人の証

 俺たちは無言で教会に向けて歩いていた。村がクソだったのはさておき、リアはやはり人ならざる存在だったのである。最初にレアリティ不詳だったときから何かあるなとは思っていたが。


 もうすぐ教会に着くというとき、不意にリアはぽつりと口を開いた。


「私が神的な存在だったとして、どうする?」

「そんなの俺が聞きたい。ちなみに神と人間、どっちが好きだ?」

「どっちも嫌い」


 リアの答えは明快だった。確かにリアの視点からみればどちらに対しても好きになる要素はないだろう。


「聞き方が悪かった。どっちになりたい?」

「あなたはどちらかになれるとしたら、どっちになりたい?」


 そう言ってリアは俺を見つめた。俺の答えは決まっている。


「人間」


 俺の言葉にリアは少しほっとしたようだった。


「じゃあ私も人間になろうかな。でも、この世界の人間はみんなランクがあるんだよね」

「そうらしいな」

「じゃあ私にもランクを決めてよ。私なんてランクさえ決まっていればちょっと変な力が使える人間になる訳だし。仮にランクっていう概念が神様が人間につけた記号だったとしても、ランクがあれば私は神的な存在から人的な存在になれる訳だから」


 なるほど、人間から見ればランクは自分たちの可能性を縛る檻、もしくは自分の他者への優位を示すステータスに過ぎないが、人間であることの証と捉えることも出来るのか。


 世の中の存在を二つに分けるとすればランクの有無というのが一つの指標になる。そしてリアはこちら側にいることを望んだ。

 だが、どういう風に考えたとしてもランクが人につけられた記号であることには変わりない。それもかなり気持ちの良くないものだし、目的ですら人類の選別という邪悪なものと言えるかもしれない。


「嫌だ……俺は他人に記号をつけるようなことはしたくない」

「でも、皆ついてるよ。それを私だけないままにしておくってことは私を特別視してるってことだよね? 私は特別な存在にはなりたくない」


 俺から見れば気持ち悪い記号でも、リアから見れば他の人と同じになれる証のような概念なのだろう。俺がいくばくかの気持ち悪さを負うだけでリアが満足するなら記号ぐらい決めてやるか。


 俺は決めた。


「じゃあ俺と同じSSSRだ」


 俺の言葉にリアはそれをかみしめるように深く頷く。そして満足げな笑みを浮かべた。


「ありがとう。私今までランクなんて概念嫌いだったけど、大切な人に決めてもらえるなら案外悪くないね」

「そうだな。顔も知らない神なんかに決められるからクソだと思うのかもな」


 リアの言葉は俺にも納得いくものだった。そんな訳で、基本的には嫌な思いをした旅行だったものの後味だけは悪くなかった。

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