4eme. その足で向かったのは


 その足で向かったのは、クロ達の通う高校だった。一応、何時に終わるのかだけは聞いておいた。三時くらいと返ってきたので、丁度いい時間だった。


 天と二人で駅前を歩いてみると、放課後デートみたいだって思った。


 もしかしたら道行く人達にも、そう思われているのかもしれない。さっきから、チラチラと視線は感じるしな。天も可愛いタイプの顔だし、俺もイケメンだし。


 クロ達の通う高校は、山の中腹辺り。坂を上ると直ぐに校門が見えてしまい、そこで待つには一目がありすぎる気がした。


 坂の下にあたりに丁度いいベンチがあったので、そこで天と座って待つ。


「何か飲む?」


 天が道路向かいの自動販売機を指して言った。


「いや、クロはすぐ来るって話だから」


 俺は首を左右に振った。天は笑顔で頷いた。前までは色とりどりのチューリップみたいに思ってたのに、今はタンポポのような笑みだった。不覚にも可愛いとか、思ってしまった。


 キスされたからか、非常に意識してしまっている気がする。あのヴァネットなんたらとかいう、訳の分からない話さえなければ、天と付き合ってもいいって思うくらいだけど。


 実際、天の方はどうなんだろう。俺が前世の嫁だとか言うけどさ。もしかして、それをダシに俺と良い感じになりたいって、思っているだけなんじゃないんだろうか。


 いやきっと、そうに決まっている。今までだって冗談半分で俺が黒魔導士とか、天が蒼魔導士とかいう話もし合う仲だったしな。


 こうしてクロに会いに来たのだって、本当は俺に天を紹介させる為だろう。そういうんなら判ったよ。


 話声が聞こえたので、坂の先を見てみる。クロがきのみさんとアオさんと、三人で歩いて来ている。


 きのみさん、アオさんはクロの女友達で、俺とも見知った仲である。従兄も女子の友達が多いので、こっちも似たような状況なのを余り気にしないようにしている。


 上谷戸きのみさん。クロより少しばかり背が高くて、料理上手で綺麗な女の人。


 俺の姉とも仲良いから、たまに家に来てはお菓子を振る舞ってくれる。天然が入っているのか、たまに面白い事を言っては、場を和ませるムードメーカー。


 大丸アオさんは、俺より少し背は小さい。きのみさんが綺麗系ならば、彼女は可愛い系だ。


 年上を可愛いとか言うのは、失礼かもだけど。きのみさんがボケると、すぐさまツッコミを入れてくれる役。アオさんが居るからこそ、きのみさんの面白さが成立するのだ。


 多分、クロはどっちかの事が好きだ。悪いなクロ、従弟が先を越してしまうぞ。


「おーい、ソラ」


 クロが手を上げたので、俺も挙手で返す。


「なになに、ソラくん。この可愛い子は、一体誰?」


 一足お先にという感じで、アオさんがこっちへと近づいてきた。ニヤニヤして、やーらしい視線を俺に向けては、チラチラと天の方を見る。お姉さんに紹介しなさい、って言う感じか。


 本当はいの一番にクロに紹介したかったけど、アオさんは実の姉よりお世話になっている人だしな。


「えっと、アオさん。こいつは……」


「メアリーも生まれ変わってたんだ!」


 紹介しようとした俺の台詞を遮るように、天がまたよく分からない話を抜かした。


「……め?」とアオさんが目を点にした。


「おい、ちょっ……天! そら! ソラ、この野郎!」


 俺は天の肩を掴んで、アオさんから引き離す。


「お前、まだそんな話してたのか」


 黒魔導士と蒼魔導士の話だって、人前ではしないってのに。どうして今回に限っては、こんなに引っ張るんだよ。


「……そういえば、クレアはメアリーやギムレットとは面識無かったっけ」


 いけない、という顔をして天は言った。何を言っているのかサッパリだけど、いけないのはそういう意味じゃない。


「プコサテュ、メアリ?」


 謎の言葉に顔を上げると、いつのまにか、きのみさんが俺たちの前に居た。彼女は今、何て言ったんだ。


「ヴァネットシドル語! てことは君も関係者?」


 天が言うと、何故かきのみさんは甘い物でも見つけたかのように、嬉しそうな顔になった。二人が何かで通じ合ったような感じがしたけど、俺はそれが何だか全く分からなかった。


「わたしは……」


「おいっ!」


 大きな声を出して、クロがきのみさんの肩に手を乗せた。従兄の顔は今までに見た事もないくらい真剣で、少し怖いと思うくらいだった。


「……ごめんアオさん。少し用事が出来た」


 クロはアオさんの方を向き、苦笑いで頭を下げていた。


 一体、何が何だか。もう分からない。クロ、きのみさん、アオさん。ただの仲の良い友達だと思ってたけど、俺の知らない何かがあるっていうのかもしれない。


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