神官イリスと勇者
「う……ここは?」
目を覚ますと、俺は見たこともない部屋に立っていた。天井は異様に高く、壁にはステンドグラスで出来た窓がある。病院ではなく洋室で、教会っぽい祭壇がある広間のような部屋だ。
そして目の前には白いローブを羽織ってベールのようなものを被ったいかにも神官と思われる少女が合掌して立っている。白い絹のような長い髪、宝石のような瞳、端整な顔立ちといかにも清楚そうな神官である。年のころは十代真ん中ぐらいだろうか。顔立ちで幼く見えて恰好で大人びて見える。
「お目覚めですか?」
「ああ」
少女は鈴のような透き通った声で話した。そして何事か呪文のようなものを唱える。そして突然魔王でも見たかのような驚き顔になる。他人の顔を見てその反応は失礼だろう、と思っていると。
「あなたは……SSSRランク!?」
あの時は色々と必死だったが、そう言えば俺は人間の限界を二段階も超越したSSSRランクになっていたらしい。見た感じ俺の外見自体は変わっていないので、驚くのも当然だろう。
「それはそうだが、あなたは、というかどういう状況だ?」
が、目の前の人物はそんなこと聞いちゃいなかった。
「来たああああああああああああああ! SSSR召喚成功!!」
「え、何だ?」
突然目の前の少女が神官らしからぬ奇声を上げたので俺は困惑する。が、彼女の表情は紅潮し、声は半分裏返っているし明らかに興奮している。
「ふふ、やはり私はSR神官。他のRとかUCの神官とは格が違うのよ」
「あの、そろそろ説明して欲しいんだが……」
何となく想像がつかないでもないが、俺は目の前で小躍りして喜んでいる人物に説明を求める。俺の言葉に彼女ははっと我に帰ったようだった。
「こほん、すみません、大変取り乱しました。ようこそSSSRの勇者様。我らがセレスティア教会へ!」
「はあ」
彼女は再び清楚モードに戻る。こうしてみると先ほど拳を握りしめて雄たけびを上げていた人物と同一人物とは思えない。
ちなみにセレスティア教会というのはこの世界で一番信仰されている神の教会である。しかし彼女もセレスティア神官だとするとあの女神は何者だったのだろうか。
「私の名前はイリス。ここセレスティア教会最高ランクの神官です。このたび魔王の脅威が迫るにあたって数多くの神官が高ランクの勇者を召喚することに挑戦しました」
ここ最近、魔物の中でも特に強力な存在である魔王と呼ばれる存在が目覚めて魔物の動きが活発化しているのは知っていた。そのせいで俺もひどい目に遭ったという訳だ。
魔王は定期的にどのような仕組みか分からないが現れて、魔物を率いて人類を脅かす、らしい。このところ魔物の動きが活発化し、さらに組織立っているのも魔王の復活と関係があるとされている。
魔物は人類よりもランクが高い個体が多い。それでも彼らは普段は群れをつくらず、個別に人間を襲うのでどうにかなっていたが、彼らが統率をとった行動をとり始めるとかなり手ごわい。
「しかし勇者って何だ?」
「伝承によると、魔王が現れた際に私たちセレスティア神官は勇者を呼び出す魔法を使うことが出来るのです。すると、それにふさわしい資質を持った者が特殊な加護を受けて召喚されてくるのです」
俺の『限界突破』もその加護なのだろう。
「じゃああの女神も君の魔法に応えて現れた存在なのか?」
「は? 女神? セレスティア神は女神ではありませんが?」
が、イリスは全くそのことを理解していないようだった。
「多分セレスティア神とは別物の女神に加護をもらったのだが」
「他の神官が呼んでくるのはほとんどはRとかUCの勇者ばかりだった上に、大した加護も持ち合わせていないので丁重にお帰りいただいたのですが、彼らは女神とか言ってませんでしたね。それに文献にもそのような記述はありませんし」
「なるほど」
「とはいえ、あなたはなぜかSSSRランク。他の方と違うことが起こってもおかしくないでしょう」
そもそも人間の限界を超えたのだから細かいことを気にしても仕方ないか。むしろ俺はイリスの言葉の他の部分に引っかかる。
「……ちなみに丁重にお帰りいただいたのというのは?」
「“キャンセル”と言って魔法を取り消すと彼らは加護を失って元の暮らしに戻っていくのです」
めっちゃ失礼なシステムだな。もし急に呼び出されて勇者とか言われた挙句に送還されたらめっちゃへこむと思うんだが。
とはいえ、Rで加護を受けた人間がいたとしても、多分普通にSRの人間の方が強いからな。いや、俺の『限界突破』並みの加護を引ければRでもSR以上の強さになる可能性はあるのか。
そう考えると強い加護が引けるまで延々召喚とキャンセルを繰り返すのか。ひどいシステムだ。イリスが俺を召喚して狂喜していたのも頷ける話だ。
しかし、話は戻るが文献に記述があるということは前に魔王が出た時も勇者という存在はいたということか?
「前に魔王が出た時も勇者が呼び出されたのか?」
「はい、伝説によると前回もSSRランクの勇者が召喚されて魔王が倒されたとのことです」
何か自分が唯一無二の存在のような気がしていたので少し落ち込む。あれ? でも待てよ、前の勇者はSSRランクということは。
「え、じゃあ俺前回の勇者より強いの?」
「そうなりますね。つまり私も前回の神官より有能だったということですね」
「……」
イリスはドヤ顔で言い放った。無性にイラっとする。
俺はあまり自慢をしないようにしようと決めた。
「SR神官ってもっと敬虔で清楚な感じじゃないの?」
「失礼ですね。私、いい性格ってよく言われますよ」
「絶対皮肉だって分かってるだろ」
とはいえ、SSR勇者で魔王が倒せるならSSSRの俺には楽勝ということだろう。俺は急に強大な力を手に入れたこともあって、気が大きくなっていた。
「まいっか、それでどうすればいいんだ?」
俺は深く考えないことにした。
「いきなり魔王と戦うのは危険なのでとりあえず適当な魔物と戦ってみましょうか。加護を受けた以上元より強くなっているはずです」
「確かに」
SSSRになり俺は純粋に魔力が使いこなせるようになっただけでなく、新しい魔法も使えるようになっている。だからそれを試し撃ちしてみたいという気持ちはあった。
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