VS天使 Ⅱ

「最上級魅了」


 リアが唱えると、リアが持っていた箱はふっと消滅する。そしてそれと同時にイリスの体が謎の神秘的な光に包まれる。これがリアが唱えた魔法の効果だろうか。


「皆さん、多少貧しくても平和を望みましょう! 魔王討伐も終えたのでそうなれば教会も皆さんの暮らしを支援します!」


 イリスの声がなぜかキラキラとした光の粒のようになり人々の上に降りそそぐ。これが最上級魅了か。俺もイリスの言葉を聞くたびに感動してくる。

 あれ? こいつ思いのほかいいやつじゃね? 今までの俺の見方が間違っていたのでは? そんな風に思えてくる。

 いつの間にか遠くからはイリスコールまで聞こえてくる有様だ。


 一方、それとは対照的に国家さんは苦しみの表情を浮かべる。心なしか頭上の輪っかの輝きも少しくすんで見える。


「くそ……そんな搦め手を使いおって……」


 それにしてもリアの魔法は万能だな。使いづらいが、何でも出来るのはうらやましい。しかも代償を用意すれば俺ですら危うくかかりそうになるレベルの威力にすることも出来る。

 俺は最強でも今のところ戦闘しか出来ない。仕方がないので俺はひたすら魔法を放つ。


「ディメンジョン・ソード!」

「くそ、光の円環!」


 天使は光の環で流星を防ごうとするが、その円は先ほどよりも小さいし、厚みも薄くなっている。俺の魔法を受けて先ほどよりも大きな破片が散っていく。

 やはりイリスの演説でここにいる人々の気持ちが動いていることが間接的にではあるが影響しているのか。


「皆さん、セレスティア教会を信仰しましょう! 信仰こそが皆さんを救うのです!」


 気が付くと、イリスの演説は少しずつ趣旨が変わっている。

 何かこいつ、最上級魅了がかかっているのをいいことによこしまなことを企んでないか? 俺はイリスの演説の内容に疑問を覚えたものの、スルーすることにする。リアも無言で苦笑いを浮かべている。


「愚かな人間よ、お前たちは私を倒した後、教会を盟主に光の環を使うのか?」


 不意に天使が話しかけてくる。最初は余裕そうだった天使の顔に焦りが見えており、イリスの演説で人々の心が動いていることが伝わってくる。


「いや、そういう気は全くないが」

「そうか。今の教会ならアルトニアをはるかに上回る強大な存在となると思うのだがな」


 天使はそう言って首をかしげる。


「いや、自分が弱くても強大な存在の一部になるよりも一人の人間として生きていく方がいいっていう者もいるだろ」

「お前が言っても何の説得力もないがな、SSSR勇者」


 天使は嘲笑する。まあそれはそうだが。

 とはいえ、なぜ天使が光の環を使う前提で話しているのか疑問に思っていると。


「それに、CとかUCのか弱い人間では来るべきカタストロフをどのように生き残るのだ?」


「え、カタストロフ?」


 俺は突然出てきた不穏なワードに思わず聞き返してしまう。もしや天使が光の環で力を増していたのには「強くなりたい」以外の目的が実はあったのか?

 が、次の瞬間。突然天使は体中に光を纏ったかと思うと、次の瞬間姿を消していた。


「待て、お前逃げる気か!?」


 確かにこの場ではこいつは不利だ。相手が集合生命という謎の概念である以上、搦め手で強さを盛り返すことは出来るかもしれない。

 例えば、教会が約束を破って食糧の支援をしなくなるとか。というか、魔王は思わせぶりなことを言って奇襲してくるし、こいつは思わせぶりなことを言って逃げるし超常存在もやることがこすいな。

 何にせよ、ここで奴を逃がす訳にはいかない。


「メテオストライク・ホーミング」


 俺は目を閉じると、遥か天空へと意識を飛ばす。常時使える魔法ではないが、俺が強くなったために、メテオストライクが強化されて発射時に意識を飛ばせるようになったらしい。

 遥か上空から国土を観察していると、アルトニア首都広場から数十キロ離れた山奥で何かが光ったかと思うと、天使が姿を現した。


「やはり猶予期間を与えたのは失敗だったか……」


 天使はそこで一息つこうとする。が、その間もなく不意に空が暗くなる。


「まだ夜では……いや、まさか」


 天使の表情が険しくなる。すると不意に空に浮かぶ星の一つが徐々に大きくなる。いや、大きくなっているのではない。地上に向かって近づいているのだ。


「逃げるか? いや、ここで避ける訳にはいかぬ」


 だが、ここで身をかわせばアルトニアの国土の一部は焦土となるだろう。それは彼女にとって堪えられないことであった。

 観念した彼女は空に向けて手をかざす。


「アルトニア国家の名を以て告げる。国を守りたまえ」


 彼女の手から巨大な光の盾が現れる。先ほどの即席の円環とは違う、本気の魔力を込めた本気の盾である。

(これなら行けるか?)

 そう思っている間にも光の点は視界を覆わんばかりの大きさになる。


 最期の瞬間、彼女は自身のためではなく国土を守るため最後の魔力を振り絞った。そんな彼女の気力に応じて光の盾は少しだけ厚みを増す。

 次の瞬間、メテオストライクが光の盾に命中し、巨大な光の爆発が起こった。その爆発は教会だけでなく、魔王領の最果てからも観測されたと言う。


 その後、現場に向かった俺が見たのは落ちている『光の環』だけであった。あれほど巨大な隕石を落としたというのに、現場では周辺の木一本折れていなかった。

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