5eme. 俺の好みは甘い物。


 我々四人が入ったのは、駅前のドーナツ屋だった。


 俺は普通のオールドとコーラ、クロは大人っぽいから珈琲だけ。天も何も取らずに、レモンティのみ。


 きのみさんはイチゴのドーナツと、クリームの穴無しと、ミルクティをトレイに載せていた。食いしん坊か。


 他にも、従兄達の高校の制服を着た生徒は居たけれど。声を掛けてこないというならば、二人とは違うクラスの人達なのかもしれない。


 ポカポカの窓際で、ふかふかのソファ席。クロときのみさんの正面に、俺と天は並んで座った。


 こうして見ると、制服姿の男女二組って、完全にダブルデートのように思えるけど。


「エチュ、ヴァネッセ?」ときのみさんが言った。


「ヴァネットシドル語やめろ」とクロが呆れた顔で言う。


 会話がこれだもんな、と俺は辟易しそうになった。


 これじゃあ、ダブルデートだなんて雰囲気になりやしない。きのみさんもクロも天だって、そうは思ってないかもしれないけどさ。


「ギムレットは記憶、戻ってたんだね」と天が言った。クロは何故だか、神妙な顔をする。


「戻ったって言っていいのか? ……まぁ、とりあえず、ギムレットだった時の記憶はある」


 その台詞に、今度はこっちが変な顔になりそうになった。ふざけているのか、あるいは話に乗っているだけなのか。だとしても、会話が通じすぎているような気がする。


「っていうか、キミ誰?」


 クロの言葉を耳にした瞬間、天が驚いた顔になる。信じられないものを耳にしたという感じだ。


「僕だよ、忘れたの? 一緒に戦ったじゃん!」


「……え? 誰? ギルドの奴?」


 困惑するクロの横では、きのみさんが呑気にドーナツを頬張っていた。相変わらずマイペースな人だと思った。


「ブロッサム、判るか?」とクロは謎の名前を出して、きのみさんに振った。


「状態可視れば、いいじゃん」


 何だよ。じょうたいかしれば、って。きのみさんは謎の単語を出して、再びドーナツを頬張る。この人も当事者のようだけど、何でそんなに他人事みたいに接しているんだろう。


「え、君、ブロッサムだったの?」


 天の驚きの声に、きのみさんがブイサインを作って自分の目元に掲げた。


 あれって、梨花がよく写真撮る時にやるポーズだ。きのみさんって結構、俺の姉を好きなのかもしれない。


「いえすっ、天才魔導士ブロッサムです」


「だからさっき、君の魔法がクレアに通じたんだ!」


 もう彼女達の言っている意味が一つも理解出来なくて、さっさと帰ってゲームでもやりたくなってきた。


「……あ、君。ボルドシエルか!」ときのみさんが笑顔で言った。


「うん。久しぶり、ブロッサム!」と天も満面の笑みで言った。


「……マジかよ、お前ボルドシエルかよ!」とクロが驚いた顔で言った。


 俺はといえば、もうどうでも良くなったので、ドーナツに集中をする。こいつらの話には、もう付いていけない。


「そうだよギムレット、何で気づかなかったのさ!」


「気づくかよ、馬鹿犬! お前ら獣人はいつもそれだな! 人間の姿で気づけって言われても、判る訳ねえだろ!」


 クロが何か喚いているけど、俺はドーナツにコーラは失敗だったと後悔した。


「そんな事より、やっぱりソラくんがクラウディアだったんだ?」


「……やっぱり?」


 きのみさんとクロが何か言っているが、今からでも別の飲み物を買ってこようか考えた。ドーナツなら、やっぱりミルクたっぷり入ったカフェオレあたりがいいのかも。


「ギムレットってクラウディアと面識無いから、気づかなかったのかもだけど。わたしは梨花ちゃんか、ソラくんのどっちかだって思ってたよ」


 俺と梨花が似ているって話を、きのみさんがした気がしたけど。とりあえず気にせずに、クロのコーヒーをちょっと分けて貰う事にした。


「そもそも、クラウディアって?」


「魔導士ギルド長の娘で、僕の婚約者」


「……え、お前、いつの間にそんな相手と」


 クロが何か驚いている隙に、勝手にコーヒーに口をつける。


「ギムレットだって、メアリーとの事隠してたでしょ」


「まぁ、バレバレだったけどね」


 クスクスと何か、きのみさんが笑ってた。っていうか、コーヒー苦い。ミルクと砂糖入れてしまえ。


「ソラとそのクラウディアって子、そんな似てるのか?」


「俺は梨花と似てねえよ!」


 関係ない振りをするつもりだったけど、思わず俺は反応してしまった。


 周りにはよく言われるけれど、クロだけには言われたくないって気持ちが勝ってしまった。


「そんな事は言ってねえよ!」


 クロが即座に答えてくれたので、俺は少し安心した。やっぱり従兄だからこそ、こっちの気持ちを分かってくれているんだよな。


「じゃあ、誰と似てるって?」


「……おっしい、本当に話聞いてなかったんだ」と天が呆れた顔をした。


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