降臨

 俺たちが何とも言えない興奮に包まれていると、目の前に謎の白髪の老人が現れた。見た目はただの老人なのに、なぜか全く勝てる気がしない。そもそもメテオストライクが当たっていたはずなのに普通に歩いている。物語だと主人公を修行させてくれそうな風格の老人だな、と思ったが俺は直感する。

 こいつが神だ。

 そして同時に俺の最大の敵でもある。


「お前が神か」

「そうだ。全く、人間ごときが予に楯突くなど愚かなことを」


 彼は何の衒いや驕りも感じさせずにそう言った。恐らく本心からその通りに思っているのだろう。


「ふざけるな! 俺たちは生きてるんだ。失敗したからと言ってはい処分、などという訳にいくか!」

「そうだ。人間はあまりにも不完全な存在。失敗作。もちろんお主やそこの神官は例外だがな。だから予は哀れになった。創造主としてこの不完全な作品を進歩させていく義務がある」


 何様のつもりだ、と言い返そうとしたがこいつは正しく神であり造物主であった。

 だが、一方で俺は少しだけこいつの言うことを理解してしまう。例えば俺たちが剣を打とうとして失敗した場合、廃棄するか鋳直すだろう。廃棄というのがカタストロフによる粛清で、鋳直すということが聖遺物による”変化”(あえて進化とは呼ぶまい)だとすれば、こいつの言っていることは理解出来なくはない。


 問題は俺たちは生きていて、ただの道具ではないということだ。


「俺たちを道具か何かのように使い捨てるのはやめろ!」


 すると俺の言葉に老人は不愉快そうに吐き捨てた。


「ああもうがたがたうるさいな! こっちはな、世界を一度滅亡させてゼロから作り直しても良かったんだぞ。それをカタストロフに留めてやろうと言ってるんだ! むしろ温情ではないか!」

「ふざけんな! そんな身勝手なこと絶対に認めない!」


「ちょっといいですか?」


 俺が神と言い合っていると、後ろからイリスがささやく。神官だしきっと何か神に言いたいことがあるのだろう、と思って前を譲る。

 イリスはこほん、と咳払いすると神に向かって叫ぶ。


「神よ。あなたは我らにランクによる秩序こそ絶対だと教えを授けました。しかしあなたは自らがその秩序から外れている。それはダブルスタンダードなのでは?」「はっ、たかだかSR風情が思い上がるな。大体どこの世界に自分が作った秩序の枠内に入る神がいると言うのだ」


 神は露骨に馬鹿にした笑いを浮かべる。

 が、イリスは動じない。


「実は私のランクを最強にする方法は用意してあります」

「え、お前いつの間に……その鏡と聖杯じゃないよな?」

「違いますよ。まず勇者様が神を瀕死にします。そしてその喉元に刃を突き付けてリアが魔法を使うのです。“イリスのランクを最強にする魔法”を!」

「……使わないけど」


 リアはきっぱりと却下する。そもそも神にランクはないから概念魔法の代償には出来ないんじゃないか、とも思わなくはないが。

 イリスがさらに文句を言おうとするが、それよりも重要なことがある。というか神を前にして茶番を繰り広げようとしないで欲しい。先ほどまで真剣な話をしていたのに空気がぶち壊しである。まあ、ある意味緊張はほぐれたが。


「それよりもリアで思い出した! 結局リアは何者なんだ!」


 俺は神に問う。


「ああ、予が地上に遣わした者が勝手に子を作りおってな。ちょうどいい、お主は予と一緒に天界で暮らそう。お主の価値を理解せずに虐げてきた愚かな人間たちと一緒に暮らすのは哀れだ」

「嫌だけど」


 これもリアは否定する。神はこんなだし、この世界の人々には虐げられるしでこいつも大変だな。正直なところ、つくづく同情する。


「ふん、勝手にしろ。だが、予と敵対する意志がないならここから立ち去れ。予の力は強大でな、制御が効かずに当たってしまうかもしれん」

「結局私もお前にとっては使い捨ての物でしかない人間と大して変わらないってことでしょ? それなのに今更肉親面するな!」


 リアが珍しくキレている。ここまでの神の物言いがよほど気に障ったのだろう。

 とってつけたように憐れんでいるが、それならもっと早く助けろという話ではある。


「あーあ、どいつもこいつも愚かな。お前たちは創造主に立ち向かってなぜ勝ち目があると思っているのか。本当に愚かだ」

「知ってるか? 子供っていうのはいつか親を超えるものなんだよ。冥土の土産にそれだけ教えてやる」


 俺の分かりやすい挑発に神は怒気を露わにした。俺たちは刺すような視線に射すくめられる。


「いいだろう、そこまで言うのならばお前たちまとめて葬ってくれる」


 こうして、最後の戦いが始まった。

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