SRランクパーティー Ⅱ

 リオスでの魔王軍との激戦から数日後、戦士フレッド、盗賊マーク、神官マリナの三人はリオスのギルドの片隅で険しい顔で話し合っていた。

 魔王軍との戦いには三人とも参戦したものの、敵も味方も大軍であり、ほとんど一兵卒のような形でしか参戦出来なかった。もちろん他の冒険者に比べて目覚ましい手柄は立てたものの、魔王や四天王など大物を討つことは出来なかった。


 魔王が勇者により討伐されると、あれほど活発に動いていた魔物たちも途端に統率を失い、散り散りになった。人間領に近いところはその討伐もあらかた終えた三人は手が空く形となった。そのため今後の方針を話し合っているという訳である。


「もう大した魔物が出るところはない。俺たちは今後どうする?」

「大した魔物は出ないとはいえ、全滅した訳ではないわ。地道な魔物退治を続けるべきでは?」


 マリナは提案するが、フレッドは嫌な顔をした。


「そんなのは別に俺たちではなくても出来る。俺たちはSランクにふさわしい仕事をするべきだろう」

「そう言えば、最近アルトニア王国の動きが不穏らしいって聞いたぞ。魔王が去ったし今度は人間同士の戦争が起こるのかもしれない」


 耳ざといマークが言う。


「え、まさか人間同士の戦争に加わるつもり?」


 マリナは青い顔をするが、フレッドは感心した、とばかりに頷く。


「確かにそれはいいかもな。人間同士の戦いなら俺たちにも活躍の場が残されている」

「そんな……大体どちらに味方するというの?」

「教会は俺たちをぞんざいに扱った。だからアルトニア王国に行ってみようと思うと思うが、どうだろう」

「確かに。仕掛けようとしている方に行った方が給料はいいだろうし」


 マークも頷く、


「え、そんな……やめようよ。魔物を殺すのとは訳が違うって」


 マリナは何とか止めようとするが、二人はすでにその気になっており、耳を貸す様子はない。これまでの魔物狩りの延長で戦争に参加しようとする二人のことがマリナは信じられなかったが、このまま放っておいては本当に参加してしまいそうだ。仕方なく彼女は二人についていくことにする。


 数日後、アルトニア王国に入った三人は痩せた国土に驚きつつも歩いていく。土地が貧しいのか、農業は行われているようではあるが、他の土地に比べて実りは少ない。人々も心なしか細身の人物が多いように見える。

 フレッドは適当な農夫の元へ歩いていくと、声をかける。


「なあ、俺たちは旅の者なんだが、お前たちは本当に戦争をする気なのか?」

「いえ、そういう訳では……」


 農夫はフレッドの意図が分からずに少し困惑気味に答える。


「正直に言ってくれていいんだ。俺たちはこの国に加勢して一山当てに来たんだ。だからこの国のことを教えてもらえると助かる」


 農夫はじっとフレッドを上から下まで見つめる。彼が本当に味方なのか、それとも他国からの情報収集に遣わされた者なのかを探っているのだろう。


「そうだ、俺たちも魔王が討伐されて働き口がないんだ」


 が、マークの言葉にようやく農夫は納得した。特にこの三人はかなりの強さに見える。魔王が倒された今、力を持て余していてもおかしくはないと思ったのだろう。


「……分かりました。我らのような下々の者が戦争を望もうが望むまいが、それは政治には反映されません。とはいえ、元々貧しかったうえに飢饉や魔族との戦いが加わり、もはや国は限界に来ております。見ての通り、露頭に迷う者も増えております」


 そう言って農夫は近くの道路で暗い顔をして座っている者たちを指さす。それを見てフレッドは頷く。敵地に攻め込めば、とりあえず飢えた者は略奪して食べることが出来る。人死にが出ても餓死者が戦死者に変わるだけ。そういう状況なのだろう。


「大体事情は理解した。もはや他国から奪うしかないってことだな? それなら手を貸してやるよ」

「そんな、だからって他国から奪うなんて間違っています」

「じゃあこの国の者たちは飢え死にするしかないって言うのか?」


 マークが意地悪く言うと、マリナは気の利いた反論を思いつけなかった。




 そんな訳で三人はアルトニア王都に向かった。そこで志願兵を集めているという。三人がやってくると、明らかに失業者や食い詰めた者たちが暗い顔をして続々と集まってきている。

 三人は彼らの中に混ざって募兵している建物に入っていった。中は志願者でごった返していたが、フレッドはそれに構わず大声で叫ぶ。


「おい、俺たちはSRランクだ。道を開けろ」

「何!?」

「SRランクだと? 最優先でお通ししろ!」


 すぐに兵士たちが有象無象たちを押しのけて道を作る。フレッドは対応の速さに満足しながら前へと進む。受付係の横に立っていた神官が呪文を唱え、三人のランクを鑑定する。そして本当にSRランクです、と小声で受付にささやいていた。


「SRランクの皆さん、我らの軍勢に参加していただけるということでお間違えないですか?」

「もちろんだ。ただ、俺たちを一兵卒扱いなんていうのはご免だがな」

「当然でございます。それ相応の場は用意させていただきます。そのため、一つだけ行って欲しい手続きがあるのです」


 受付の者が言うと、神官が人間の頭ほどの直系のリングを箱に入れて持ってきた。リングはきらきらと輝きを発しており、何か重要なもののようにも見える。


「これはもしや……聖遺物?」


 神官のマリナは首をかしげる。


「お三方、お手数ですがこのリングに手を触れてください」

「ああ、分かった」

「ちょっと、待ってフレッド」


 教会にしかないはずの聖遺物がなぜここにあるのか、あるとして一体何に使われているのか、疑問に思ったマリナが叫ぶが、フレッドは構わずリングに触れる。


「ほら、何も起こらないって」


 それを見たマークもそれに続く。なおもマリナは逡巡していたが、苛ついたフレッドが強引にその手を掴んで触れさせる。マリナはきゃっ、と悲鳴を上げたが、何かが起こる訳でもなかった。


 そこへ一人の女が奥から現れる。頭の上にこのリングと同じような輪を載せた神秘的な人物であった。その姿に三人とも息をのむ。人間というよりは天使に近い神々しい雰囲気をまとっていた。


「何者だ?」


 フレッドは女のランクがすぐに分からないことに困惑した。こいつも自分と同じSRなのか? 


「SRが三人も自分からやってきてくれるなんて助かるわ。ちょうど一週間後に戦いを控えていることだし、その力をもらおうかしら。三人とも、こちらへ来て」

「お、おう」


 三人は言われるがままに謎の人物へとついていく。途中、フレッドが正体を尋ねてもはぐらかされるばかりであった。そして女は建物を出て、王宮へと向かっていく。さびれてはいたが、それでも王宮は立派な建物であった。


 女はその中の一室の鍵を開ける。その中の光景を見た三人は目を疑った。そこには明らかに王族貴族と思われる身なりの者たちや、腕の立ちそうな冒険者たちが大量にベッドに寝かされているのである。

 その異様な光景にはさすがのフレッドも絶句した。


「な、何だここは……」


 が、女は三人を見るとにこりと笑う。


「一兵卒と同じは嫌だと言うから、特別にこのVIPルームを使わせてあげるわ」

「おい、これはどういうことだ!」


 ようやく何か異常が発生していると気づいたフレッドは思わず剣の柄に手を掛ける。


「さあ、私の一部になりなさい」


 女が言うと、三人とも突然、身体全体からふっと力が抜けてその場に崩れ落ちた。女は三人の身体を持ち上げると、わざわざベッドへと運ぶのであった。


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