第5話 婚約破棄

 俺と護衛のビアンカは王妃ことかーちゃんの部屋に呼び出された。王妃はガブリエラという名だが国王である親父しか名前で呼ばないので王妃か母上としか紹介できない。ちなみに王妃は隣国の王女だったのが親父に嫁いできたので隣国の王家も名前で呼ぶそうだ。


「クラウス、アストリッドさんのエッカート侯爵家から婚約破棄の申し入れがあったのだけど、これはどういうことなの?魅了魔法の男爵令嬢絡みかしら?」

「はい母上。ミリアム男爵令嬢とは魅了魔法を封印することの見返りとして友人になったのですが、そのことに激怒したアストリッドから婚約破棄と言われてそれ以来会えておりません」

「クラウスはそのミリアムさんの事が好きなの?それともアストリッドさんが好きなの?」

「いえ、2人に対してそのような感情はありません。俺はただ王命に従うのみです」

「あらそうなの?……でもアストリッドさんは嫉妬するぐらいにはクラウスのこと好きみたいよね」

 アストリッドが嫉妬?いやそれは無いな。アストリッドのエッカート侯爵家の政敵を見逃したことへの俺への不信感とか怒りだと思う。

「それは無いと思います。アストリッドを追い落とそうとした犯罪者を救った俺への不信感が強まったのだと思います」

「そうなの?困ったわねぇ。クラウスは昔から優しい子だったわね。だからミリアムさんの事を見捨てられなかった。それが仇となってアストリッドさんに嫌われちゃったのね。どうしたらいいのかしら。なんとか修復できないの?アストリッドさんとはもう私の娘と思えるぐらいに仲が良いのよ?」

 俺は優しいというよりヘタレと呼ぶのが正しいと思う。もうちょっとでも俺に甲斐性があったら去って行くアストリッドを追ったのだろう。だがアストリッドと復縁したいか?というとそうでもない。俺個人としては気の強すぎるアストリッドに好意はあまりないが王命ならば好きになるよう努力する。王太子としての立場で考えるならば王太子妃はアストリッドしかいないとも思っている。ザ・政略結婚。

「手紙を出しても返事は来ませんし、直接エッカート侯爵家の屋敷に伺っても門前払いです。俺は嫌われてしまったようです」

 会ってくれるようになったのはごく最近なんだけどね。ずっとないがしろにされてたのはむしろ俺の方だったんじゃないかと思えてきた。


「うーん、じゃあテオドールを王太子にしてアストリッドさんと婚約してもらおうかしら?クラウスはそれでもいい?」

 おおっ、弟のテオドール第二王子に全部ぶん投げる手があったか!流石かーちゃん天才だな!

「私はそれで構いません」

「そう?ごめんね、クラウスには悪いけどアストリッドさんが次期王妃になるのは決まっているのよ。その代わり何か欲しい物があったらなんでも言ってちょうだい?」


 何でも?今何でもって言ったよね?欲しい物?欲しいのは自由だけどそれは許されるのかな?とりあえず言ってみるか。

「そうですね……俺は王家から出奔して野に降りたいです。冒険者になって世界を旅して最後に野垂れ死にしてみたいです」

 せっかく異世界転生したんだから冒険だよな。王族なんていう窮屈な役割やらせられるのはもう勘弁してほしい。

「は?出奔?」

 目を丸くする王妃。

「冗談よね?」

「いえ、俺の王太子としての役割が終わったのならこれからは平民として自由を謳歌していきたいのです!」

 徐々に顔が険しくなっていく王妃。怖い顔しても俺に似て美形だな。


「そんなことを私が許すとでも思っているのですか?ビアンカ、クラウスを拘束しなさい!」

 なんと俺への拘束命令だ。ビアンカと目が合う。

「殿下、命令ですので拘束させていただきます」

「ビアンカ、抵抗しないから優しくしてくれ。母上、何でもくれると言ったのは嘘なのですか」

「クラウスはクラウスの部屋に閉じ込めておきなさい。一歩も出しちゃだめよ」

 俺は自分の部屋に閉じ込められることになった。






☆アストリッド視点☆

 王妃様宛にクラウスとの婚約破棄をお願いする手紙を送った。お父様とお兄様は私に賛同してくれたけどお母様は凄い顔して反対してた。お父様達は私を軽んじている王太子が悪いとやや不敬なことを言ってくれた。そうよ私は何も悪くない。あの取り巻きが一人もいないヘタレ王太子が論外なのよ。エッカート侯爵家に泥を塗ったあの女を助けたのは優しさじゃなくてヘタレだから。人を処罰することができないし人を使うことができない王太子なのよ。そんなダメ王子がエッカート侯爵家を軽んじて貴族制度を否定するのなら私が不適格の烙印を押してあげるのがこの国のためよ。

 そういえば昨日もクラウスが門前払いされてたわね。今頃私を怒らせたことを後悔してるのかしら。ん、ロッテが大慌てで走ってきたわね。何かしら。


「お、お嬢様!クラウス殿下との婚約破棄が成立しました。そしてクラウス殿下は王太子から退かれてテオドール第二王子殿下が王太子となりました!そしてお嬢様とテオドール殿下の婚約が打診されました。そしてクラウス殿下は出奔を願い出ましたが拒否されて王家に拘束されているということです!」

「婚約破棄成立、クラウス退位、テオドール新王太子と婚約、クラウス出奔を願い拘束……クラウス出奔を願い拘束?!」

 クラウスは平民になりたいの?

「クラウス殿下の護衛のビアンカによると、王太子の任が終わったので出奔して自由が欲しいと願って王妃様がそれを拒否されたそうです」

 自由?そっか、クラウスは自由が欲しかったのね。じゃあ私との婚約も嫌だったのかしら?政略結婚だったものね。


「お嬢様、クラウス殿下に未練が無いのなら私がクラウス殿下を養ってもいいですか?」

「え?」

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