最後の戦い Ⅰ

「さて、好きにかかってくるといい」


 神は俺に向かって中指を突き立てる。およそ神のやる動作ではないが、先手をとれるということはおそらくこちらが有利なはずである。そして勝つためには最初に最大火力をぶつけるのが定石だ。


「メテオストライク」


 空が暗くなり、特大な隕石が神に向かって降りそそぐ。その辺りは俺がSSSRだったころと同じなのだが、一つだけ違うことがあった。隕石が降ってくるまでの間、周りの人間が凍り付いたように動きを止めているのである。そして俺の身体も動かない。もしやこれは……限定的な時間停止か?


“違うな、これは空間固定だ”


 口に出してもいないのに頭の中に神の声が響く。ちなみに神の口もしっかりと固定されており、声が発された訳ではない。

 そしてその間も天空から降り注ぐメテオストライクだけは停止せずにこちらに向かっている。元々タイムラグがあるのが欠点の魔法だったが、タイムラグを埋めるのではなくその間の動きを封殺することで欠点が解消されたらしい。


“お前、俺の心が読めるのか?”

“そうだ。そして時間が止まっていない以上、空間が固定されたところでやりようはあるー概念化”


 すると目の前の神の姿が周囲の空間に溶けるようにしてなくなった。そして神が立っていた場所に隕石が命中する。その瞬間に空間固定が解ける。


「星の盾」


 目の前に俺たちの姿を覆うほどのきらきらした星が現れ、隕石の爆風を防ぐ。これも先ほどランクが上がって使えるようになった新技だ。

 そして爆風と星が消えると目の前に老人の姿が戻っていた。一応服が汚れているがダメージを受けているようには見えない。

 俺がいぶかしんでいると、ご丁寧にも向こうから説明してくれた。


「今、予は世界という概念そのものになった。今予が受けたダメージは世界が今の攻撃で受けたダメージに過ぎない」

「要するにこの世界は今の隕石程度じゃ滅びないってことか」


 世界ごと滅ぼす勢いで撃てば倒せるのだろうが、それでは本末転倒である。

 とはいえ戦いはまだ始まったばかりだ。一発で決着をつけるのが不可能だった以上、俺に出来ることは出来るだけこいつの手の内を明らかにすることである。


「ならこちらから行くか。お前は老衰死する」


 神はこちらに指を向ける。得体の知れない魔力に俺の身体が包まれていく。くそ、LRになってもやはり神の魔力には勝てないのか。


「魔法耐性付与!」


 リアが聖遺物を代償に魔法をかけ、俺は魔法の加護を受ける。


「神の加護」


 イリスからも聖なる光が現れて俺の身体を包み込む。これも確か俺の魔法耐性を高める魔法だったはずだ。

 二人分の強化魔法を受けて俺は神の魔法をはじくことに成功したようだった。神とはいえ、魔力はLRの魔法耐性をやや上回る程度のものでしかないらしい。

 しかし神相手に神の加護を使うところはいかにもイリスらしい。


「予に敵対する者に勝手に加護を与えるとは生意気な神官だ」

「ランク至上主義の教えに従い、格上のランクの方を助けるまでです」


 イリスは平然と言ってのける。ちなみに基本的には二人の火力で神にダメージを与えるのは難しいだろうということで、支援に回ってもらっている。

 まあ、リアは切り札を隠してはいるが。


「それならば面倒だが物理的に行かせてもらうとしようか」


 老人の手に一振りの剣が現れる。


「ディメンジョン・ソード」


 俺はこちらに向かってくる神に対し、杖から魔法を発射する。しかし神が無造作に剣を振るうだけで、空間を斬り裂く無属性の魔法は次々と打ち落とされていった。


「死ね」


 次の瞬間、神は目にも留まらぬ速さで俺の目の前に現れる。

 しかし目の前から魔法を放てば剣で打ち落とす間もなく当たるだろうか、と思い俺はもう一度魔法を発動する。


「ディメンジョン・ソード」

「キャンセル。死ぬが良い」


 が、俺の魔法は神の一言で消滅する。

 そして神の剣が俺の身体に振り降ろされる。その鋭い軌跡を避けることは不可能だった。


「ぐはっ」

「蘇生」

 

 神の剣が俺の身体を右肩から腰の辺りへと真っ二つに両断するが、すぐに後方からイリスがSRランク最上位の回復魔法を唱える。

 筆舌に尽くしがたい痛みが走るが、神の剣が俺の身体を切り裂いた端から俺の身体は再生していく。見ると傷口からは白い蘇生の光が溢れ出ていた。


「いてて……死ぬかと思った」


 元の俺なら痛みだけで卒倒するレベルであったが、ランクが上がったせいか苦痛はすぐに消えていった。


「面倒な。気が変わった。後ろ二人から消す」


 神の表情から余裕が消える。

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