16eme. 俺の出会いは前後賞付。


 それから洗濯物が乾くまで、俺はわかば先輩とジャッカスさんとの三人で雑談に花を咲かせた。


 わかば先輩の家庭は、クロの家と少し似ていた。


 従兄が親父さんを失ったように、わかば先輩はお袋さんを亡くされていた。自分を産んだせい、というのも語ってくれたので少し驚いた。


 クロもクロで親父さんが亡くなったのは、自分のせいだって思っている。本当は従兄じゃなくて、俺が秘密基地に誘ったせいなのに。


 自分が同じ境遇でも、こんな気軽に人に話せはしない。なんて強い人なんだ、って思った。


 人の気持ちを察するのが上手い理由が、俺は何となく分かったかもしれない。


 わかば先輩は、きっと自分の立場で考えてくれている。もしかしたら、この人はクロ以上にモテるのかもしれない。魔法でも使ったのかって、思った自分が恥ずかしくなった。


 でも考えてみれば、クロも同じだ。


 こっちの感情なりが見えたところで、それに気づいたとしても、何も行動しなければ意味がない。


 魔法を使って感情を見ていたとしても、俺がどうして欲しいかを考えてくれていたんだ。きのみさんが特別なスペシャルと言った意味が、ようやく分かった気がした。


 制服が乾いたと、相原が部屋に入ってきた。着て帰るつもりだったけれど、紙袋に入れて渡された。


「じゃあ、これ洗って。明日、CDと一緒に持ってきます」


 着ている服を指して俺が言うと、ジャッカスさんは満面の笑みを浮かべた。


「その服、やるよ」


「要らないだろ」


「要りません」


 わかば先輩と俺が同時に言った。こんなサイズの合ってない服を貰ったところで、普段使いで着れるわけがない。


 将来的に大きくなれば使えるかもしれないけど、その時その気があったら下さいと言っておいた。


「それじゃ、俺のお詫びが」


 ジャッカスさんが言った瞬間、わかば先輩が小さな袋を通学カバンから取り出した。


「これジャッカスの分だったんだけど、ソラくんにあげるよ」


「おま、それ、俺のマカロン!」


 お前、本当に詫びる気があるのか。と、わかば先輩が睨んだら、ジャッカスさんは泣く泣く諦めたようだった。


「別にそこまでしなくても……」


「もしかして、他人の手作り食べれないタイプ?」


 世の中には知らない人が作ったものは、食べられないという人間がいる。俺がそうなんじゃないかって、わかば先輩は気にかけてくれたみたいだ。


「いえ、大丈夫です。手作りでも……」と言いかけて、俺はさっきのジャッカスさんの言葉を思い出した。


「……え? マカロンって、さっき言いましたよね?」


 甘いものが大好物の俺も、マカロンは大好きだ。でも家庭で作れるなんて話、聞いたこともない。


「ああ、男の手作りだから、嫌かもな」とわかば先輩は苦笑いになった。


「もしかして……わかば先輩が作ったんですか?」


 その言葉に、わかば先輩は照れくさそうに頷いた。もしかして、俺は凄い人と知り合ったのかもしれない。


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