VS天使 Ⅰ
現れた天使を見て正直に言うと俺はテンションが上がった。ここまでの展開が演説とか政治的な話(国家と国民がどうとか)ばかりで出番がなく、しかも簡単な解決方法がない問題ばかりでフラストレーションが溜まっていた。しかし、こうして天使本人が出てくるのであれば話が早い。こいつを倒せば全てが解決する。
「いいぜ、SSSRの力見せてやる」
「そう来なくっちゃ」
向こうは向こうで実戦の方が自分の力が誇示出来ると思ったのか、それとも生来の性格故か、好戦的な様子である。
周囲にいた群衆は思わぬ展開に何だ何だとどよめいていたが、とりあえず危険存在だということは分かったのだろう、遠巻きになっていく。それをイリスが順次避難させていく。
「あら、彼らを皆殺しにすれば少しは私の力も弱まるというのに。甘いのね」
「何だと!?」
天使は挑発的に笑うが、言われてみればその通りかもしれない。光の環を構成する人数を減らせば力が弱まるのは至極当然のことだ。
「そんなこと絶対に許せない。誰も傷つけずにあなたを倒す!」
俺の後ろでリアも表情を強張らせていた。この国の民が関係ないとはいえ、これまで虐げられて生きてきたのにまっすぐだ。
俺は群衆が広場から出たことを確認してから杖を構える。天使の方も民衆を巻き込むのは嫌なのだろう、避難を待ってくれていた。避難した人々は広場から少し離れた役場などの高い建物の屋上から俺たちの様子を固唾を飲んで見守っている。
避難が終わり、イリスが戻って来たところで俺は開戦する。
「まずは小手調べだ。ディメンジョン・ソード!」
俺が杖を振ると空間ごと切り裂く魔力の刃がいくつも同時に天使に向かって迫る。魔王を倒したためか、SSSRランクに覚醒したときよりも確実に俺は力を増していた。
「光の円環」
すると天使の前に巨大な光の環が現れ、まるで盾のようにディメンジョン・ソードを防ぐ。環は魔法がぶつかるたびにきらきらと少しずつ砕けていくが、完全に壊すには至らなかった。
「じゃあこっちも行かせてもらおうかな」
天使が言うと、光の環はきらきらした粒子のようなものに変わる。そしてそれらの無数の粒子がこちらにすごい勢いで飛んでくる。
「バーストフレア!」
「セイクリッドバリア!」
俺は咄嗟に炎属性の魔法で爆発を起こして光の粒子を迎撃し、イリスは防御魔法を展開する。爆発で相殺しきれなかった粒子は防御魔法にぶつかり、そこかしこできらきらした光が発生する。敵の魔法とはいえ、まるでダイヤモンドダストのようなきれいさがある。
「ちょっと弱くなっていますね」
不意にイリスが小声で言った。
「そうか?」
正直俺にはよく分からない。
「勇者様が迎撃魔法を使ったとはいえ、SRの私の防御魔法で攻撃が防げています。私が有能なのを差し引くとしても、相手にそこまで圧倒的な力はないような気がします」
「そ、そうか」
言われてみれば先ほど現れたときに比べて天使のオーラのようなものに陰りが見えているようにも見える。先ほどの演説の内容が群衆の心を打ち、じわじわと天使の力を奪っているのかもしれない。
こいつの言動にはもう突っ込むまい。
「だとすれば先ほどの演説というのは効果があったのだと思います。私は演説を続けるので戦いはお任せします」
「言われんでもやるさ」
俺が頷くとイリスは大きく息を吸い、避難した人々に話しかける。魔法を使っているだろう、遠くからでも人々はイリスの声を聞きとっているようであった。
「皆さん、これが戦いです。戦争が起これば高ランクの者が放つ魔法により多数の低ランクの者はなすすべもなく虐殺されるでしょう。結果が見えている戦いほど悲惨なものはありません! 争わないことこそが一番だと思いませんか?」
「小癪な」
天使は顔を歪めて大きな光の球を生み出す。光の球は戦場の間を縫ってふわふわとイリスの方へ近づいていく。
「危ない!」
俺は思わず玉とイリスの間に入り、杖を球に向ける。そして咄嗟に魔力を発射する。
ドドドオオン、と地の底から響くような音とともに俺が発射した魔力にぶつかった光球が爆発し、俺に向けて光線が降り注ぐ。
「いてて」
光線が俺が着ている服を貫いて皮膚に突き刺さり、体中に痛みが走る。全身を針で刺されたかのような状態であり、いくらSSSRの肉体と言えども痛みは覚えるのだが……
「あれ? 確かに前の時よりも痛くないような気がする」
「ということは弱まってる?」
今まで俺とイリスの間で隠れていたリアが尋ねる。
「ああ、イリスの演説は効果ありだ」
「分かった。じゃあ私ももらったこれを使う」
そう言ってリアはイリスからもらった“SR相当の箱”を取り出す。一体中にはどんなすばらしい宝物が入っているのだろうか。
とはいえ、こんな化物を倒すのに使われるのであれば宝物も本望だろう。
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