6eme. その魔法は未知の領域。
詳しく話を聞いた所、従兄であるクロ。その友達のきのみさんも、天同様に前世の記憶のある人間だった。
前世持ちって言ってたけど、前科持ちみたいで聞こえが悪すぎる。
クロはギルド一の戦士、ギムレット。きのみさんはギルド一の魔術師、ブロッサム。
ホントに本当に胡散臭すぎる話だけど、従兄は嘘をつくのが大嫌いな人間だと知っている。信じられないけれど、本当の話なんだろう。
これでクロが剣道が強い理由も、きのみさんが綺麗な顔をしている理由もハッキリと分かった。
クロもきのみさんも、黙っててゴメンと頭を下げた。その理由も何となく察しはつくから、俺は大丈夫だと言った。
天は先ほど俺に聞かせた世界での話を、二人に説明し始めた。
前世のクロが竜探しに出て、その後に前世の天が部隊を任された。そして、悪い魔法使いに呪文を掛けられた。
「……でもそれは、わたしが一応は何とかしたじゃない」
こんな悲しそうな顔をするきのみさんを、俺は初めて見たかもしれない。
何度か彼女はアオさんと一緒にウチに遊びに来てるけど、いつもニコニコしてるし。訳の分からない話をして、場を盛り上げるムードメーカーなんだ。
だから、どっちかって言うとクロには、きのみさんとくっ付いて欲しいって思っている。そうなると、梨花がどんな顔するんだろうか。
「うん。だけど、やっぱり駄目だった。ほら、遠征任務とかで会えない日だってあった。その度に、自分の見えない所でクレアが苦しんでいると思うと……」
天も似たような顔をしていた。前世の記憶が二人をこんな顔にさせるんなら、無い方が良かったんじゃないかって思った。
「もしかして」とクロが苦い顔をした。
「ラスカの呪いって、今のソラにも?」
天が静かに頷いた。何だそれ、何も聞いてないぞ。
「僕も最初は、梨花さんかと思った。けど、それが決定打」
そう言ってから、天は俺と向き合った。
こっちはまだキスの感触が残っているからか、真っ直ぐ目を見づらかった。そんな気持ちも知らず、彼女は驚くべき行動に出た。
ごめん、おっしー。と一言告げてから、天は自分の頬をビンタした。バチンという大きな音に、俺の背筋が凍ってしまいそうになる。
「ちょ、何やってんだお前!」
天を見ると、痛そうな顔を堪えて、うずくまっていた。自分で叩いた頬が、赤くなっていた。
クロは目を丸くしていたし、きのみさんは何故か苦笑いをしていた。
とにかく濡れタオルを当てないと。持ち物を何か探したけれど、俺はハンカチすら持ち歩いてなかった。
「……ギムレット、状態可視って頂戴」
俺はカウンターの方へ行き、おしぼりか何か無いか尋ねてみた。ファミレスにあるような使い捨てのだけど、無いよりかはマシだろう。
「うん。やっぱり、わたしの魔法が利いてるんだね」
席に戻ると、きのみさんが謎の会話をしながら、天の頬に手を当てていた。赤くなっていた彼女の頬は、何事も無かったかのように元に戻っていた。
「……え?」
よく分からない光景に、おれは持っていたおしぼりを落としてしまった。嘘だろう。今のビンタって俺が見る限りだと、本気で力を入れたように思えた。
天がこちらを見た。落としてしまったおしぼりを拾い、俺へと手渡した。
「おっしい、わざわざ持って来てくれたんだ」
ありがとう。と彼女は元に戻った頬で、タンポポのような笑みを浮かべた。
「これがわたしの魔法だよ、凄いでしょ? 褒めていいよ」
彼女は一体、何をしたっていうんだ。
何故、天もクロも平気そうな顔をしているんだ。
俺は改めて、きのみさんの方を見る。彼女が浮かべた笑顔は朗らかだったのに、少しばかりの恐怖を覚えた。
この場から逃げ出したい、という感情が芽生えた。その瞬間、クロが俺の手を掴んだ。
「怖がらなくていい」
優しい口調だけど、真剣なクロの瞳が俺を見ていた。
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