第6話 暇な元王太子

 出奔はできなかったけど王太子を辞めることができてホッとした。ヘタレの俺に王なんて務まるわけがないんだよな。人が使えて信賞必罰ってのが王には必須なんだと思う。俺はどっちかというと一人でいることの方が好きだし上に立つ人間とは真逆な存在ではあると思う。まぁでも今の国王が国王に向いているのかというのも疑問だが、対外的にはよくやっているということになっているそうだ。実質の支配者は王妃というのがこの国の伝統らしいから、国王は世襲のクソボンボンでも問題は無いらしい。かーちゃんやアストリッドは裏ボス的な存在なのだ。


 さて、俺は自分の部屋に閉じ込められてしまっている。飯は侍女が持ってきてくれるしトイレも風呂もあるしベッドもあるので何の不自由もない。この前まで学院に通っていたのだがしばらく行かなくてもいいそうだ。暇だけど今の俺は部屋の中ではかなり自由だな。これからも自由であってほしい。さて、どうしよう?


「ステータスオープン!」

 俺は暇なので転生者ならほぼ使える固有魔法として有名なステータスオープンを調べることにした。名前、年齢、出身、身体能力、スキル、称号の順に並んでいる。

 身体能力について調べてみる。HP、MP、腕力、魔力、信仰、防御力、器用さ、敏捷さ、運と数値化されて並んでいる。4桁だったり5桁だったりする数字があるが比較対象がないので良いのか悪いのかわからない。

 次はスキルを調べてみよう。

 毒耐性(強):これは過去の王族で毒に強い者だけが生き残ったという伝説があって俺はその子孫ということでこのスキルがついているんだと思う。たぶんね。

 全状態異常耐性(神話級):毒耐性の方は遺伝でこっちは俺の固有スキルかな。これがあったから魅了をレジストできたのかもしれない。前世を思い出す前は熱病にかかってたみたいだし、これは前世の記憶と連動して生えてきたんだな。

 物理攻撃無効:俺ってば人間じゃなくなってた。

 全属性魔法(神話級):ディスペルが使えるし魔法は得意だと思ってたけど俺全属性使えたのか。じゃあ空も飛べるし透明になって女湯にも入れるのか。

 創造魔法(神話級):魔法作れるの?じゃあ俺が美少女になって夜な夜な悪と戦うことができちゃうの?

 魔道具作成(神話級):あっ、これは創造魔法のダミーとして魔道具を使ったフリをしろみたいな配慮かな?全部魔道具せいだよーって。

 他は身体能力系とか剣とか料理とかあるけど創造魔法と魔道具作成で全部事足りると思うので省略。


 ていうか俺ってチート転生者なんじゃん!王太子とか王族なんてやってる場合じゃなかったんだよ。ああでも逃亡とかは嫌だしできれば円満に出奔したい。まあ無理かな?とりあえずチートで遊んでみよう。


 この部屋には窓があるしそこから空飛べないかな?反重力で軽くなって風で運ぶというのがふと思いついた。よしやってみよう。ここは地上から5階の位置にあって落下したら死ぬだろうが俺には物理攻撃無効があるから飛行に失敗しても大丈夫だろう。

 おっ、浮いた。浮いたけど制御ができなくてくるくる回ってしまう。むおぉーっ!俺は窓から出ることもできずにただ高速回転して天井に頭をぶつけてベッドに落下した。その際ゴンという音が辺りに響いたようで、部屋の外が足音で騒がしくなった。


「クラウス殿下!どうなさいました!……うっ?これは!」

「えっ?」

 俺は部屋を見渡した。窓が開いていて、部屋は物が散乱していた。風魔法で散らかったようだ。

「これは……何があったんですか?刺客ですか?」

 ビアンカが剣を抜きながら問う。ああ窓から刺客が逃走したというストーリー?そういうのもいいんだけど嘘つく意味が無いので本当のことを言う。

「ちょっと魔法の練習に失敗してこうなっちゃったんだ。お騒がせしてすみません」

「魔法の練習ですか?それなら自室より外でやったほうがいいと思いますね。私から王妃様に報告してみます」

 そういうとビアンカは剣を収めて去っていき、俺は粛々と侍女達と部屋の片付けをした。


「殿下、やっと暇になったので遊び方がわからないんですね?私達とお茶しませんか?」


 仕事中と思われる侍女3人と俺の部屋で紅茶とアップルパイを堪能している。サボりに協力してあげているので3人ともニッコニコだ。

「殿下って婚約破棄されて今フリーなんですよね?私達の中で恋人を選ぶとしたら誰がいいですか?」

 これは面白がって話に乗ってもいいのだろうか?王宮の侍女は皆貴族で虎視眈々と権力闘争のチャンスを伺っていて、俺もその対象なのだろうし。

「うーん、みんな顔が可愛いから目移りしてしまって選ぶのは難しいなー。敢えて選ぶとしたらおっぱいが一番大きい真ん中のアンナさんかな」

 俺がへらへらしながらセクハラな回答をするとアンナさんはみるみる顔を紅潮させていった。

「殿下、私は殿下が脱げといったらいつでも脱ぎますからね?」

「えっ?」

 あっこれは俺が出奔とかカーチャンに言ったから俺を国に繋ぎ止めるための命令か!王家の命令による色仕掛けだ!疑心暗鬼になっているだけかもしれないが。

「いや、そういうのは非常に嬉しいけど、今の俺は女性と仲良くする気にはなれない。婚約破棄したばかりからか女性不信になっているのかもしれない」

 これは回答しない方がよかったかな。アンナさんがずっと微笑んでいる。その後も他愛も無い話をしていたので大丈夫だろうが。


 翌日からアンナさんによるスキンシップが過剰になった。俺=おっぱい星人と判断されたようで、巨乳をやたらと当ててくるのだ。急にドジッ娘になってラッキースケベ的に体を預けてくるのである。危ないので俺が手で支えるとちょうど巨乳が手に収まって「ああん」とかアンナさんが言うのだ。これは理性を保つのに精神的にきついのでとても逃げだしたくなるのだが、部屋から出られないので困った。そう思っていたら。

「殿下、私の監視付きでの外出が許されるようになりました」


ビアンカが入室してそう教えてくれた。助かった。

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