14eme. その人は恋愛マスターだとか。
バイク着男が大声を上げたので、駆け付けた相原にまでスッポンポンを見られそうになった。ずぶ濡れの人が止めてくれたから、セーフだったけど。
そして、バイク着の方が噂の相原の兄、ジャッカスという男らしい。自己紹介で名前は言ったけど、ジャッカスと呼んでいいらしい。
ずぶ濡れの制服を着た人は、みぃなチャンと呼ばれてたけど。俺は流石に苗字に先輩を付けて呼称する。若葉田だと長いので、わかば先輩で良いらしい。
やっぱりジャッカスさんの服だから、凄くダボダボだった。
ズボンも入らなかったので、「光のスパッツ使うか?」と聞かれた。それだけは勘弁と断ったら、ベルトまで用意させてしまった。
わかば先輩が部屋で着替えている間、リビングではジャッカスさんが俺に土下座した。でも相原には世話になっている上、兄には間接的にCDを借りている。
「気にしないでください」って俺は言ったけど、相原にもジャッカスさんにお詫びをさせるように言われた。財布まで出してきたので、流石に困ってしまった。
最初はバイクで水ひっかけたり、いきなり脱衣所を開けたりする破天荒な人間かと思ったけど。ジャッカスさんはイカツイ見た目の割には、人間が出来ているように思えた。
自分が悪いとはいえ、普通は妹と同じ年の奴に土下座までは出来ない。
そりゃあ、相原の兄なだけあるか。家もお金持ちみたいだし、その辺りはちゃんとしているのかもしれない。
だからと言って、現ナマを受け取るわけにもいかない。本来なら、こっちがCDのレンタル料を払わなきゃいけないくらいなんだ。
「……それじゃあ」と俺は相原から少しジャッカスさんを離して、小さな声で話掛ける。
「ジャッカスさんって、恋愛経験って、豊富ですか?」
本当は耳打ちしたかったけど、身長差が有りすぎて無理だった。
「当たり前だろう。総合高校の恋愛マスターとは、このジャッカス様じゃい」
ジャッカスさんの出した学校名は、クロの通う高校だった。そういえば、わかば先輩が着ていたのも、従兄と同じ制服だった。
冷蔵庫から瓶のコーラを三本取り出して、ジャッカスさんは俺に手渡した。
「光。洗濯終わるまで、ソラっち借りるぞ」
「え? うん、分かった」
「行くぞ」
ジャッカスさんは高価そうなグラスを三つ持って、俺を廊下へと案内した。その先にある三つの部屋、一番奥のドアをジャッカスさんが開ける。
上半身裸のわかば先輩が、驚いた顔をこっちを向けた。
まだ着替えている最中だったのか、俺もかなりビックリした。なのに、ジャッカスさんは顔色一つ変えずに、部屋のテーブルにグラスを置いた。
「おま、閉め、ジャッカス!」
わかば先輩が慌てて、部屋のドアを閉めた。プロレスラーみたいに肩幅があって、立派な腹筋だと思った。クロじゃなくて、この人の前世がギルド一の戦士なんじゃないかと思った。
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