第3話 ミリアムの取り巻き

 国王である親父に護衛を貸して欲しいと頼んだら近衛騎士であるビアンカ・フォン・フック騎士爵を紹介された。俺と同い年でありながら騎士爵を賜っている凄い女性だ。女が護衛なのは魅了魔法による攻撃のことも報告済みなので女の方がいいだろうということだ。俺の青春は擬似ハーレムができつつあるな。


「クラウス王太子殿下、護衛の任につきましては王家の威光を傘に着るような振る舞いをすることをどうか許していただきたい」

「わかった、これからよろしく頼む」

 たぶん水戸黄門の助さん格さんみたいに「頭が高い!控えおろう!」みたいなことをやるんだろう。




 学院では俺の婚約者のアストリッドの悪評が立ってしまっている。これはアストリッドを追い落としたい勢力が結構いるということかもしれない。俺とアストリッドとロッテさんとビアンカの4名はまた王族用のラウンジでお茶をしばいている。

「アストリッドの噂の発生源はミリアム男爵令嬢からなのかな?」

「そうみたいなんだけどミリアムの取り巻き……多分魅了魔法の被害者の男子生徒が広めてるみたいね」

 アストリッドは淡々と奇妙な光景への感想を述べていく。

「男爵令嬢に取り巻きができているのは不思議ですね」

「殿下に名前を覚えてもらった方が利に繋がるであろうにな」

 ロッテさんとビアンカも話に乗ってきた。

「俺は王族用ラウンジに引きこもってるからそういうのは無理かな」

「王太子なのに取り巻きがいないのもかなり奇妙よね」


「それでどういう悪評なんだ?」

 俺は意を決して聞きづらそうなことを聞いてみた。

「それが……早くも殿下を尻に敷いているとか、殿下を見下しているとか、2人は既に同衾しているとか……」

「同衾以外は事実だしそのぐらいなら許容範囲だな」

 なんだもっと酷い噂かと思った。たぶんそれだったら俺の噂の方が酷いことになってると思うぞ。ハーレムクソ王子とか。

「王妃教育で毎日王妃様と会うので報告済みなんですが、王妃様ったら大笑いして、もう結婚して子供作っちゃいなさいですって。そうしたら丸く収まるって」

 ああ成程、そういう解決方法があったのか。かーちゃん天才だな。それなら誰も傷つかないしハッピーエンドだ。

「アストリッド、じゃあ俺と子作りする?」

「まずは結婚ね。それと私にエロい話したらひっぱたくわよ。ハーレムクソ王子」

 ハーレムクソ王子は今日から俺の二つ名となってしまっているらしい。


「なんかさ、俺達の結婚で簡単に対処できそうだしミリアムの取り巻きで試してきていい?」

「え?何するの?危ないのはダメよ」

「ちょっとやってみたいことがあって。それで魅了の解除ができるんじゃないかなと思ってる」

「へぇ、で、何するの?」

「俺、ディスペルが使えるんだ」

「ディスペルって解呪の魔法よね?そんなの効くの?」

「だからやってみるんだよ」

 というわけで俺とビアンカはラウンジを出てミリアムの方に向かった。


 ミリアムは俺に気がつくとニコニコして寄ってきた。

「あっクラウス殿下こんにちは!アストリッドさんに愛想を尽かして私のところに来てくれたんですね!」

「やぁミリアムさん、相変わらず不敬だね」

 俺はミリアムの取り巻きを見渡す。全員男で逆ハーレムか。ここに俺を加えて完成ってとこだろうか。ここに加わっても結果的に発情した男に囲まれてしまうので嫌だな。

「君たちは何でミリアム男爵令嬢にはべっているの?」

「はい殿下、ミリアム嬢は魅力的な女性でとても優しくて私の長年の悩みを瞬く間に解決してしまったのです!私の全てを捧げていいと思っています!」

「俺もです」「私もだ」「おらも」「うぉぉぉーっ」

 すごい、ディスペルするのが躊躇われるぐらいの忠誠心というか恋心というか。それを俺が解除してしまってもいいのだろうか?

「殿下?彼らを救わないのですか?このままでは皆不幸になるだけですよ!しっかりしてください!」

 ビアンカが喝を入れてくれた。よし、やるぞ。


「ディスペル」


「……あれ?私は一体何を……殿下、私は王家への忠誠を忘れて甘美な夢に溺れていたようです。何故伯爵家の私が男爵令嬢に求婚していたのでしょう。たしかに可愛らしいとは思いますがそこまで入れ込むのは自分のこととはいえちょっとおかしい」

 どうやらディスペルで魅了が解除されたようだ。ミリアムの元取り巻きがざわざわしだしている。

「え?みんなどうしちゃったの?えいっ!」


<魅了魔法がレジストされました>


「おおミリアム嬢!あなたへの恋が一瞬でも冷めてしまったことが恥ずかしい!どうか私を見捨てないでいただきたい!ウヒヒー!」

 ミリアムが魅了魔法を使ったようで取り巻きがウォーと言い出した。それならば俺も解呪を使うとしよう。


「ディスペル」


「うっ、殿下……私は一体どうしてしまったのでしょうか。私に悪魔が取り憑いてしまって心が操られてしまっているのかもしれません。このままでは殿下に迷惑がかかってしまう故にここで私は自害させて頂きたく存じます」

 あれ?なんか魅了のテンションの上げ幅とディスペルのテンションの下げ幅が増えてないか?

「自害はダメだ!ビアンカ、取り巻きたちを拘束しろ!」

「えっ?本当にみんなどうしちゃったの?」

 ミリアムが呆然としている中、ビアンカが貴族の子息たちを拘束していく。これは命を優先しただけで罪に問うためのものではない。

「ちょっとあなたたち何やってんのよ!」

 アストリッドとロッテさんも騒ぎを聞きつけてやってきた。これは結構な大騒ぎになってしまったようで学院長もやってきた。俺とミリアムは学院長に事情聴取されるのだろう。

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