生命魔法Ⅱ
「役立つ? 私の力が?」
リアは信じられない、という顔をする。これまで意味不明な力と人並み以下の能力しか持たずに生きてきた彼女には自分が他人の役に立つという状況が想像すら出来ないようだった。
だがイリスの表情は真剣そのものだ。
「あなたはランクを見ることが出来ます。生命魔法とその力を同時に持っているということは可能性として、生贄のランクが上がれば魔法の威力が上がるかもしれません。つまり、もっと強大な力になる可能性があるのです」
「でも、私ごときに高ランクの生贄を手に入れることは難しい」
「別に生贄は自力で手に入れなくてもいいかもしれませんよ? もしあなたにその気があるなら色々試してみたいところがあります。魔王を倒すためにSSSR勇者を召喚したとはいえ、戦力は多い方がいいですからね」
てっきり、イリスは「私が召喚したSSSR勇者がいれば魔王なんて余裕ですよ」みたいなキャラかと思っていたら思ったよりちゃんと考えていた。
ランクが高いということはそれなりの地位にいるはずだし、地位相応の思考もあるのだろう。
「分かった……私の能力が役に立つというのであれば。先ほど勇者様も力は使い方が大事だと言ってくれたし」
リアがちらりとこちらを見て頷く。
うんうん、いい話だなと思って聞いていると。
「ありがとうございます。では勇者様、早速ですがRぐらいの生贄を捕まえてきてください」
唐突に俺の方に飛んできた。
「何か急に俺の扱い雑になってね?」
「そ、そんなことないですよ」
イリスが目をそらしながら答える。こいつ……
「面倒なことを頼んでしまってごめん。でも私、自分が何者なのか知りたい」
しかし俺を見つめるリアの真摯な瞳を見ると、彼女のために協力してあげたくなる。そもそも力の使い方が大事だと言ったのは俺だ。だからリアが人の役に立つような力の使い方をするのであれば俺はそれを助けてやりたい。
「いいよ、Rの魔物ぐらい捕まえて来るから」
「ありがとう」
リアが俺を見てほほ笑む。これまでの虐げられてきただけの人生から脱却できるかもしれないということへの希望を感じさせる笑みだった。そんな表情をされると俺も答えざるを得ない。
そんな訳で、俺は先ほどの湖に戻る。そして湖畔で水を飲んでいたRランクの、三本の角を生やしたサイのような魔物に狙いを定める。サイは俺の敵意を察知したのか、角を構えて猛然と走ってくる。
突進を喰らったときはその恐ろしい勢いに死を覚悟したものの、意外と両手で受け止めることが出来た。SSSRだと魔術師でもRの突進を素手で受け止められる程度の腕力はあるらしい。
近づいてしまえば、後は急所を外して魔法を撃ちこむだけである。腹をディメンション・ソードで撃ち抜かれた魔物はその辺をしばらくのたうち回った後、気を失った。
「……何か、私たちが苦戦している相手を子供扱いしているのを見ると複雑なんだけど」
リアが俺の戦闘を見てやや引いている。
「そりゃ私が召喚したSSSR勇者なので」
なぜか俺の代わりにイリスが自慢している。
「それはともかく、魔法を使ってみようぜ」
「う、うん」
リアはおっかなびっくりといった様子でトリケラトプスに近づいていき、手をかざしたり足で踏んづけたりして、首をかしげる。
「うーん? 使えない」
「やっぱり他人が倒した魔物じゃだめなのか?」
「どうでしょう。生殺与奪の権かもしれません。今は気を失っていても彼女では止めをさすことが出来ないということかもしれません。これでどうでしょう。“信仰の剣”」
イリスが唱えるとイリスの手の中がぴかっと光って一振りの剣が現れる。剣全体が神の加護的な光に覆われていてなんか強そうだ。イリスはその剣をリアに渡す。
リアはこわごわといった様子で剣を受け取ると、振ったり倒れた魔物に向けたりしている。
「あ、今なら使えそう」
リアが剣を魔物の胸のあたりに突き付けた状態で言う。
なるほど、これで何となく基準が分かった。相手をすぐ殺せる状態であれば生贄に出来るということだろうか。
「どうしよう?」
リアがちらりとイリスの方を向く。
「とりあえず湖の方に炎を撃ってみましょうか」
「う、うん。はあっ」
リアが湖に向けて手をかざすと、魔物の巨体が消滅し、リアの手から巨大な炎の球体が出現した。球体は直径一メートルほどもあるだろうか。湖の上まで飛んでいくと、そこで爆発する。
湖の中央からここまで十メートルほどはあっただろうが、頬に熱気が感じられた。あの中心にいれば、R程度の魔物なら爆発四散したのではないだろうか。水面を見ると、かなり大きな波が起こって周囲の岸に押し寄せていく。
「私が、こんなすごい魔法を……」
それを見てリアが感動している。俺も自分が初めて魔法を使ったときのことを思い出しつつ、拍手する。
「これはRの魔術師の必殺技級ですね。なるほど、生贄のランクと魔法の威力には相関関係がある、と」
イリスも目を丸くして驚いていた。
リアはしばらく自分が今の魔法を使ったことを確認するように手を閉じたり開いたりしている。
やがて少しずつ実感が湧いてきたのか、嬉しそうに俺の方を見る。
「これからも是非あなたの力を貸して欲しい」
「う、うん」
こうしてリアは新しい人生への一歩を踏み出すことになったのである。
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