SRパーティーに追放された俺は女神の加護『限界突破』でSSSRランクに覚醒し、神をも超える

今川幸乃

追放と限界突破

「おいケント、早く魔法を撃て!」

「ぐずぐずするな、早くしろ!」


 戦士のフレッドと盗賊のマークが襲い来るトロールやドレイクと切り結びながら俺に向かって怒号する。傍らでは神官のマリナが必死で回復魔法をかけているが、敵の数は多く、フレッドとマークには次々と傷が増えていく。


 俺たちは魔物討伐に赴いていたが、事前の調査よりも敵の数が増えており、思わぬ苦戦を強いられていた。普段は統率などとれておらずばらばらに襲い掛かってくる魔物も、今は俺たちに対して連携しながら攻撃を仕掛けており、普段は無敵のSRランクであるフレッドとマークも傷を増やしていた。




 この世界では生まれた時から人には“ランク”と呼ばれるものが付随している。人間の場合、下からC・UC・R・SRの四種類で、本人の努力ではどんなにあがいてもランクを跨ぐことは出来ない。八割以上の人間はCで、残りの八割がUC、残りのほとんどがRで、SRランクを持つ者は両手の指で数えられるほどしかいないと言われている。

 俺たち四人はそんなSRランクの者が集まって結成されたパーティーだ。どんなに強いRの者もSRに届くことはない以上、俺たちは最強のパーティーになるはずだった。

 しかし。


「あ、あともう少しだけ待ってくれ!」

「敵が待って訳ねえだろ! 早くしろクズ!」

「ふ、ファイアーボール!」


 俺は二人にせかされるようにして慌ててファイアーボールを発動する。

 しかし俺は魔力の制御が苦手だった。確かに強大な魔力を持ってはいるのだが、時間をかけて魔力を練らないとうまくいかないのだ。


「……うわっ」


 今もせかされたせいか、手の中で生まれかけた火球が爆発し、俺だけでなくフレッドやマークの背中を焦がす。それを見てパーティーのリーダーでもあるフレッドが怒号を上げる。


「ふざけるな! お前はいつもいつも!」

「わ、悪い、だが時間をかければ今度こそ……」


 俺は再び魔力を練り直すが、フレッドの怒りは収まらない。


「おせえんだよ、のろま! もういい、このままじゃ全滅だ。こいつは置いて俺たちは逃げるぞ。これ以上は無理だ」

「お、おい」


 俺は声を上げるが、共に前衛で戦っていたマークも頷く。


「え、それは……」


 マリナだけは戸惑いの声を上げたが、フレッドの決断は早かった。


「こいつがいれば魔物の追撃も鈍るだろ」


 煙幕を投げて視界を塞ぐと、すぐにマリナの身体を抱える。不意のことにマリナは抵抗する間もなく抱きかかえられる。そしてフレッドはそのまま後方へと走り出し、マークも後に続く。


「待ってくれ!」


 俺も後を追うが、戦士と盗賊の二人と違って俺の足は遅い。すぐに回り込んだ魔物たちに退路を断たれる。魔物たちも先ほどまで奮戦していた彼らよりも、役に立っていなかった俺を狙うことにしたらしい。


「くそ、こんなことってあるかよ……」


 いつもこうだ。肝心な時に魔法を使うことは出来ない。もちろん時間に余裕がある時は大火力の魔法を使うことも出来たが、そもそも時間に余裕がある時は苦戦してないことが多く、彼らもそれに苛立ったのか、最近は無闇に俺をせかすようになり、さらに魔法の制御が出来なくなるという負のスパイラルに陥っていた。今だってあと少し待ってくれればちゃんと使えたものを。


「ぐあっ」


 魔物から飛んできた矢が右肩に当たるが、SRランクだと魔術師でも防御力が高いため、あまり痛くない。だが、そんな防御力はいらないから魔法の制御力が欲しかった。


 とはいえ、俺を囲む魔物は百体を超える。彼らは俺に近づくと、次々と攻撃してくる。そのたびに俺の魔法は暴走してうまく形にならない。

 そんな中ついに、ドン、という鈍い衝撃とともに俺は脳天にトロールの棍棒を受けてばたりとその場に倒れた。


 薄れゆく意識でもうだめだ、と思った時だった。

 目の前にきらきらと輝く白い光に包まれた謎の女性が現れる。何だこいつは。死神だろうか。


「私は女神です。あなたはこんなところで死んでいい人物ではありません」

「何だ急に」


 そもそもこの世界の神に性別はなかったし、神像も男寄りの姿だった気がする。怪しいことこの上なかったが、魔物に囲まれた中にわざわざやってくるという状況、そして有無を言わせぬ声の迫力から、女神かどうかはともかく何らかのすごい存在であるのには間違えなさそうだった。


「そもそも、あなたが魔力をうまく使いこなせないのは、あなたが持つ魔力がランクとあっていなかったのです」

「どういうことだ?」


 魔力は結構あるつもりだったが、それでもSRランクの者には足りなかったということだろうか。


「SR程度でのランクではあなたが持つ魔力を使いこなすのは不可能ということです。今からあなたに『限界突破』の加護を与えます。この加護があれば、あなたは人間の限界を超えて、魔力に相応しいランクへと至ることが出来ます」

「わ、分かった、早くくれ」


 正直小難しい理屈はどうでも良かった。この状況さえ何とか出来れば後はどうでもいい。


「はい。その代わり、あなたにはこの世界を救って欲しいのです」

「それは魔王を倒すということか?」

「いえ、ただ魔王を倒すだけではなく……」


 が、自称女神の声が終わる前に俺は自分の肉体が変質していくのを感じる。うまく言葉で説明するのが難しいが、これまで自分の適正より二つぐらい小さい服を着ていたのが、ちょうどいいサイズになったような感じ、とでも言えばいいだろうか。


 今まではずっとそういうものだと思っていたが、急に俺は束縛から解き放たれたような気分になった。今まではなぜあんな窮屈な思いをしながら生きこられていたのか不思議なくらいだ。今なら何だって出来る気がする。



 コツン、と頭部に軽い衝撃を受けて俺は我に返る。

 俺にとどめを差そうとトロールが棍棒を振り降ろしてきたのだが、今の俺には当たってもデコピンをされたぐらいの痛みしかない。ランクが上がって防御力や体力も強化されたようだ。

 そして何より、今なら魔力も自由に操れる。


「ファイアーボール!」


 試しに俺は魔物の真ん中に火球を発射する。火球は爆発し、近くに立っていた魔物たちは残らず塵と化した。今回は魔力を練るのに時間はかからなかったし、思い描いた位置に飛んでいった。


 これはいける。


「ファイアボルト!」


 まずは近くの魔物を小さな魔法で仕留める。そして脅えて後ずさる魔物たちにファイアーボールを連射して、俺は百体ほどいた魔物たちをあっという間に全滅させた。あれほど手ごわかった魔物たちが一分も経たずに全て灰になっている。


 文字通り自分が自分でなくなったような変わりようでにわかには信じられなかったが、ともあれ助かったのは事実なのでほっと一息つく。


「ふう、何だかよく分からないがやったぜ」


 が、俺が一息ついた時だった。突然、俺の身体が白い光に包まれた。


「何だこれは? 転移の魔法か?」


 気づいた時には俺はまばゆい光とともにどこかに移動させられるのだった。

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