気にしてなかったけど、嬉しいような寂しいようなって感じかな」
「嬉しいような寂しいような?」
「うん。実際にあなたと同じ”普通の人”になれたのは嬉しいけど、特別な人じゃなくなったのが寂しいなって」
いや神の血を引いてるだろ、という野暮な突っ込みはしないでおく。
リアの中でそのことは完全になかったことにされているようだった。
「そうか、じゃあ俺の特別な人になるか?」
「え、それはどういう……」
言いながらリアは俺の意図に気づいたのか、顔を真っ赤にする。
というか、俺もこんな流れで言うつもりはなかったのでかなり恥ずかしいんだが。
「どういうも何も、そのままの意味だ」
「……分かった。私もあなたしかいないって思っていたから」
そう言ってリアが俺に体を寄せてきたので、俺は彼女の唇をそっと奪う。
もはや世界に倒すべき巨悪のようなものはいない。俺はリアとともに静かに余生を送ることにしたのだった。
SRパーティーに追放された俺は女神の加護『限界突破』でSSSRランクに覚醒し、神をも超える 今川幸乃 @y-imagawa
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