残り九十四話 発車アナウンス
SNSで知り合ったコキフさんはかつて筋金入りの鉄オタだったのだという。
音鉄――日本各地を巡り、様々な車両の走行音や、社内・駅でのアナウンスを録音しては楽しんでいたのだそうだ。
しかし今はもうその大半を処分してしまったという。
何故かと訊いたら、コキフさんは嫌な顔一つせずに話してくれた。
その日もコキフさんは駅のアナウンスを録音していたのだという。
いくつか録ったあと、その場ですぐに録音内容を確認したのだそうだ。
大体のものは歪みも少なく、今日の取れ高にコキフさんは満足し意気揚々としていた。
しかしその中に一つ、どうしようもない変なものが混ざっていた。
それは最後に録音した入線アナウンスだった。
アナウンスがところどころ妙にぶつぶつと切れている。と言うよりも、合間合間にノイズが挟まっているようだった。
自分の耳で聞いていたアナウンスは明瞭だったのにおかしいな。機材の具合がよくなかったのかな。などとコキフさんは考えた。
悔しさに何度も何度もそれを聞き直していたのだが、ある瞬間ハッと気づいてコキフさんはイヤフォンを投げ捨てるように耳から外した。
「……声だったんですよ。性別もわからないような。ずーっと「きて」って繰り返すだけの」
それ以来コキフさんは音鉄をやめてしまったのだそうだ。
しかしその録音データだけは未だに手元にあるらしい。
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