消失
魔法の集中砲火を浴びた神だったが、そこはやはり圧倒的な生命力のようなものがあるのだろう、それでも立っていた。とはいえ闇の矢に副作用があったのか、ところどころに呪いの紋章のようなものまで浮かび上がっているし、傷はいたるところについている。
「げほんげほん! よくもやりおったな……しかしそちらの聖遺物は尽きたようだ。そしてメテオストライクも無限に撃てるという訳ではないだろう」
神はまだ負けるつもりはないようだった。まあ、正直これだけで勝てるとは思っていなかった。だからセレスティア教会ほどの切り札ではないが、こちらにもカードはまだ残っている。
「おいおい、LRになったのに俺の攻撃手段がSSSRのときのメテオしかないって本気で思ってるのか?」
「何だと……?」
神の表情が初めて変わった。
ダメージを与えることしか出来ないメテオストライクは初手から使ったが、LRで覚えた魔法は相手の手の内を見て、さらにある程度弱らせて動きを封じてからでないと効果が薄いものであった。
「ブラックホール」
俺が唱えると神の真後ろに虚無の穴が開く。
その穴の中には何もなかった。
ただの空洞ではなく、完全な無。
無は近くに“有る”物で無を満たそうと猛烈な吸引力を発する。
俺は右手でリアの手を、左手でイリスの手を握る。周りにあったものは次々とブラックホールに飲み込まれていく。
竜巻の中外を歩いているときのような勢いで教会のものが飛んでいく。散らばっていた瓦礫も、噴水の近くに立っていた石像も。
神の周りにあったものはすでに先ほどのメテオで破壊されており、掴まるものは何もない。
だがそれでも神は超人的な脚力で地面に踏みとどまっていた。
そして鬼のような形相でこちらを睨みつける。
「おのれ人間め……。だが神である予よりも長くこの地に踏みとどまることが出来なければ死ぬのはお前だ」
そこで俺は先ほどの”星を墜とす弓”をまだ持っていたことを思い出す。
「リア、これを使ってくれ」
「はい、スリップ」
リアが呪文を唱えると最後の聖遺物が消滅する。同時に神の足元の地面から摩擦が消滅した。
「うわあああああああああああああああああああああああ!」
神は悲鳴とともに虚無の穴に吸い込まれていく。
俺はそれを確認して魔法を終了する。あれほど猛威を振るった神ももはや痕跡すら残されていなかった。俺は改めてLRの魔法の威力に戦慄する。もしも神がもう少し戦い慣れていたら俺たちは負けていただろう。
神もブラックホールも消滅し、瓦礫が散らばる周囲を見て俺はほっとする。
「しかし神が滅びても世界は元のままで良かったですね」
「そうだね、もしかしたら神が滅びた瞬間世界が滅亡するかもと思ってどきどきしてたけど」
二人もほっとしたようである。見たところ世界に異常はない。空も大地もあるし、リアが消えるなどということもない。
だが、神の消滅による影響は大きかった。
所変わってアルトニア王国。
フレッドらSRパーティー三人は天使の消滅後、意識を取り戻していた。
「全く、急に”戦争なんてしない”とか言いやがって」
「というか何だったんだ、あれは」
急に気絶させられ、知らない部屋で目覚めるという不可解な体験をした彼らは苛々しながら仕事探しの旅を再開していた。しかし、魔王も倒され戦争もなくなったため、SRの戦闘力が要求される仕事はあまりない。むしろどうでもいい依頼をして高額の報酬を要求されも困るので敬遠すらされていた。
そんな中、三人はアルトニアで飢えた者たちが集まって国境沿いで山賊まがいのことをしているのを発見した。
「おい、行きがけの駄賃だ。こいつらなら痛めつけても誰も文句言わないだろ」
「いいこと言うな、フレッド」
「いや、やめようよそういうのは……」
マリナは止めようとするものの、山賊たちは実際に通行人を脅して金を巻き上げている。
「おいお前ら、そんなことして許されると思っているのか?」
フレッドがドスの利いた声で山賊たちを脅す。その声に反応して山賊たちは振り向く。しかし食い詰めた者たちが集まっただけの山賊集団がSR冒険者に敵う訳がなかった。
「お前ら、剣っていうのはこうやって使うんだぜ」
そう言ってマークが一人の山賊の腕を斬り裂く。ぐわっと悲鳴を上げて男はその場に倒れる。他の山賊たちはそれを見て顔面蒼白になるが、逃げようとする彼らの後ろにフレッドが回り込む。
「おいおい、通行人を襲っておいて自分たちだけ逃げようだなんてそうはいかねえよな?」
「ひいっ、助けてください!」「こうするより他に生きる道がなかったんです!」「命だけは!」
山賊たちは慌てて武器を捨ててひざまづく。それをフレッドとマークはにやにやしながら眺め、マリナが必死に止めようとする。
が、フレッドは残虐な笑みを浮かべて近くにいた男を浅く剣で突きさす。男はぎゃっ、と悲鳴を上げた。
「おいおい、謝ったぐらいで許されると思っているのか?」
が、そのときだった。
突然、遥か遠くで何かが光ったかと思うと三人は体から何かが失われたような気分になる。
「ん、何だこれは……」
「あの、神の加護もランクが失われている」
怪訝な顔をするフレッドに対してマリナは恐るべき事実を告げる。
山賊たちも同様のことが感覚があったのだろう、しばらく困惑していたが、やがて気づく。
「ランクさえ失われれば俺たちの方が人数は多いんだよ」
「さっきはよくもやってくれたな!?」
「やっちまえ!」
「な、なぜだ!」「なぜ力が使えない!?」
フレッドとマークは抵抗するものの、SRランクの力はきれいさっぱり失われてしまった。こうなれば十人以上いた山賊に二人が勝てるはずもない。寄ってたかって二人はぼこぼこにされた。
ちなみにその様子を遠くから眺めていたマリナは静かにその場を離れた。ランクが失われた以上この二人と付き合うのはやめようと思ったためである。
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