SRランクパーティー Ⅰ
「危ないところだった……」
どうにか魔物の群れから逃げ延びたフレッドはぜえぜえと荒い息を吐いた。彼の体は逃げる途中に魔物から飛んできた投石や矢を受けて体中擦り傷だらけである。それはマークやマリナも同じであった。
「何でケントを見捨てたの!?」
安全なところで足を止めるなりマリナは抗議するが、フレッドはゆっくりと首を振る。
「考えてみろ、これ以外に俺たちが全滅を免れる方法があったか?」
「そうだ、それにあいつがちゃんと魔法を使っていればこんなことにはならなかったんだ!」
マークも自分の正しさを示すように追随する。そう言われるとマリナはそれ以上反論できず、沈黙するしかなかった。彼女も窮地を脱する方法を思いついていた訳ではない。
「……でもこれからどうするの?」
「雑魚魔物といちいち戦っていてもキリがない。こうなった以上、魔王を倒すしかないだろう」
フレッドが言う。魔物の活動が活発化しているのは魔王の影響という説が強いため、魔王さえ倒せば魔物の数は減り、統制も崩れるのではないか、と思われていたので残り二人も同意する。
「という訳でリオスへ行くぞ」
フレッドは魔物領に一番近い都市の名前を宣言する。
ほどなくリオスへ着くという時だった。
「おい、あれを見ろ!」
一番視力のいいマークが遠くを指さす。見ると、平野の向こうではゴブリンたちが倒れた旅人の身ぐるみをはいでいるのが見える。
「よし、行くぞ」
すぐにフレッドは剣を抜き、ゴブリンたちに襲い掛かる。が、フレッドたちが近づいた瞬間にゴブリンたちはさっと算を乱すように散っていく。素早く旅人に駆け寄ると、彼はまだ生きていた。
そして、代わりに周囲にオークやコボルドの群れが現れた。気が付くと三人は半円形に包囲されつつある。不意のことにフレッドは少し驚いたが、ほとんどがR以下の雑魚魔物だ。数が多くても大したことはない、とフレッドは高を括る。
「よし、俺とマークがこいつらを防ぐ。その間に大魔法を用意しろクズ!」
無意識のうちにフレッドはいつものようにケントに命令してしまう。が、フレッドの言葉には白けた空気が漂うだけだった。フレッドやマークは歴戦の戦士だし、マリナも回復には自信があったが、多数の敵を同時に殲滅出来るのはケントの魔法だけだった。
「あの、ここはいったん退いた方が……」
マリナが遠慮がちに声を上げる。
「うるせえ! こんな雑魚相手に退けるか! それにあんな奴いなくても倒せるんだよ!」
先ほどの言い間違えが気まずかったのか、フレッドが激昂する。
そこへ、キエーッ、と奇声を上げてオークやゴブリンたちが手に手に棍棒を振り上げて一斉に襲い掛かってくる。
「雑魚め!」
フレッドが剣を振るうと彼らは一刀の元に斬り伏せられる。マークも動揺に下位魔物たちの急所を次々と短剣で突いていた。数が多いので時折敵の攻撃が命中するが、SRランクの二人にとっては雑魚の攻撃など痛くもかゆくもない。
が。
「た、助けて!」
その後ろでマリナが何体かの大柄のオークに包囲されていた。SRでも神官のマリナはRのオークたちに包囲されると危険だった。一体ずつ、攻撃魔法で倒していくが、次々に棍棒で殴られてダメージを受けていく。一発ごとのダメージは小さいとはいえ、敵の数が多いためマリナはどんどん攻撃を受けていく。
「くそ!」
フレッドは吐き捨てると、マリナの元へ向かい、周囲のオークを倒す。窮地を脱したマリナは自分にヒールをかけるが、残念ながらこのままでは戦いを続行するのは不可能だった。
前衛の二人は大丈夫でも、二人だけではマリナを守り切るのは不可能である。見渡すと、まだまだ敵の魔物は大量にいた。
「フレッド、もう無理だ」
「くそ!」
マークの言葉にフレッドは仕方なく同意する。そして二人はマリナを守りながら後退していった。魔王と戦う前に下級魔物に負けた三人は意気消沈していたが、それでも自分たち以外に魔王と戦える者がいるとは思っていなかった。
そんな訳でぼろぼろになった三人は這う這うの体でリオスに辿り着く。
「大丈夫だ、魔王のような高ランクの魔物と戦う時は低ランクの魔物を他の兵士たちが引き受け、俺たちは魔王だけと戦うことになるはずだ」
フレッドが自分に言い聞かせるように言う。実際、多対多で戦う場合、低ランクの敵は低ランクの味方が引き受け、高ランクの者が高ランクの敵と戦うというのがセオリーだった。
リオスにはすでに続々と腕に覚えのある者や軍勢が集まっている。その様子はまさに臨戦態勢といったところで、それを見て三人の鈍っていた闘志が戻ってくる。
フレッドは三人を代表して街の門番に声をかける。
「俺たちSRランクのパーティーなんだ。魔王討伐のためにやってきたぜ」
「魔王討伐にご協力いただきありがとうございます! 冒険者の方はあちらの建物へどうぞ」
門番は奥にある冒険者たちが集まっている建物を指さす。フレッドは自分たちがその他大勢の冒険者と同列に扱われたことに苛々したが、それでもこの門番は分かっていないのだろうと思い直し、説明し直す。
「俺たちはSRランクだ。SRランクともなれば魔王との決戦に必要だろう?」
「いえ……魔王との決戦は勇者様が行うので大丈夫です。皆さまはあちらへどうぞ」
門番は澄ました顔で答える。そう言えばフレッドも勇者という伝承を聞いたことがある。てっきり魔王を倒した奴が何となくそう呼ばれているだけだと思っていたが、それとは別にいるのか。
「だが、この国に俺たち以外にSRランクの冒険者はいないはずだ」
一瞬だけフレッドはケントの顔を思い浮かべたがすぐに打ち消す。
すると門番は少し興奮したように答える。
「はい、勇者様はSSSRランクらしいので」
「な、SSSRランク!?」
それを聞いたフレッドは絶句する。そんな奴がいたら確かに自分たちの出番はないかもしれない。
「いやあ、SSSRランク勇者をお助けして魔王と戦えるなんてすばらしいことだ」
門番は嬉しそうに言うが、フレッドは愕然とした。
「あの、ここはあちらへ」
マリナが遠慮がちに冒険者が集まっている建物を指さす。
「くそ、何で俺たちがこんな扱いを……」
フレッドは腹を立てたが、なすすべなくそちらへ向かうのだった。
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